GREEN

GXとは?カーボンニュートラル実現に向けた事例と推進のポイント

SHAREこの記事をシェアする

GXは、カーボンニュートラルを軸としたグリーン戦略として、世界中でも大きな動きをみせている環境保全に対する取り組みです。環境だけでなく、同時に経済の成長も目指すこの活動は、我が日本国でも重要なテーマとして掲げられています。

本記事では、GXとはそもそも何なのか、カーボンニュートラル実現に向けた事例と推進のポイントについてわかりやすく解説します。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは

GXとは、 Green Transformation (グリーントランスフォーメーション)を略した用語で、脱炭素社会に向けた経済産業省が提唱する取り組みです。地球温暖化による異常気象や気候変動の加速をおさえることを目的としています。

SDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットにて採択されたことを起因として、GXは世界的にも取り組みが加速しました。

またGXでは、カーボンニュートラルによる環境保護だけでなく、経済成長の両立も目指す活動である特徴も兼ね備えています。

カーボンニュートラルとの違い

カーボンニュートラルとGXは、以下のように明確に違いがあります。

  • カーボンニュートラル:温室効果ガスの吸収量と排出量を均衡させること
  • GX:地球温暖化による異常気象や気候変動の加速をおさえること

カーボンニュートラルの意味を簡単に説明すると、以下のようになります。

CO2などの温室効果ガスの排出量をなるべく抑え、削減できなかった分は植林や森林の管理によってCO2を吸収する環境を整え、差し引きをゼロにすることです。

経済産業省は、カーボンニュートラルを2050年までに実現する目標を立てています。

GXが注目される理由

GXが注目されている理由は、経産省の基本方針において、2030年度までに温室効果ガスを現在の46%を削減するという目標や、2050年カーボンニュートラルの実現(達成)を宣言したことに起因しています。同時に、脱炭素分野で新たな需要や市場を創出する目的もあります。

これは産業革命以来、化石エネルギーを中心とした社会構造や産業構造がクリーンエネルギー中心へと転換されることを意味し、戦後の産業やエネルギー政策の大転換と言えるでしょう。

またEUでは、新型コロナウイルスの影響で被った経済的な打撃を回復させるため、再生可能エネルギーなどの脱炭素化技術に、35兆円以上を投資することを明らかにしました。

アメリカも同様に、異常気象や食糧難によって「経済格差」や「人種問題」が悪化することを危惧しており、北極海の氷が溶けることによって、ロシアや中国の軍事活動が変化する可能性にも危機感を示しています。

そこでバイデン政権は、クリーンエネルギーへの2兆ドル(約210兆円)規模の投資を行い、経済再構築や成長促進、雇用創出を目指します。同様に、中国も国家間の産業競争力に影響を与える気候変動対策に注力しています。

つまり、世界的な脱炭素化は、国家間のあり方や政治・制度、社会全体のインフラを脱炭素化に切り替えることで実現されるのです。この変革には、企業経営や一般消費者のライフスタイルも大きく影響を受けます。

このような世界的なさまざまな状況から、GXという概念が生まれました。

GXのメリット

GXを実現するとどのようなメリットがあるのでしょうか。

以下、それぞれのメリットについて解説します。

  • 企業ブランドのイメージ向上
  • 人材の確保
  • 資金調達
  • コスト削減

企業ブランドのイメージ向上

環境問題に取り組む姿勢は、企業のブランドイメージの向上を期待できます。環境問題は、われわれ国民の生活だけでなく、事業者や自治体の経済活動へ与える影響が大きいため、重点課題として解決に力を注ぐべきなのです。

人材の確保

GXに取り組み、企業ブランディングによって求職者を集めやすくなる利点もあります。

2020年代における若手人材は、環境問題への意識が高いため、カーボンニュートラルの実現に取り組んでいる企業に対しての評価も高い傾向にあるのです。

したがって、就職活動中の学生からも高評価を得やすいと言えます。

それにより、専門知識やスキルを持った優秀な人材が集まりやすくなるため、労働人口が減少している問題の解決にもつながるでしょう。

資金調達

ESG投資とは、環境や社会、企業統治に配慮している企業を重視、選別して行なう投資です。頭文字それぞれの意味は、以下となります。

■E:環境(Environment)

二酸化炭素の排出量が多くないか、環境汚染をしていないか、再生可能エネルギーを使っているかなど

■S:社会(Social)

社会活動への貢献度、労働環境を改善しているか、女性活躍の推進など 

■G:企業統治(Governance)

収益を上げながら、不祥事を防止する経営

ESGの評価が高い企業は、事業の社会的意義や成長の持続性など、優れた企業特性を持つと言えます。欧米を中心に広く浸透しており、年々拡大傾向にあるため、ESGの評価を上げることが資金調達にもつながるといえるでしょう。

コスト削減

企業は、排出量の多い化石燃料を、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに置き換えることで、温室効果ガスの排出量を大幅に削減できます。

それにより、他社から購入していたエネルギーを、自社で生み出すこと可能となり、大きなコスト削減を図れます。

GXに対する日本政府の取り組み:GXリーグとは

GXリーグとは、GX推進に向けビジネスモデルや社会構造の変革を進めるため、具体的なシステム変革に関する議論・実施を行う場のことです。

官・学・金(政府や自治体・大学や高専・金融機関)が一体となり、新しい市場を創りだす取り組みを目的に経済産業省が創設しました。

GXリーグ参画企業には、以下3つの取り組みが求められます。

  • 自社の排出量削減への取り組み
  • サプライチェーンにおける、炭素中立に向けた取り組み
  • 製品やサービスを通した市場における取り組み

「自社の排出量削減への取り組み」は、自社における温室効果ガスの排出量について、削減目標を具体的に設定し、削減に向けた取り組みが求められます。

「サプライチェーン(※1)における、炭素中立に向けた取り組み」では、自社のバリューチェーン(※2)において、温室効果ガスの排出量を抑制する活動を含めることが求められます。

※1:サプライチェーンとは、製造業において、原材料から製造、輸送から販売までユーザーの手に届くまでの一連の流れを指す用語
※2:バリューチェーンとは、製品の製造や販売だけでなく、開発や労務管理など企業すべての活動を「価値の連鎖」としてとらえる考え方。競合他社と比較し、自社の強みと弱みを分析して事業の改善策を考えるためのフレームワーク。

自社を含めた取引先だけでなく、ステークホルダーへもカーボンニュートラル実現に向けた活動への理解を促進することも必要です。

「製品やサービスを通した市場における取り組み」については、開発過程や使用段階で、排出量を削減できるサービスや製品の開発が求められます。

【国内】企業のGX取り組み事例

こちらでは、国内企業におけるGXの取り組み事例について紹介します。

日産

日産自動車株式会社は、「GXリーグ基本構想」に賛同しています。

原材料の採掘から生産、車両の使用および使用済みの車両のリサイクル、再利用までを「車のライフサイクル」と定義し、2050年までにカーボンニュートラル実現を目標としています。2030年代早期には、主要市場で販売する新型車すべてを電動車両とする計画を発表しています。

三菱ケミカルホールディングス

三菱ケミカルホールディングスは、以下の方針を策定しています。

  • 2030 年度までに、温室効果ガス排出量をグローバルで 29%削減
  • 2050 年までに、 温室効果ガス 排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルを達成

目標達成に向けて、以下3つの取り組みを実施しています。

【1. エネルギー転換の実施】

国内事業所や工場において、環境負荷の低い発電の導入を進め、石炭火力発電から脱却を目指します。

【2. 社内炭素価格制度の導入】

社内炭素価格制度とは、社内で炭素の価格を設定して、温室効果ガスの排出量を金額として換算することで排出削減を動機づける制度です。

削減の貢献についても評価の対象とし、設備投資の判断指標の一つとしています。

さらに、将来的に研究開発の投資判断について同制度を拡大し、事業戦略の指標としても利用するとしています。

【3.ライフサイクルアセスメント実施体制の強化】

国内事業所および工場で生産される全ての製品を、カーボンフットプリント(原料含む製品製造までの温室効果ガス排出量)を算定できる体制を確立しています。

NTT

NTTは、2030年までに再生可能エネルギーの利用率を30%以上に引き上げる「環境エネルギービジョン」を宣言しています。

また、「NTT Green Innovation to ward 2040」を掲げて、温室効果ガス45%削減を目標とし、カーボンニュートラル実現にむけ、積極的な取り組みを実施しています。

【海外】企業のGX取り組み事例

こちらでは、海外企業におけるGXの取り組みについて解説します。

Apple

温室効果ガスの排出でカーボンニュートラルを達成しているAppleは、2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラルの達成を約束しています。具体的には、以下の取り組みを実施しています。

■低炭素の製品デザイン:

当社の製品に低炭素の再生材料を使用し、画期的な方法で製品のリサイクルに取り組み、可能なかぎりエネルギー効率が高くなるような製品のデザインを手掛けています。

それにより、2009年から2020年において、製品を使用するために必要なエネルギーを73%削減しています。

■エネルギー効率の拡大:

エネルギーの使用を削減する新しい手法を、サプライチェーン全体でも採用するよう働きかけ、二酸化炭素排出量を年間で779,000メートルトン以上削減しました。

■再生可能エネルギー

新規の電力プロジェクトによって、サプライチェーン全体をクリーンエネルギーへ移行させる計画をしています。

同計画を確約したサプライヤーが70社以上となり、製品の製造に使用される電力約8ギガワット分に相当。年間、1430万メートルトン以上のCO2e排出を削減したことと同様となります。

■工程と材料における革新

製品に必要な工程、および材料の技術的な向上を通じて、温室効果ガス削減に取り組んでいます。それによって、フッ素化ガスからの排出量を、242,000メータートン以上削減しました。

■二酸化炭素の除去

大気中のCO2除去のために、森林やその他の自然に基づくソリューションに、世界中で投資しています。100万エーカー以上の森林の管理や、アメリカ、中国、ケニヤ、コロンビアにおいて、自然気候ソリューションの保護や向上に取り組んでいます。

Amazon

Amazonは、2040年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。

2030年までに、商品を配送する全車両を電気自動車に置きかえる計画を発表しました。この取り組みにより、CO2排出量を年間400万トン削減する計画です。

また、2024年までに再生可能エネルギーの電力比率を80%へ、さらに2030年までには100%を達成させる計画です。

Google

Googleは、カーボンニュートラルを2007年に既に達成しています。さらにカーボンレガシー(CO2排出量の遺産)の相殺にも成功していると発表しています。

また、2030年までに、世界中のデータセンターや事業所でカーボンフリーエネルギーに転換するとしています。

風力発電や太陽光発電を組み合わせ、電力需要の最適化や予測を行うAIの活用に力を入れています。

主要拠点においては、カーボンフリーエネルギーへ50億ドル以上を投資するとし、実現すると最大で2万人以上の雇用創出、さらに1ギガトン以上(年間)のCO2排出量の削減が見込まれます。

GX推進のポイント

自社において、GXを推進していく際のポイントについて解説します。

CO2の削減

まずCO2を多く排出している業務を見つけ出し、どのように削減できるかについて取り組む必要があります。

2018年度の、日本における温室効果ガスの総排出量は、約12.4億トンでした。エネルギーを起源としたCO2の 排出量は10.6億トンとなり、温室効果ガス総排出量全体の85%を占めています。

引用:経済産業省 「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?

エネルギー起源のCO2とは、運輸や発電、産業、家庭における加熱など、化石燃料をエネルギー源として使用した際に発生したCO2を指します。

温室効果ガスの排出量を抑えるためには、エネルギー起源のCO2を削減することが重要です。

そこで、CO2の発生源を「非電力分野」と「電力分野」に分け、CO2を削減する方法を整理したのが以下の図となります。

引用:経済産業省 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

再生可能エネルギーの利用

再生可能エネルギーには、太陽光や水力、風力や地熱、バイオマスがあります。

太陽光発電や風力発電のように、再生可能エネルギーは電気へと変換する方法が使用しやすいやり方です。

また、大型ビルや工場においては、化石燃料(石油や天然ガス、石炭など)を大量に使用しています。将来的には、中期においてこれらの化石燃料は、合成メタンへ置き換える構想があります。

合成メタンは、水素とCO2を反応させて製造します。合成する段階でCO2を取り込むため、合成メタンを燃焼して出るCO2と相殺され、排出量がゼロとみなされるのです。

まとめ

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、カーボンニュートラルに向けた取り組みで、地球温暖化による異常気象や気候変動の加速をおさえることを意味します。

2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言したことに起因して、EUやアメリカを始めとした全世界で取り組みが拡大しています。

企業や自治体だけでなく、われわれ個人もこうした世界の動きについて意識を傾けることが大切だと言えるでしょう。

PEAKSMEDIA編集チーム

PEAKS MEDIAは製造業の変革やオープンイノベーションを後押しする取材記事やお役立ち情報を発信するウェブサイトです。

際立った技術、素材、人、企業など多様な「 PEAKS 」を各企画で紹介し、改革を進める企業内イノベーターを1歩後押しする情報をお届けします​。

SHAREこの記事をシェアする