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モノづくりを簡単に。京都でつくるスタートアップエコシステム|Monozukuri Ventures【後編】

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スタートアップへの投資額は右方上がりで向上しており、2027年度までに10兆円規模に引き上げる政策が発表されるなど、スタートアップの資金調達の環境は整いつつある。中でも電気自動車(EV)やAI技術を用いたロボティクス、宇宙産業などハードテックへの期待が高まっている。一方で、ハードウェアスタートアップにとって、資金調達は厳しく未だ多くの困難を抱える現状だ。

後編では、ハードウェア・ハードテックに特化したVC、株式会社Monozukuri Venturesの牧野成将さんにハードウェアスタートアップの壁を越える方法やゼロイチの環境づくりについてお話を伺った。

プロフィール

株式会社Monozukuri Ventures CEO 牧野成将さん

神戸大学大学院時代に選んだ「ベンチャー企業」研究から現在まで、この道一筋。京都、大阪のVC、公益財団法人京都高度技術研究所を経て、2015年に京都で独立。2020年に提携していたニューヨークの会社と経営統合し、株式会社Monozukuri Venturesを設立、CEOに就任。ハードウェア・ハードテックスタートアップに特化したコンサルタント業務と投資で、2022年にはアメリカの経済誌「フォーブス」のThe Top 40 Investors In Industrial Techで紹介されるなど、世界を舞台に活躍中。

Hardware is Hardを京都から変える

サービスや製品が世に出るまでには、4つのフェーズがある。ハードウェアスタートアップの難しいところは、さまざまな段階で時間とコストがかかるという点が挙げられるだろう。ソフトウェアの研究・開発フェーズではフィードバックをもらいながら調整することができるが、ハードウェアは、最初から物を作らなければならない。さらに、フィードバックにも、ソフトウェアに比べて時間を要す。

さらに、量産のフェーズがハードウェアにとって大きな壁となっている。「ソフトウェアは開発と量産はほぼイコール。しかしハードウェアでは、設計の手法から調達する部品まですべてが変わってくる。試作品1つなら3Dプリンターで作れたとしても、量産化では完成に近いものを作らなければならず設計書がまったく変わってくるんです。材料もAmazonでも買えるものから商社から仕入れる必要があるなど、より自社だけで完結しなくなる」。

「これが、ハードウェア・ハードテックスタートアップの壁といわれている”死の谷”です。世界中でハードウェア・ハードテックスタートアップへの期待は高まっています。しかし、彼らは皆、量産試作の壁に困っている。さらに、事業拡大するフェーズでも、ハードウェアの場合はビジネスパートナーや大企業とのアライアンスが必要になってくる。アイデアのあるスタートアップが、ソフトウェア同様スムーズに進める環境を作ることを目指しています」。

Monozukuri Venturesにはモノづくり経験者であるテクニカルメンバーが在籍しており、プロダクト開発における量産試作のアドバイスや試作パートナーの紹介など、その必要性を見極めてアドバイスする体制がある。中でもMonozukuri Venturesが京都に拠点を置く一番の理由ともいう京都試作ネットは、量産試作の壁を越える最大の強みである。

京都試作ネットは京都府下の中小企業40社が「京都を試作の一大集積地にする」をビジョンに掲げ、2001年に発足した試作サービスソリューションチームである。図面のない、構想段階からの試作やデザインなども手掛け、Monozukuri Venturesと共にスタートアップのものづくり支援も行っている。

資金面だけでなくコンサルティングも併せてサポートするのが、Monozukuri Venturesの役割だ。
牧野氏が言うように、ハードウェア・ハードテックはソフトウェアに比べて課題となるフェーズが多い。そのため、早期エグジットを期待するVCにしてみると、投資するインセンティブが感じられないこともある。しかし、牧野氏はハードウェアの可能性について、こう続ける。

「スマホでは取れないデータもありますよね。例えば、身体やものの動きなどのデータを取ろうと思ったら、新しいハードウェアの開発が必要です。このような、ソフトウェアだけでは解決できない課題に対しては、現実問題としてハードウェアが必要になってくるんです。そこに、ハードウェアの可能性が潜んでいるんじゃないかと思っています。“Hardware is Hard”といわれる状況ではありますが、さまざまなフェーズでのハードルを乗り越えられれば、参入障壁が高いビジネスでのポジションの確立につながります」。

いったん成功すれば、他の追随を容易に許さないことがハードウェアスタートアップの魅力といえるだろう。

〈キャプション〉ソールにセンサーを仕込んだランニングシューズ「ORPHE」などMonozukuri Venturesが投資するハードテック

ハードウェア開発の現状と株価への影響

ハードウェア開発にはさまざまなハードルがあるが、予想しない外的要因が開発に影響を与えることもある。例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大だ。

ハードウェアスタートアップにとって、新型コロナウイルス感染症の拡大はどう影響したのだろうか。

「良い面と悪い面の両方があったと思います。スタートアップ全体では、デジタル化、リモートワークの進展により、Zoomなどのツールが注目されました。私たちモノづくり関連では、製造現場での遠隔操作やロボット活用など、製造業のDXが進展したという点は良かったと思います」。

一方、マイナス面では、サプライチェーンの混乱によって、世界的に半導体が不足したり、部品の調達ができなくなったりしたことが挙げられるという。交渉力に勝る大企業に限られた資材が供給される中で、スタートアップにはモノが供給されなくなってしまった。これにより、開発の遅れや資金ショートに陥るケースが出てきたという。

「私たちの投資先にも部品の調達に困っている企業があり、一緒にかき集めました。VCファンドを組成するために、資金調達をしなければいけない苦労も事実としてありました。製造業やハードウェア・ハードテック全体にとって、コロナ禍は厳しい状況だったと思いますね」。

さらなる外的要因として、アメリカの利上げやウクライナ侵攻による原料高もある。

「株式市場で運用していた人たちが、どんどん国債を運用するようになっていくので、スタートアップへの投資マインドは消極的になってくるんです。2022年5月くらいにアメリカでは一気にマーケットの資金供給が減りました。加えて、暗号資産交換会社であるFTXトレーディングの破綻もあって、VC投資マインドも冷えぎみになっているという状況です」。

アメリカのデータであると断った上で、牧野氏は続ける。今までのソフトウェア業界はバブルのような状況にすぎず、コロナ禍で上り調子にストップがかかったという。一方、ハードウェア・ハードテック業界は元々資金調達が厳しい状況にあったため、大きな変化は感じないという。

「逆に、ハードウェア・ハードテック関連企業だけは、2022年から2023年現在にかけて調達株価が上がっています。堅実な経営を行っている会社が多かったということではないかと思います」。

オープンイノベーションを加速させるために不可欠なVCの存在性

こういったハードウェア・ハードテック関連企業が置かれている現状を考えると、日本のハードウェア・ハードテックスタートアップが意識しなければならないことが見えてくる。

ひとつは、世界のマーケットを意識すること。マーケットの小さい日本では、ユニコーン企業は生まれないと言う。もうひとつは、イノベーションを意識すること。イノベーションは傍流からしか生まれないという理論を牧野氏は語る。

「例えば、平安時代を終わらせたのは鎌倉、江戸時代を終わらせたのも薩摩・長州という傍流。傍流の人たちは、本流を客観的に見て問題意識を持つことができる。企業であってもそうじゃないかと思います。今の日本の本流が東京だとすれば、傍流は東京以外です。いつかどこかで本流を変えないといけない。だから、私たちが京都にいることにも意味があると思っているんです」。

牧野氏はVCが中心となって座組を形成し、オープンイノベーションを進めることを模索している。自分たちだけでは完結しない異業種との協業、そしてVC自身ももっと横の連携が必要だというのが牧野氏の考えだ。

オープンイノベーションを進めていくためにVCは、企業とスタートアップをつなぐ役割がある。企業とスタートアップが連携するにあたって重要なポイントが2つあるという。

「ひとつはタイミングです。早すぎれば仕様が固まっていない状態で何も動くことができませんし、遅すぎれば入り込む余地がない状態になってしまいます。私達のようなVCはシード、アーリーからスタートアップを見ているので、VCを活用すればスムーズなマッチングが期待できます。

もうひとつは、コミュニケーション。企業とスタートアップがそれぞれの思惑をそのままぶつけても、許容できないことが多くあります。そこを、VCが第三者的な立場で翻訳通訳し、戦略を共に考えることで協業を進めていけるのだと思います」。

さらに、ハードテックはかなり密なコミュニケーションのすり合わせが必要となるので、オープンイノベーションを進めるには、エコシステムの中の中核的なVCの存在がより重要になると牧野氏は言う。

「オープンイノベーションでは、一対複数のマッチングが成功につながると思っています。海外のスタートアップとのオープンイノベーションを加速させるためにも、VCを積極的に活用してほしいです」。

ハードウェア・ハードテックスタートアップが求める企業内アントレプレナー

オープンイノベーションによって、マッチングした企業内のイノベーターは、リスクを取って新しいことに挑戦するアントレプレナーシップ(起業家精神)を持つことが大切だと牧野氏は言う。異なる資源を外部のスタートアップに求めるような、新しい挑戦、発想を求める企業内アントレプレナーが、ハードウェア、ハードテックスタートアップと企業をつなぐカギとなるのだ。

「ハードウェア、ハードテックスタートアップは、常にパートナーシップを求めています。スタートアップのパートナーとなるには、大企業の人たちも新事業を起こすアントレプレナーになることが必要でしょう。例えば、スタートアップに少しでも仕事を発注する。本当に大丈夫なのか不安に思うかもしれませんが、あえてやってみる。さまざまな制約もあるでしょうが、何かできることがないか考えることを積み重ねるという、心の持ちようが大切だと思います」。

日本の多くの企業にとって、モノづくりはハードルが高い印象があるだろう。だからこそ、Monozukuri Venturesは、「モノづくりは、簡単だ。」というキャッチコピーを掲げている。

スタートアップの世界では常識となっている”Hardware is Hard”とは、反対のことを目指すと牧野氏は語る。

「ここ京都・梅小路に、ハードウェア・ハードテックスタートアップを支援するためのコミュニティを作りたいんです。私たち自身ができることは限られていますが、”Hardware is Hard”とは逆の環境を作り、それがハードウェア・ハードテックスタートアップを育成するためのインキュベーション(新しい事業の創出を支援し、成長を促進する)装置となることを目指しています」。 

その思いが原動力となり、京都・梅小路でのコミュニティづくりにつながっている。牧野氏が目指す環境が実現できれば、京都をはじめとする関西がモノづくりスタートアップの聖地だと思われ、多くのスタートアップが集まるようになるはずだ。

「モノづくりのスタートアップのエコシステムを、まずはここ京都・梅小路から発信したい。モノづくりを支援する企業やVCが、もっと集まってくるといいですね」。

日本中にスタートアップエコシステムが広がることを目指し、牧野氏は京都からモノづくりのVCとして発信し続ける。

Monozukuri Venturesが京都・梅小路で運営する「Kyoto Makers Garage」
支援するスタートアップのみならず、誰もがものづくりにチャレンジできる場である
3Dプリンター、レーザーカッター、CNC等のデジタル機器を揃う

株式会社Monozukuri Ventures インタビュー【前編】はこちら

PEAKSMEDIA編集チーム

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