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TQCとは|TQMとの違いやトヨタの導入例について解説

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高度経済成長期より、日本製品は品質の高さから世界中で高い評価を得ています。1960年代、日本において品質向上を支える考え方として「TQC」という手法が導入されました。

今回の記事では、TQCの概要からトヨタによる導入事例、TQCとTQMの違いについて解説します。

TQCによって得られる効果や、「QC7つ道具」「新QC7つ道具」という手法も解説していますので、ぜひ参考にしてください。

TQCとは

TQCとは「Total Quality Control」の略で、総合的な品質管理手法のことです。

TQCは、品質管理を製造部門だけで考えるのではなく、組織の全部門が協力して経営者から担当者までが一体となり、連携して実施するという考え方です。

TQCでは、製造部門だけに任せるだけでは顧客満足の向上、企業の競争力強化につながる品質管理ができないという考えがあります。

「設計」「技術」「製造」「資材」「営業」「財務」「人事」など、全ての部門、および経営者を始めとした管理職から担当者までの全ての従業員が連携することで、効果的に品質管理をおこなっていくことでしっかりとした品質管理が実現されます。

TQC活動の変遷

1950年代にアメリカで提唱されたTQC活動は、各部門が協力して顧客満足度向上のために品質を総合的に調整するものでした。ファイゲンバウム氏がTQCを定義し、1960年代には日本にも導入されました。

終戦後、日本の品質管理は生産プロセス内に限定されていました。しかし、TQC導入後は全プロセスで現場が一丸となり、高度経済成長期からバブル経済において圧倒的な競争優位性を築きました。

TQCのアイデアはアメリカから導入されましたが、日本の経営環境に適応する過程で日本的TQCとして変化し、成果を出しています。

日本では、トヨタ自動車がTQCを中心に据えた品質管理体制を確立することで、高品質の自動車を製造し、顧客満足度を高めることに成功しました。

トヨタによるTQCの導入例

1955年、トヨタは「トヨペットクラウン」で乗用車市場に進出し「トヨペットコロナ」も発表したことで生産台数を大幅に増加しました。しかし、急成長に伴う人員増加や教育不足、管理の課題が浮上し、品質向上が追いつきませんでした。

1960年、新型「トヨペットコロナ」で品質問題が露呈したため、トヨタは「経営管理の画期的刷新」と「良質廉価な製品の生産と開発」を目指し、1961年にTQCを導入しました。

TQC導入時、当時の豊田英二副社長の指針により「検査の理念は検査しないことにあり」が示され、QC教育や不良半減運動が展開されたことで品質管理の考え方が変化しました。現場の「検査を厳しくすれば品質がよくなる」という考えが、やがて「品質は検査の前でつくる」へ変化し、1962年に「品質は工程で造りこむ(自工程完結)」の言葉が誕生しました。

TQC推進期には、事務部門や技術部門の連携不足を反省し「品質保証」「原価管理」に加えて「人事管理」「事務管理」を組み込んだ4機能の「機能別管理」を整備しました。

品質目標の全社的な浸透を図り、会社の経営方針を3部からなる「会社方針」として整備しました。

TQCの定着期には「品質保証」では各工程で品質を保証し、製品企画から販売・サービスまでのステップごとに具体的な保証活動が「品質保証活動一覧」にまとめられ、「原価管理」も同様に整理されました。QC活動も全職層での組織整備が進み、全員参加のTQCが展開されました。

またトヨタは、1965年にTQCの成功により「デミング賞実施賞」を受賞しました。

デミング賞とは、戦後における日本で「品質向上」と「品質管理の普及」の大きなきっかけとなったウィリアム・エドワード・デミング博士の業績を称え日本科学技術連盟が創設した賞です。また実施賞とは、優れたTQCを実施している企業や組織に与えられる賞です。

トヨタは「オールトヨタで品質保証」をスローガンに、社内管理体制を構築しグループ内でTQCを普及しました。

1970年には「日本品質管理賞」を受賞し、TQC導入によって1台あたりの不具合が半減しました。機能別管理や方針管理は今も基本的なマネジメント手法となり、QC的な考え方が浸透しています。

TQCとTQMとの違い

TQCとTQMとの違いは、「TQC」のアイデアを経営陣の業務に拡張したものが「TQM」となります。

現代において、TQCの概念を発展させたTQMの考え方が製造業で主流になってきています。

TQMとは、企業全体でプロセスとシステムを維持、改善、革新し、さらに変化する経営環境に適応し、有効で効率的な組織運営を達成する活動です。組織の長期的な成功を通じて顧客と社会のニーズに応え、製品・サービスの提供と従業員の満足を追求することを目的としています。

また、TQCとTQMでは品質管理のアプローチが異なります。

TQCは主に「現場の従業員が個々に品質管理を担当する活動」である一方で、TQMは「組織運営を実現する活動」で、経営陣が全体的かつトップダウンの形で品質管理を行います。

品質管理の重要性

製造業が信頼性を維持するために品質管理は重要な要因であり、顧客の要求に応じた高品質な製品を納期内に提供することが重要です。

品質管理の怠りは不良品や遅延の原因となり、顧客との信頼関係を失います。品質管理は企業の信頼性を高め、経営の安定につながります。製造業の品質管理は製品の安全性を確保し、不良品による消費者被害を防ぐ重要性もあります。

TQCの目的は「企業の各部門が品質開発・維持・改良をして、最も経済的な水準で顧客満足を追求する努力を総合的に調整すること」です。

製造業においてTQCはとても重要であり、全社的品質管理によって顧客に十分な満足を提供する製品を生産しなければなりません。

TQCに取り組むことによって得られる効果・メリット

TQCに取り組むことによって得られる効果・メリットは、以下のとおりです。

  • 品質の向上
    組織にTQCを導入することによって、組織内の品質管理に対しての意識が向上します。品質向上への取り組みが積極的に行われるようになり、不良品の低減・生産性向上・顧客満足度向上などの効果が期待できます。
  • 問題点の早期改善
    TQCを導入することで問題点や課題が可視化されます。PDCAサイクルを回して、可視化された課題に対して改善策を早期に取れるようになります。
  • 社員のスキルアップ
    TQCの導入で社員一人一人が仕事に責任を持つようになり、個人のスキルアップにつながります。また、品質改善に積極的に取り組むことから自己肯定感が高まり、社員のモチベーション向上も期待できます。

TQCにおけるの業務・活動例

TQCにおける業務・活動例について、以下のとおり解説します。

  • QCサークル活動
  • QC7つ道具を活用した品質管理
  • 5Sの取り組み
  • 4Mの分析と改善

 QCサークル活動

QCサークル活動とは、現場で働く従業員やスタッフを小規模なグループに分割し、自発的に品質管理と品質改善に関する討論・意見の共有を行い、具体的な行動に移していくプロセスのことです。

QCサークル活動では、まず推進するリーダーとメンバーを決めます。サークルはおよそ10人程度が適していると考えられています。

続いて、取り組むテーマを決定し、現場の課題を的確に把握しましょう。

課題改善の目標を設定したのち、問題の分析を行います。対策を立案した後、実行に移して改善案が正しく機能しているのか検証を続けます。

QCサークル活動の取り組みは、サークル内で共有して次の課題へのインプットへとつなげます。

QC7つ道具を活用した品質管理

製造現場では、製品の製造や品質に関するさまざまな数値データを収集できます。しかし、これらのデータはそのままでは問題の特定が難しいため、「QC7つ道具」という手法を用います。

「QC7つ道具」によってデータを整理し、相関関係を分析して問題の要因を特定します。

QC7つ道具について、以下の表で解説します。

名称 概要
パレート図 項目ごとに整理されたデータを大きさ順に表示した棒グラフと、それに対応する累積比率を表す折れ線グラフ。全体の中で大きな比率を占める要因を明確にし、結果に対する影響度や重要度を把握するのに役立つ。
特性要因図 特性(結果)に影響を与える要因を列挙し、それらが変化にどれだけ寄与するかを視覚的に示した図。形状が魚の骨に似ていることから、「フィッシュボーン図」または「フィッシュボーンチャート」とも呼ばれる。
グラフ データを視覚的に表現したグラフは、数値の比較や変化を把握しやすくするために使用。
ヒストグラム データを区間ごとにまとめ、度数分布表にまとめた後、それを棒グラフで表現した図。グラフの形状を見ることで、データの分布状態やピーク値、ばらつきなどを把握でき、工程上の問題点などを推定するのに役立つ。
散布図 1つの事象に関する2つの数値データを表すグラフで、関係を視覚的に示すために使用。X軸とY軸にそれぞれ対応する項目を配置し、データを点の集合で表現、2つの項目の相関関係や無関係を観察できる。
管理図 品質や工程の状態を視覚的に把握するために使用する図。中心線(CL)を目標値とし、その上下に上方管理限界線(UCL)と下方管理限界線(LCL)を配置して、収集したデータを時系列で折れ線グラフとして表示する。正常値と異常値を整理できる。
チェックシート あらかじめ定められた項目に基づいてデータを記入する表。様式は固定されておらず、点検用と記録用の2つがあり、使用目的に応じてシートの設計が重要。

「QC7つ道具」は数値データを扱い、製造現場で実測したデータを分析します。

 新QC7つ道具

新QC7つ道具は、主に言語データを視覚的に整理することで、数値化が難しい複雑な問題に対処し、新しいアプローチを見つける手法です。

従来の数値データに基づく「QC7つ道具」とは異なり、言語データを扱うため、製造現場だけでなく企画・設計・営業などあらゆる部門での改善に活用されています。

新QC7つ道具について、以下の表で解説します。

名称 概要
親和図法 未経験の問題や複雑で不透明な課題の構造を明らかにする手法。問題に関する異なる言語データを親和性に基づいて整理し、問題の全体像と構造を把握、取り組むべき課題を導き出す。
連関図法 複雑な問題で解決策が見つけにくい場合に、因果関係から主要な要因を特定する手法。要因の相関関係を「連関図」で整理し、問題の主な原因を抽出する。
系統図法 目的を達成するための最適な手段や方法をツリー状に配置していく手法。手段を目的とし、何度も検討して段階的に展開することで、最適な手段を導き出す。
マトリックス図法 2つの要素を行と列に配置して関連度合いを交点に表示する手法。要素間の関係を整理し、全体を俯瞰して結論を導くことができ、「系統図法」で得た多くの方策を実行する際に優先順位や役割分担を決定するのにも有益。
アローダイヤグラム法 作業順序をアローダイアグラムで表現し、スケジュール管理・検討する手法。各工程の進捗管理や遅れの許容度、期間短縮のポイントを検討する際にも役立つ。
PDPC法 目的達成に向けて予測される障害や問題を図示し、対策を考える手法で、全体の流れをスタートからゴールまで把握できる。問題や対策を明確に言語化することで、過去の経験を活かしやすい利点がある。
マトリックスデータ解析法 数値データを行と列のマトリックス形式で整理し、その特徴をまとめる解析手法。新QC7つ道具(N7)の中で唯一、数値データを扱う。

新QC7つ道具は、言語データの効果的に取り扱うことがポイントです。ビジネスの現場では、実測・数値化が不可能な煩雑な問題においても、情報を整理・分析しなければなりません。新QC7つ道具は、数値化できない課題を言語データで分析する手法です。

新QC7つ道具と7つの道具の違い

新QC7つ道具は、QC7つ道具の改善点を補う手法として注目されています。

QC7つ道具は品質改善に使われるツールで、パレート図、特性要因図、グラフ、管理図、チェックシート、ヒストグラム、散布図が含まれます。これらの手法は主に数値データを扱い、製造業で品質問題を具体的に解決する際に活用されます。

新QC7つ道具は数値データではなく、言語データを扱い、改善活動の初期段階で使用されます。各部門では、課題を整理するために数値ではなく言語データが必要です。

特に、複雑な要素が絡み合った状況から問題点を把握するためには、新QC七つ道具が活用されます。

5Sの取り組み

5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけを通じて、職場の課題を解決するための改善活動です。

5Sを導入することで清潔な職場が維持され、整理整頓により業務の無駄が削減されます。習慣としての5Sは業務に集中でき、生産性向上や効率化に寄与し、残業時間の削減やワークライフバランスの向上にも寄与します。

また、職場の清潔さは安全性を確保し、事故の危険を減少させます。

4Mの分析と改善

4M分析とは、以下の4つの要素によって問題を整理する手法です。

  • Man(人)
  • Machine(機械)
  • Material(材料)
  • Method(方法)

MECE「読み方:ミーシー」(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:相互に排他的で、総体的に包括的な)の原則を実現するための分析方法ともいわれています。「論理的に矛盾なく、思考を重複なく進める」ためのロジカルシンキングの手法です。

事故や不良が発生した際「4M分析」は、問題点や解決策を明確にする手段となります。問題が発生すると責任追及が起こり、本当の原因が見落とされることがあります。直接の原因だけでなく、オペレーション技術の問題なども含めて4M分析を行うことで根本的な改善が可能です。

4M分析の視点では、「Method(方法)」の部分を「Management(管理状態・手法)」として分析すると効果的です。問題整理において4M分析は、「”なぜ”を5回繰り返せ(なぜなぜ分析)」が最も有効な手段といえます。

TQCにおける業務・活動に適している人

TQCにおけるQCサークルでは、チーム内共通の改善目標に向けてメンバーで協力し、各従業員が自分の仕事の品質向上に取り組む習慣が身に付きます。自己の能力を高めるための努力を、継続させるような人材の育成にもつながるでしょう。

自身の能力を向上させることに前向きな人は、TQCにおける業務・活動に適している人であるといえます。

また、品質管理の業務は、リスクに備えつつ製品・サービスの観察が得意な人に向いています。クレームにしっかりと対応できるような打たれ強い性格の人や、細かな作業が得意な完璧主義者は、品質保証の仕事に適しています。

決して目立つような業務ではありませんが、品質を安定して保つためには企業にとってかかせない存在といえます。

まとめ

TQC(Total Quality Control)は、組織全体が協力して品質を管理する手法です。製造業においては、特にQCサークル活動が重要で「QC7つ道具」や「新QC7つ道具」を用いた品質管理、5Sの取り組みなどを活用することで、顧客の信頼性を保つことができます。

品質向上だけでなく、潜在する課題の特定や問題点の早期改善、また社員のスキルアップが期待されます。

またTQC活動は自己向上意欲があり、リスク管理を行える細かい作業が得意な人が適しています。

TQCに取り組むことで、品質管理における課題と改善策が明確になり、継続的な取り組みを続けることで企業の信頼性を高めることにつながるでしょう。

PEAKSMEDIA編集チーム

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