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パワーエレクトロニクスとは?4つの技術例と注目される理由を解説

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パワーエレクトロニクス技術は、電力を効率的かつ自在に制御する技術の総称です。電気工学、電子工学、機械工学、制御工学などの分野の知識が融合した技術で、省エネや環境問題の解決、再生可能エネルギーや電気自動車の普及など、さまざまな課題の解決に貢献する技術として、ますます注目されています。

本記事ではパワーエレクトロニクスの概要と歴史、その仕組みや技術例などを紹介するとともに、パワーエレクトロニクスの将来性について解説します。

パワーエレクトロニクスとはなにか

パワーエレクトロニクスとは、電力を変換する技術を指します。電気の種類には「直流(DC)」と「交流(AC)」があり、その中でも電圧や周波数は送電方法や使用する機器によって大きく変わります。電気の電圧・種類を変換する変換器をコンバーター、またはインバーターと呼び、モーターや家電製品を動かすために適切な電圧や種類を変換します。

ここでは、パワーエレクトロニクスの用途や歴史について解説します。

パワーエレクトロニクスの用途

パワーエレクトロニクスの用途は、以下のとおりです。

・電力系統
電力系統では、発電所から家庭や工場に電気を送る際に、電圧や周波数を変換する技術が用いられています。再生可能エネルギーの普及に伴い、直流電力や高周波電力などの扱いが複雑化しており、パワーエレクトロニクスの技術がますます重要になっています。

・電源における用途
電源では、パソコンやスマートフォンなどの電子機器に電力を供給する際に、直流電力に変換する技術が用いられています。サーバや医療機器などの大規模な電力を必要とする機器にも、パワーエレクトロニクスの技術が用いられています。

・電動機駆動における用途
鉄道や自動車などの電動機駆動では、電気をモーターに伝える際に、交流電力から直流電力に変換する技術が用いられています。省エネや環境負荷の低減を実現するために、パワーエレクトロニクスの技術の重要性が増しています。

これらの電気設備や機器は、パワーエレクトロニクスによって、より効率的かつ省エネ的に動作しています。

パワーエレクトロニクスの歴史

パワーエレクトロニクスという概念は、1973年にWilliam E. Newellが提案した論文「Power Electronics-Emerging from Limbo」によって初めて登場しました。電力・エレクトロニクス・制御を統合して扱うという概念が生まれたと言えます。

この統合によって効率的な電力変換や制御が可能となり、電力システムの効率化や省エネルギー化の実現が期待されるようになりました。

現在、パワーエレクトロニクスは、さまざまな分野で省エネや効率化のために使われており、将来的に電力や再生可能エネルギーの安定供給に欠かせない技術となっています。

パワーエレクトロニクスの4つの仕組み

ここでは、パワーエレクトロニクスの仕組みと電気の直流・交流について解説します。

パワーエレクトロニクスは、電気エネルギーを効率的かつ安全に制御するために不可欠な技術です。パワーエレクトロニクスの技術は、主に以下の4つの仕組みに分けられます。

     
  • 直流から直流への電圧の変換…DC-DCコンバーター
  • 直流から交流への変換…DC-ACインバーター
  • 交流から直流への変換…AC-DCコンバーター
  • 交流から交流への周波数や電圧の変換…AC-ACコンバーター

直流から直流への電圧の変換は、電子機器の動作電圧を調整したり、電力を効率的に供給したりする技術です。直流から交流への変換とは、バッテリーなどの直流電源をモーターなどの交流電源に変換する技術を指します。

交流から直流への変換は、家庭用電源などの交流電源を電子機器が動作する直流電源に変換する技術です。交流から交流への変換技術は、電圧や周波数を調整してさまざまな交流電源を生成したり、電力を効率的に制御したりする際に用いられます。

電気の直流と交流について

パワーエレクトロニクスは、直流と交流の電気を変換する技術です。電気には、大まかに直流と交流があり、直流はDC(Direct Current)・交流はAC(Alternating Current)と呼ばれます。

直流は電圧が一定で、一定方向へ電気が流れることが特徴で、乾電池や太陽光発電で作られる電気がそれにあたります。一方の交流は、電圧が変化しプラスとマイナスの電圧が交互に出力されます。交流電気は、発電所や送電網などのインフラに使われます。

パワーエレクトロニクスは、直流と交流の電気を交換する技術であり、電気自動車や電気機器などの開発に欠かせない技術といえます。

パワーエレクトロニクスの具体的な3つの技術例

パワーエレクトロニクスの具体的な技術例として3つ紹介します。

電気自動車

電気自動車では、パワーエレクトロニクスが重要な役割を果たしています。

電気自動車のパワーエレクトロニクスは、インバーター、コンバーター、センサー、制御システムなど、それぞれのコンポーネントがバッテリーと電動機間の電力の流れ、直流から交流への変換、電気モーターの速度調節などの重要な機能を担っています。

とくにハイブリッド電気自動車では、電動機と内燃エンジンの使用を切り替える必要があり、パワーエレクトロニクスによる燃費や走行性能の向上に不可欠です。

電車のパンタグラフ

パンタグラフとは、電車の上部に取り付けられた伸縮可能なアームの装置です。電車はパンタグラフを通じて架線からの電力を受け取りモーターに送ります。モーターはこの電力を受けて車輪を駆動し、電車を走行させます。

この過程でパワーエレクトロニクスが重要な役割を果たします。電車は、車と比較して多くの電力を必要とするため、効率的なエネルギー利用が求められます。パワーエレクトロニクスを活用することで、電力の流れを制御しながらエネルギー損失を低減できます。

パワーエレクトロニクスの開発が進めば、さらに効率的なエネルギー利用が実現され、電車の運行性能が向上します。

太陽光発電

パワーエレクトロニクスは太陽光発電においても重要な役割を果たしています。太陽光発電では直流電力を得ますが、パワーエレクトロニクスによって交流電力に変換が可能なため、家庭で使用できるようになります。

効率の悪いパワーエレクトロニクスは、太陽光発電で得られた電力の一部を損失させる可能性があります。このため、電力供給の効率を向上させるためにパワーエレクトロニクスのさらなる開発が進められています。

パワーエレクトロニクスは、太陽光発電システムの効率と安全性を向上させるために重要な役割を果たしており、太陽光発電の普及に欠かせない技術といえます。

パワーエレクトロニクスが注目される4つの理由

本章では、パワーエレクトロニクスが注目される理由について解説します。

家庭用電池の普及

家庭用電池の普及により、パワーエレクトロニクスの重要性が高まっています。家庭用電池の普及には、以下の理由が挙げられます。

     
  • 家庭用電池の効率的な利用と供給の安定化
  • 電気料金の節約等
  • 電力ピークの抑制や停電の代替としての期待

パワーエレクトロニクスは、家庭用電池から得られた電力の変換や制御を効率的におこない供給を安定化させます。
また、家庭用電池の効率性と安定化により、電気料金がかからないことも普及の理由と言えます。

さらにパワーエレクトロニクスは、電力の抑制や停電の防止、電力料金の節約を実現します。
家庭用電池の普及はパワーエレクトロニクスの必要性を高め、将来的にはエネルギー問題の解決に不可欠な要素となりえます。

電気自動車の普及

二酸化炭素の排出による温暖化の抑制が急務となっているなか、世界的にも電気自動車の生産・利用が求められています。こうしたなか、国土交通省と経済産業省は2030年までに、新車販売における次世代自動車の割合を5~7割とする目標を掲げ、電気自動車の普及を推進しています。

電気自動車はモーターを動かすため、電池の直流を交流に変換する技術が使用されています。この技術には、パワーエレクトロニクスの知識と技術が不可欠です。

また、パワーエレクトロニクスを支えるためには、電気回路技術や半導体技術が重要な要素となります。これらの技術に精通した技術者が求められていることも、パワーエレクトロニクスが注目される背景となっています。

ICT機器の普及

ICT機器は、個人用デバイスから大規模なシステムまで幅広く使用され、その普及に伴い、消費電力も急速に増加しています。2030年までには、世界の情報通信機器の消費電力は2016年の約30倍以上になると予測されています。

ICT機器の普及には、小型化と軽量化だけでなく省エネルギー性能も重要な要素となっています。とくに、消費電力が増加するデータセンターや大規模なシステムでは、高い電力効率が求められ、パワーエレクトロニクスの進化が急務となっています。

このような背景から、ICT機器の普及を支えるためには、小型化と軽量化、同時に省エネルギー性を兼ね備えたパワーエレクトロニクスの技術開発が必要です。これにより、より効率的な電力利用が可能となり、持続可能な社会の実現につながります。

省エネへの意識の高まり

近年、世界的に省エネの必要性が叫ばれています。日本でも、1979年に「省エネ法」が制定されました。省エネ法とは、エネルギー使用の合理化や需給の安定化を目的とした法律です。

省エネ法により、事業者はエネルギーの使用量を削減するための取り組みが求められており、パワーエレクトロニクスの技術開発につながっています。

パワーエレクトロニクスは、省エネ化において次のような役割を果たします。

     
  • 電気自動車やハイブリッド車のモーター開発
  • ガソリン車よりも効率的なエネルギー使用
  • 再生可能エネルギーの利用

パワーエレクトロニクスにより、環境にやさしい自動車の開発や再生可能エネルギーの利用を促進するとともに、エネルギーを安定的に供給することが可能になります。

パワーエレクトロニクスは将来性のある技術

パワーエレクトロニクスは、省エネやエネルギー問題の解決に欠かせない技術であり、将来性のある技術として注目されています。たとえば、パワーエレクトロニクスの促進は、以下のような効果をもたらします。

     
  • 二酸化炭素の削減や省エネへの貢献
  • 人手不足の解消
  • 自然災害による破損リスクの低減
  • パワー半導体の安定供給

二酸化炭素の削減や省エネ化への貢献に加えて、ロボット技術にも用いられ、効率的な作業によって人手不足の解消につながります。

このほかにも、自然災害によって生じるリスクを回避するためにパワーエレクトロニクスが活用されます。電柱の変圧器を小型化することで、台風などの自然災害による破損リスクを減らせます。

パワーエレクトロニクスの将来性を考える際に、パワー半導体の技術革新も重要です。最後に、パワー半導体について紹介します。

パワー半導体とパワーエレクトロニクス

パワーエレクトロニクスを発展させるには、パワー半導体の技術革新が不可欠です。パワー半導体とは、交流を直流へ変換するコンバーターや、直流を交流へ変換するインバーター、周波数変換機能をもった電力変換器を構成している半導体デバイスの総称です。

日本はパワー半導体において世界トップクラスの技術力をもり、世界シェアの49.24%を日本メーカーが占めています。日本のパワー半導体メーカーは高品質な製品を安定的に供給でき、自動車や家電などの幅広い分野に応用できる技術力も強みです。

以上のように、パワーエレクトロニクスは、社会的な課題を解決する将来性のある技術です。先進的な技術開発によって、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。

まとめ

パワーエレクトロニクスとは、電気の種類や電圧を変換するのに必要となる技術です。省エネやエネルギー問題の解決に欠かせない技術であり、将来性のある技術として注目されています。

パワーエレクトロニクスは、すでに電気自動車や電車、太陽光発電、風力発電などの電気設備や機器の効率化や省エネ化に大きく貢献しており、人手不足の解消や自然災害のリスク軽減にも役立っています。

今後も社会的な課題を解決する将来性のある技術です。パワーエレクトロニクスの先進的な技術開発によって、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されています。

PEAKSMEDIA編集チーム

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