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【後編】「資源循環」という神輿を担ぐ―バランスが重要なサステナブルな取り組み|グンゼ サーキュラーファクトリー

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グンゼのプラスチックフィルム事業の基幹である滋賀県守山市内の守山工場が、「サーキュラーファクトリー(資源循環型工場)」に転換。サステナビリティ経営の取り組みに、アクセルをかける

――前回に引き続き、グンゼ 執行役員 プラスチックカンパニー カンパニー長 花岡 裕史氏に異種積層化フィルムの異種分離・再生への挑戦とグンゼが目指すサーキュラーメーカーへの展望を伺った。

プロフィール

グンゼ株式会社執行役員プラスチックカンパニー長 花岡 裕史(はなおか ゆうじ)さん

1988年グンゼ株式会社入社し、プラスチック部門にて、主に収縮フィルムの営業開発、商品開発、生産技術を担当。ベルギー、中国での勤務を経て、2017年営業統括部長就任、2019年技術部長および守山工場長就任。2022年4月執行役員 プラスチックカンパニー長に就任、現在に至る。

異種積層化フィルムの異種分離・再生への挑戦

グンゼの国内フィルム生産は、福島県本宮市の福島工場、神奈川県伊勢原市のグンゼ高分子株式会社、守山工場の3拠点が担う。福島は食品系フィルム生産、神奈川はチューブ状フィルムの生産、そして守山では同社の収縮フィルムの生産が多くを占めている。

熱をかけて収縮させて、あらゆる形にぴたりとフィットさせることができる収縮フィルムは、ペットボトルのラベルなど、われわれの日常的に手にふれる身近な存在だ。

グンゼの収縮フィルムは国内トップシェアを誇り、同社のプラスチック事業を牽引する。そうした製品を製造する守山工場がサーキュラーファクトリーとして率先してゼロ・エミッションに取り組むということは、産業、ひいては社会全体にも大きなインパクトとなり得て、意義が非常に大きいものであるといえる。

グンゼの収縮フィルム(シュリンクフィルム)グンゼ㈱提供

グンゼの収縮フィルムは、異種積層技術により素早く収縮が完了し、シワが入りにくく異形容器や耐熱性の弱い容器でも綺麗に収縮が可能なことからペットボトル飲料だけでなく化粧品、トイレタリー用品などのさまざまなラベルとして採用されている。

異種積層化技術は、その名の通り、異なる特性の樹脂を何層にも重ねてプラスチックフィルムに機能を付与するものだ。グンゼは系列企業に原料を取り扱う会社を持っていないこともあり、「さまざまな原料を集めてきて加工すること」の強みを活かした、特徴あるフィルムを開発し価値を生み出し続けてきた。

例えば、PS(ポリスチレン)とPET(ポリエステル)樹脂を活用し高い収縮性能と剛性など狙った機能を引き出すというような具合だ。積層フィルムはそれぞれの特徴を兼ね備え、機能を補いより薄くすることができるので使用材料の削減にもつながる。

異なる複数の素材で構成して総合的に優れた特性を持たせるマルチマテリアルは、材料ごとに分離、処理を行う必要があることからリサイクルの難易度が高いとされてきた。一方で、材料単体で製品を構成しリサイクルしやすくするモノマテリアル化の取り組みが増えている。グンゼとしては、あえてマルチマテリアルの道を、これからも貫いていく。これまで取り組んできた異種積層技術による機能性付与の実績を生かすため、分離再生技術を確立し、将来的にはそれを普及させていく方針だという。

「当社の考え方は、積層フィルムのリサイクル技術を確立させ、再資源化することです。リサイクル材を使うことでその分の原材料費は高くなりますが、フィルムを薄くし原材料を減らすことで結果としてコストに跳ね返らず、環境にもお客様のお財布にも優しい。そんな循環を、我々が作っていきたいと思っています」(花岡氏)。

積層フィルムには、収縮フィルムを構成するPSとPETのように、混ざったとしてもそのまま機能を保ち水平リサイクルできるものと、バリア機能を有する食品包装を構成する、PA(ナイロン)とオレフィンのようにそのままではリサイクルできないものがある。守山工場ではラボベースではあるが従来難しいとされてきたPAやPETなどの分離に成功しており、今後は量産機導入に向けてさらなる実証を進めるということだ。

守山サーキュラーファクトリーは2026年のリサイクルセンターの本格稼働により「完成」となる。最終形を見据えた2027年度までの投資総額は94億9400万円に及ぶ。

サステナビリティへの取り組みでは、さまざまなキーワードや技術がある。しかし「あくまで目的が大事であって、手段から先に入り、それに縛られてはならないもの。こういうことも、各社の事業での考えや強みに合わせて、うまく組わせて取り組んでいくべきなのかと思います」と花岡氏は、資源循環という取り組みの本質を見失わないことの重要性について強調していた。

プラスチックフィルム事業においては、2027年度までに使用原料のうち50%をリサイクルもしくはバイオマス原料に置き換える計画になっている。

2022年12月にはリサイクル原料比30%の収縮フィルム「GEOPLAS HCT3」、2023年12月にはリサイクル原料比5%で膜厚23μm、業界最軽量の「GEOPLAS HCT1 #23」を販売開始した。後者はリサイクル比としては少ないものの薄膜化することで材料使用量を削減している。さらに2024年中にはサステナブル(循環型)原料比50%のものを市場投入する計画だ。そして2030年までにはサステナブル原料100%の製品供給をしていけるようにする。

さらに2030年を目標に「サーキュラーメーカーへの変貌」を掲げ、守山サーキュラーファクトリーをモデル工場として、培ったノウハウは海外も含めて他の生産拠点にも投入。同社プラスチックグループ全体でも廃プラゼロに取り組んでいく。

グンゼ㈱提供資料より抜粋

「資源循環」という神輿を皆でかつぐ――サステナブル社会実現に貢献するために

現在、守山サーキュラーファクトリーではプラスチックのリサイクルへの取り組みの理解促進のため、政府や自治体関係者、企業に対して見学受け入れを実施している。まず工場の概要説明会を実施した上で、現場見学を行い、さらにリサイクルセンターでごみゼロの設備を見てもらいながら理解を深めてもらうようにしている。

同工場の竣工以降、100団体約1,000人(2023年12月時点)の企業が見学に訪れていることから、関心の強さがうかがえるという。参加企業の規模は大手が目立ち、かつ食品業も多い。

グンゼが、ある意味「自社の手の内を明かす」のようにも見えなくもない、そうした社外の理解促進に積極的に取り組む大きな理由の1つに、プラスチックのリサイクルという取り組みが一社では実現しない規模であることが挙げられる。例えば、社外生産品については、素材選定や着色などの仕様をグンゼ側の事情に完全に合わせてもらうことは現実的ではないため、再利用する際の脱色や着色された材料の分離といった処理にどう対応するかが課題となってくるという。プラスチックのリサイクルの実現においては、素材開発や成形技術だけの話に留まらず、リサイクル技術そのものや廃棄物処理にたけた企業を巻き込んでいくことも必要だ。

フィルムやペットボトルは、一見してどれも同じように見えるかもしれないが、各社が持つ技術を活かしたデザインの個性がある。「今後、リサイクルしやすい基本的な仕様などについて各社で統一すべきではないかと考えています。さらに、現状の廃棄物処理関連の法律や条例についても見直し、ルールづくりをしていくことも必要です。そのため、工場見学に来てくださるさまざまな企業、官公庁関係の方にお声がけをさせていただいている現状です」(花岡氏)。

工場見学の様子 100m以上ある工場見学用通路は圧巻。壁面には仕掛けもあり、専属の担当者の方がアテンドしてくれる。

また、PCR(ポストコンシューマーリサイクル)においては、民間企業1社の力だけは到底成し得ないという。現在は工場見学をきっかけに、資源循環という志を同じくした皆で、「ある程度情報をオープンにして、個々の団体や企業のマッチングをしています」と花岡氏は言う。グンゼとしては、「資源循環に共感いただける企業や自治体の工場見学、“大”募集中」であるとのことで、随時問い合わせを受け付けている。

リサイクルの取り組みは、まさに「みんなで神輿を担ぐさまとよく似ている」と花岡氏は話す。

「神輿を6人で担ぐのであれば、もし3人が力を抜いたら、他の3人に力がかかってバランスを崩します。リサイクルも、当社で頑張れること、お客さまにも頑張っていただくことがあるので、まるで一緒に神輿を担ぐように、お互いがうまくバランスを取りあいながら協力して進めていかなければならないのではと私は思っています」(花岡氏)

神様を祭っている神輿を大事に落とさぬよう、そして重たい神輿を担ぐ人たちが怪我をすることがないよう、「あちらは重くないか」「こっちがもっとしっかり支えよう」とお互いを思いやりながら、資源循環という重たい神輿を担ぐのである。それには、「事業の根本は人にあり」と考えたグンゼ創業者・波多野鶴吉氏の想いと通じるものがある。

「郡是(グンゼ)」の名の由来は、何鹿「郡(ぐん)」と、「正しい方針」を意味する「是(ぜ)」から来ている。郡是からグンゼの時代まで127年の歴史のなかで「人間尊重と優良品の生産を基礎として、会社をめぐるすべての関係者との共存共栄をはかる」という社是を一貫させビジネスを行ってきた。今日の同社が掲げる、環境との共存を目指すサステナビリティという経営テーマも、まさしくそこに通じているのである。

変革と挑戦を体現するサーキュラーメーカー

2022年5月に発表したグンゼの新中期経営計画「VISION 2030 stage1」においても、「変革と挑戦」をキーワードに、新たな価値の創出、資本コスト重視の経営、企業体質の進化、環境に配慮した経営を基本戦略に掲げている。資源を循環させること自体をビジネスとして成立させ、技術の仕組みを社会課題の解決に直結させていくサーキュラーファクトリーはビジョンを体現して進む先鋒と言えるだろう。

グンゼは、常に事業の種をまき続け変化してきた企業だ。

かつて郡是製絲株式会社として、京都府何鹿郡(現:綾部市)で地域産業である蚕意業の振興を目的として1896年(明治29年)創業。1946年には製糸業からメリヤス編みによる肌着生産へシフト。戦後下でありながらもその品質の高さに多くの消費者の信用と好評を得た。そして、日本で初めてナイロン製の靴下の生産に成功、1968年には婦人向けパンティストッキングを販売開始し多くのヒット商品を手掛けた。その成功もあり、世間一般にはインナーウェアのイメージが強いグンゼだが、高度成長期の石油化学の急成長ぶりから1962年自社靴下用包装フィルムの生産を皮切りにプラスチックフィ ルム分野へも参入。ニッチオンリーワンを独自の多層化フィルムを開発するなど新たな価値を生み出し続けた。

取材の中で花岡氏が繰り返したのが「プラスチックは悪ではない」というメッセージだ。同氏は、プラスチックのよいところを継続できるように、「つくって捨てる」という直線的なシステムから、「廃棄物をなくし資源と捉え循環する」必要性を説いていた。

グンゼプラスチックカンパニーは、この守山サーキュラーファクトリーをモデル工場として、培ったノウハウを海外も含めて他の生産拠点にも投入し、2030年を目標に「サーキュラーメーカーへの変貌」を掲げている。

同社における、「サーキュラーメーカー」の定義とは、どのようなものなのか。

花岡氏は、このように述べていた――「元々、われわれは「このままだと、将来、(会社が)なくなるぞ!」という強い危機感からスタートしていて、「利益を出す」というよりも「循環をリードしていこう」という気持ちが強かったのです。そして、それがサーキュラーメーカーの在り方なのではと考えています。ただし適正な利潤は得る予定ではいますが、それをさらに今後の再投資として使って、事業をサステナブルに続けていきたいのです」と述べた。

「サーキュラーメーカー」という名前の意図として、花岡氏は、「自分のところで原料を生み出す、作り出す、それらを回収してきて、もう一回作り出し、原材料を自給自足できる状態をつくる意味でもメーカーと言う言葉を使っている」と説明する。未来の原材料調達への一手としての考えがあるのだという。

プラスチックは、自由な形状に加工がしやすく、軽くて丈夫で、大量生産しやすく、かつ製造コストが安価だ。金属のように錆(さ)びないし、電気絶縁性に優れているし、断熱性も高い。このようなさまざまなメリットを有し、これまでの経済発展や人々の生活を長く支えてきた。新しい局面を迎えるプラスチックと社会をリードする存在として、今後のサーキュラーファクトリーの取り組みに注視したい。

【前編】環境・プラスチック・人の共存共栄をはかる、グンゼのサーキュラーファクトリー はこちら

PEAKSMEDIA編集チーム

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