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事業部制組織とは|メリットやデメリット、企業事例を解説

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企業規模や事業内容によって、理想的な組織像は異なります。自社に合う組織形態にすることが生産性を向上させる秘訣であり、自社文化と上手くフィットすれば想像以上の効果を発揮します。

本記事では、組織形態のひとつである「事業部制組織」について解説します。他の組織形態と比較してどのような特徴があるのか、メリット・デメリットがどこにあるのかをチェックしてみましょう。

事業部制組織とは

事業部制組織とは、事業ごとに編成された事業部(部署)を本社の下に配置した組織形態のことです。

事業に合わせて部門が細分化されているため、専門性を活かしながら事業を進められるのが最大の特徴です。パフォーマンスを最重視しやすい形態であり、自事業の範囲内であればある程度の裁量を任せてもらうこともできます。

そのため、本社に負担が偏りやすい決済・稟議をスピード化しやすく、本社主管部門の負担の軽減と意思決定のスピードアップを見込めます。

カンパニー制との違い

カンパニー制とは、社内の事業それぞれを独立した会社として扱う組織形態のことです。

会計も完全に独立するため、事業部制組織より更にひとつの事業部における権限が高く、自由な意思決定をできるのが特徴です。

カンパニーのトップリーダーは社長としての役割を果たし、人事権や投資権も与えられます。

職能別組織との違い

職能別組織は「機能別組織」とも呼ばれており、職種別に部署を細分する組織形態のことです。

「営業部」「人事部」「生産管理部」など仕事内容で部門を分けるので、それぞれの仕事に集中できるのがメリットです。特定分野のスペシャリストを育成しやすく、トップの意思決定を隅々まで周知できます。

その分、ほぼ全ての業務を満遍なく担当できるゼネラリストが育ちにくいのがデメリットです。決済・稟議には本社の承認が必要なため本社に負担が集中しやすく、企業の成長とともに大規模な本社機能が求められます。

事業部制組織の種類

事業部制組織は、下記3種類に細分化できます。

     
  • 製品別事業部制
  • 地域別事業部制
  • 顧客別事業部制

下記でひとつずつ解説します。

製品別事業部制

製品別事業部制とは、自社で扱う製品・サービス別に事業部を分ける手法です。

「IT事業部」「エネルギー事業部」「建築事業部」など分野ごとに細分化できるため、多事業展開している企業で多く採用されています。

また、製品に特化して事業部を分けることで、責任の所在が明確になるのもメリットです。「〇〇の製品についてはこの部署に尋ねればいい」という意識も明確になり、社内における情報へのアクセスも容易になります。

地域別事業部制

地域別事業部制とは、地域・エリア別に事業部を分ける手法です。

「東京事業部」「沖縄事業部」「海外事業部」など、地域名をつけて事業部が分かれるため、全国展開(または海外展開)している企業で多く採用されています。

上記のように、将来的に全国展開や海外展開を狙う企業でも取り入れやすいのが特徴です。地域別に事業部を分けることで地域ごとの特性にも対応しやすくなるので、市場規模も文化も異なる場所に進出したいときに役立ちます。

顧客別事業部制

顧客別事業部制とは、顧客の特性に合わせて事業部を分ける手法です。

「法人事業部」「個人事業部」「公共事業部」など、「誰を対象とした商品サービスか」で事業部が分かれます。

扱う商品サービスが同じでも顧客ごとに販売経路やアプローチ法が全く異なるときに活用しやすい方法で、主力商品を多展開している企業で多く採用されています。

また、「法人向けに特化したサービス」など新たな商品企画・開発のアイデアが出やすいのもメリットです。それぞれのニーズに素早く対応したいときに取り入れるべきだといえます。

事業部制組織の形態を取り入れるメリット

事業部制組織の形態を取り入れるメリットは、下記の通りです。

     
  • 各事業部における業務に対する判断スピードが上がる
  • 本部の負担を削減し業務効率の向上に繋げられる
  • 問題発生時における責任の所在を明確にできる
  • 経営の視点を持った人材を効率良く育成できる
  • 事業ごとの損益を明確にできる

以下で詳しく解説します。

各事業部における業務に対する判断スピードが上がる

事業部制組織では、業務に対する判断スピードが上がります。

自事業部の範囲内におけることであれば、本社の承認なく自由に意思決定ができるので、承認待ちの時間を短縮できます。

市場動向、消費者ニーズの変化、同業他社での動きに合わせてスピーディーな判断ができ、機会損失を最小限に抑えます。

判断スピードが早いことは、トラブルやクレームの解消時にも役立ちます。迅速な判断が消費者の安心につながるケースも多いので、事業部制組織の大きなメリットとなっています。

本部の負担を削減し業務効率の向上に繋げられる

事業部制組織では、ある程度事業部に意思決定を委ねるのが特徴です。

そのため、細かな点でも毎回本社の承認を得る必要はないため、本社の負担軽減につながります。「決済待ち案件が多すぎて慢性的な残業・休日出勤が発生している」という事態も解消しやすく、業務効率化に貢献します。

また、決済業務だけに集中する専任担当者を置く必要もなく、人的コストの面でも本社の負担を軽減できます。

問題発生時における責任の所在を明確にできる

各事業部の権限を大きくする事業部制組織では、責任の所在も明確です。

万が一トラブルが生じたときでも「どの部門で問題が起きたか」「何が問題となってトラブルに発展したのか」を一目瞭然にできます。そのため、解決に向けた第一歩を踏み出しやすく、スピーディーな対応ができるようになります。

また、責任の所在が明らかだからこそ、業務に本腰を入れやすくなるのもメリットです。責任逃れするような働き方を防ぎやすく、それぞれが業務を自分ごととして捉えることで全体のパフォーマンスも向上します。

経営の視点を持った人材を効率良く育成できる

事業部制組織のリーダーは大きな権限を持つため、「どう業績を上げるか」「最適な組織運営に向けて何をするか」など、経営の視点を持つ人材が育ちます。

次世代リーダーや後継者の育成に力を入れたい企業と相性がよく、ワンマン経営を避けられるのもメリットです。

また、各部門のリーダーが経営視点を持つことは、組織全体に経営視点を広げるきっかけにもなります。本社からのトップダウンでしか動かない組織を脱却したいときに、事業部制組織を導入するのも効果的だといえます。

事業ごとの損益を明確にできる

事業部制組織では、事業部単位で損益計算書を作成するため、どこが赤字部門かわかりやすくなります。

どの事業部の何が問題となって赤字化しているのか、反対に何が良くて伸びているのかなど、細かく可視化することが可能です。

結果的に、業績の悪い事業部は自主的に改善へ動きやすくなり、組織全体のロスをなくします。

その他、業績に応じてインセンティブを付与するなど、評価もやりやすくなるのがメリットです。事業部間で健全な競争も生まれやすく、生産性向上にも寄与します。

事業部制組織の形態を取り入れるデメリット

事業部制組織には、メリットだけでなく以下のようなデメリットもあるため注意しましょう。

     
  • 事業部間で摩擦が起きる可能性がある
  • 事業部間で企業に対する貢献度の差が出てしまう
  • 経営資源が無駄になる可能性がある
  • 事業部間で連携することで得られるアイデアが発生しにくくなる

以下では、代表的なデメリットを解説します。

事業部間で摩擦が起きる可能性がある

事業部制組織の場合、事業部間で摩擦が起きる可能性があります。

事業部単位で業務が完結してしまうため部門間で連携しにくく、事業部同士のコミュニケーションが発生しにくくなるのがデメリットです。

結果として「縄張り意識」が強くなってしまい、閉鎖的な組織になることもあるため注意が必要です。

また、予算配分やインセンティブの割合に差が生じた場合、更に摩擦が強くなります。最悪の場合、事業部間の対立につながることもあるので十分な配慮が求められます。

事業部間で企業に対する貢献度の差が出てしまう

事業部間で企業に対する貢献度の差が出てしまうのも大きな課題です。

収益性が高く予算も豊富な事業部と、ニーズが縮小している事業で採算性が悪化している事業部とでは、貢献度が大きく変わります。

格差が続くと当然収益性の悪い事業部にいる社員は評価されにくくなっていき、不満につながってしまうので注意しましょう。

結果、別の事業部にいれば有能だったはずの人材が離職してしまうなど、副次的なデメリットが生じるリスクも孕んでいます。

経営資源が無駄になる可能性がある

事業部制組織では基本的に事業部単位で活動することになるため、経営資源の無駄が生じやすくなります。

似たような仕事をどの事業部でもおこなっていたり、同じ会社に業務をアウトソーシングしたり、重複する内容が出てきます。

また、プロジェクターなど部署同士で調整しながら使えばいい備品がどんどん増えてしまうなど、コストの無駄が生じることも多いです。

事業部間で連携することで得られるアイデアが発生しにくくなる

事業部同士で連携すれば柔軟なアイデアが出るはずなのに、事業部が独立していることで考え方や思考の癖が偏ってしまう場合があります。

多角的な視点を持ちにくくなること、それぞれの事業部が持つノウハウをかけ合わせにくいことが、事業部制組織最大のデメリットと言えるでしょう。

全社的な発展がしづらく、誰も気づかぬうちに機会損失が生じていることも少なくありません。

事業部制組織を導入している企業の例

最後に、事業部制組織を導入して成功した企業の事例を紹介します。

パナソニック株式会社

パナソニック株式会社では、「ラジオ部門」「ランプ・乾電池部門」「配線器具・合成樹脂・電熱器部門」など製品別事業部制を取り入れています。

製品単位で研究・企画・開発から生産・販売まで一元管理したことで各分野の専門性を伸ばせるようになり、業界を牽引するトップブランドとして確立しました。

2001年に機能別組織にシフトしていますが、2010年には再度事業部制組織に戻しています。事業部制組織に戻したことで、商品別の消費者ニーズや世界的な動向に着目しやすくなり、時代の変化に対応できるようになりました。

多数の商品を展開しており、かつ時代変化の激しい商材であったからこそ、事業部制組織の良さが活かされた事例です。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社では、製品別事業部制を採用しています。

例えば、トヨタの代表的な事業である「自動車事業部」、またサプライチェーン効率化を目指す「供給チェーンマネジメント事業部」などがあります。

部品調達・物流戦略など、日々刻々と変化する市場に対応することに専念した事業部が生まれたことで、時代のニーズについていきやすくなりました。

専門性の高さを追求しながら、顧客ニーズに応えるスタイルとして確立し、現在でも世界的な企業として躍進を遂げています。

まとめ

事業部制組織は、部門ごとに高い裁量を与え、経営的な視点を持つ人材の育成やスピーディーな意思決定を支える組織形態として注目されています。

部門間連携や社内コミュニケーションなどのデメリットもありますが、積極的な社内イベントの実施など独自の対策をすることで解消できます。

事業部制組織のメリットを活かしつつ、柔軟な発想力やノウハウの共有もできるようになれば、更に組織力を強化できます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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