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パワー半導体の特徴や業界動向を解説|半導体産業の将来性は?

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スマホ充電器やテレビから新幹線、太陽光発電まで、あらゆるシーンで使われているのがパワー半導体です。パワー半導体はその成長性が期待され、日本政府も積極的な投資を行っています。

この記事では、パワー半導体の特徴や使用用途、市場規模、今後の展望について解説します。

パワー半導体とは

パワー半導体とは、電気エネルギーのスイッチング、制御、変換を行うための半導体の一つです。

電気を効率よく、安全に、そして高性能に変換・制御する技術として知られています。電力変換の効率を高めることで、エネルギーの無駄を減らし、コスト削減や環境負荷の低減にも寄与する点がメリットです。

パワー半導体をわかりやすくいうと、人間の心臓や筋肉のような役割を果たしています。心臓のように、エネルギーを供給・制御し、筋肉のように動きや機能をサポートする役割を担っているのです。

パワー半導体は、電源回路を有すあらゆる電子機器に搭載されています。身近な例では、スマホやパソコン、エアコンなどに使われています。他にも新幹線や電車、5Gの基地局、太陽光電気など日常生活や産業活動のさまざまなシーンでパワー半導体が活躍中です。

また、パワー半導体は「パワーデバイス」「パワー半導体デバイス」と呼ばれることもあります。

このようにパワー半導体は私たちの生活や産業において欠かせない存在で、その技術の進化がさらなるイノベーションを生む鍵となるでしょう。

パワー半導体の特徴

パワー半導体は、単に電気エネルギーの変換や制御を担うだけでなく、高電圧や大電流の取り扱いにも長けています。そのため、大規模なエネルギー変換や伝送を実行可能です。一般的な基準としては、定格電流が「1A以上」の半導体デバイスをパワー半導体として区別しています。

また、「ロジック半導体」との違いは、電子機器の中で果たす役割が異なる点です。具体的には、ロジック半導体は「頭脳」としての機能を果たし、論理信号の処理や制御を行います。一方、パワー半導体は「筋肉」としての機能を担い、大量の電力を制御または変換する役割を持っているのです。

つまり、ロジック半導体が指示を出し、その指示に基づいてパワー半導体が実際の動作や制御を行う、という連携が取られています。

パワー半導体でできること

パワー半導体では、どのようなことが実現できるのか、いくつか代表例を紹介します。

【パワー半導体でできること】

     
  • 電源を変換:さまざまな電圧レベルへの変換が可能。
  • 電波と周波数の大きさを変える:通信機器等での変調や増幅に利用。
  • 周波数を変換:電子機器の動作周波数の調整。
  • 電圧を安定させる:安定化電源として、電圧の乱れを減少させる。

例えば、スマートフォンやPCのACアダプタは、入力されるAC電源を安定化されたDC電源に変換する際にパワー半導体が使用されています。

パワー半導体の使用用途

具体的なパワー半導体の使用用途について紹介します。

【パワー半導体の使用用途】

     
  • 産業機械:高精度のモータ制御や変速装置など。
  • 電気自動車:バッテリーからの電力制御やモータードライブ。
  • 電車:制御系統や変圧器、ブレーキ系統など。
  • 太陽光発電:変換器やインバータの制御。

産業機械では、動きをより正確にしたり、エネルギー消費を抑えるために、パワー半導体が使用されています。機械の性能が向上し、コスト削減や環境への影響を減少させることができます。

電気自動車や電車の場合、エネルギーを効果的に使うことは重要です。そのため、エネルギーの使用を最適化したり、車や電車が急に加速・減速したりする時に役立つため、パワー半導体が導入されています。

太陽光発電のシステムでは、太陽からのエネルギーを電力として効果的に利用するための技術が求められます。この過程で、電力の変換や保存に関わる部分で、パワー半導体が大いに役立っています。太陽光発電の効率が上がり、より多くの電力を安定して供給することが可能です。

パワー半導体の市場規模とシェア

パワー半導体の市場規模や市場動向は、近年大きな注目を集めています。矢野経済研究所によれば、2021年時点で、223.7億USドルという市場規模でした。

出典:株式会社矢野経済研究所|パワー半導体の世界市場に関する調査を実地(2023年)

世界で見るパワー半導体シェアランキングTop5

以下では、2021年時点の世界のパワー半導体シェアランキングTop5を紹介します。

【世界で見るのパワー半導体シェアランキングTop5】

ランキング パワー半導体メーカー(国) 売上高(億ドル)
1 インフォニオンテクノロジーズ(ドイツ) 48.69
2 オンセミコンダクター(アメリカ) 20.51
3 STマイクロエレクトロニクス(スイス) 17.14
4 三菱電機(日本) 14.76
5 富士電機(日本) 11.73

国内のパワー半導体メーカー一覧

前述のようにパワー半導体については、1〜3位を欧米が占めているものの、4位5位に日本メーカーが上ってきているように国際的にも存在感を放っています。

一方で、半導体全体の市場では中国や韓国がトップのシェアを誇っています。しかし、特定の半導体セグメント、特にパワー半導体に関しては、日本メーカーに分があるといえるでしょう。

以下では、国内におけるパワー半導体メーカーの特徴や強み、注力している分野を紹介します。

【国内のパワー半導体メーカー】

     
  • 三菱電機
    多岐にわたる電機製品の製造で知られる企業です。半導体事業においても、高い技術力と生産キャパシティを背景に、国内ではパワー半導体の最大手となっています。特に、EVや民生、再エネ、5G基地局に使用されるパワー半導体の技術に注力しています。
  • 富士電機
    産業用電力の変換と制御に関する技術を磨いて、重電や産業機器分野を中心に成長してきました。パワー半導体では、車に搭載するRC-IGBTチップで競争力が高く、パワエレインダストリーにも注力しています。
  • 東芝
    設立150周年を間もなく迎える歴史ある大手企業です。エネルギーやインフラシステム、デバイス・ストレージなどの事業を中心に手がけています。半導体事業では、ディスクリート半導体とシステムデバイス事業の2つです。ディスクリート半導体はパワー半導体がメインで、民生や鉄道、電力といった分野で活用しています。
  • ローム
    自動車や産業向けの機器をメインに取り組む企業です。自社内で材料から製品化まで垂直統合型で行っています。主にパワー半導体やアナログ半導体に注力。自動車向けに自動運転ユニットやLEDライト、産業向けに基地局やサーバー、工場向けに無人搬送車や産業用モーターなどを提供しています。

パワー半導体の市場動向と今後の展望

パワー半導体の市場規模は、世界的に拡大傾向にあります。

2021年時点の実績では、223.7億USドルという市場規模でした。前年比では約40億USドルの増加です。矢野経済研究所によれば、2023年以降も着実に増加していくと見込まれており、2030年までに369.8億USドルに達するとされています。

出典:矢野経済研究所|パワー半導体の世界市場に関する調査を実地(2023年)

2030年にかけてSiCパワー半導体の需要拡大の予測

パワー半導体は、主に「Siパワー半導体」と「SiCパワー半導体」の2種類に分けられます。

Siパワー半導体は、長らく半導体技術の主流としてシリコンを基材に使用してきました。多くの電子機器や家電で重要な役割を担っています。

一方、SiCパワー半導体はシリコンカーバイドを基材とし、電力変換時に発生するエネルギーロスを大きく削減できるため、省エネルギー化の促進に役立ちます。

また、「低抵抗」「高速動作」「高温動作」という特徴があります。つまり、同じ抵抗値でも素子(チップ)の面積を小さくしたり、スイッチング周波数を高めてトランス・コイルなどを小さくしたり、ヒートシンクや冷却機構をシンプルにできたりします。

近年、電動車の普及が加速していることもあり、その中核となるコンバータやインバータにSiCが重要な役割を果たすでしょう。ただ、先ほどの矢野経済研究所の調査では、2021年時点でSiCのシェアはわずか6%ほどでした。今後の伸び代が十分にあることが伺えます。

パワー半導体は、2023年以降、以下の分野での需要が拡大すると考えられています。

【2023年パワー半導体の需要が拡大する傾向がある分野】

     
  • 民生用の白物家電
  • 新エネルギー向け産業機器
  • 太陽光発電や風力発電システム
  • HV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)のコンバータ/インバータ

電気車の普及に伴い、車載用のパワー半導体の需要も急増しています。これらの車では、バッテリーからの電力をエンジンやモーターに効率的に供給するためのコンバータやインバータが不可欠です。この技術の進化により、電気車の走行距離の拡大や急速充電の実現が進んでいます。

脱炭素の戦略物資として注目が集まっている

近年、地球温暖化による環境問題の緊急性が高まっていく中で、世界各国が目指す「脱炭素」や「カーボンニュートラル」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

脱炭素とは、企業活動や家庭から出たCO2を含む温室効果ガスの排出量を削減することです。一方のカーボンニュートラルとは、放出される温室効果ガスの量と、それを吸収・削減する量をプラスマイナスゼロの状態にすることを指します。

世界で125ヵ国・1地域が、2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げ、持続可能な社会の実現を目指しています。

カーボンニュートラル実現に向けて、特に注目されているのがパワー半導体の技術です。

パワー半導体は、エネルギー変換や制御の効率を飛躍的に高められます。エネルギーの消費量を抑えることで、温室効果ガスの排出量も抑え、カーボンニュートラルを促進することが可能です。また、再生可能エネルギーの効率的な取り扱いや、EVの普及といった面でも貢献を期待できます。

このように、パワー半導体は脱炭素における重要な役割を担っており、今後の技術開発や普及がさらに進むことが期待されています。

半導体シェア首位奪還を目指して再編されている

半導体産業の歴史を振り返ると、1980年代に日本はこの分野で圧倒的なリーダーシップを発揮していました。ピーク時には、世界における半導体シェアの約50%を日本が占め、「日の丸半導体」といわれるほどでした。

しかし、品質より安さを重視するマーケットの変化や海外への人材・技術の流出など、さまざまな要因が重なったことで30年間にわたって衰退。現在の日本の半導体シェアは10%程度に留まっています。

こうした中で再建を図るべく、国内の半導体産業の再編や強化が政府主導で進められているのが現状です。具体的には、SiCパワー半導体の国際競争力を加速させるため、国内半導体メーカーの設備投資に対し2,000億円という巨額の補助金を投下しています。

政府の積極的な支援は、SiCパワー半導体の主力マーケットであるEVで日本のシェアを獲得するためです。日本メーカーにとって、EV向けの市場獲得競争が国際競争力を大きく左右すると考えられています。

今後も、補助金をきっかけに進む業界再編や、パワー半導体市場の動向に注目が集まっていくでしょう。

まとめ

パワー半導体とは、電気エネルギーのスイッチング、制御、変換を行うための半導体の一つです。パワー半導体は、単に電気エネルギーの変換や制御を担うだけでなく、高電圧や大電流の取り扱いにも長けています。

パワー半導体の市場シェアについては、2021年時点で1〜3位を欧米が占めているものの、4位5位に日本メーカーが上っていました。また、市場規模自体も2023年以降も着実に増加していくと見込まれており、2030年までに369.8億USドルに達するといわれています。

日本政府が2,000億円という巨額の投資を表明するなど、再び日本メーカーが半導体のトップシェアを獲得することも期待されるでしょう。

PEAKSMEDIA編集チーム

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