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フォトレジストは高性能な半導体製造に不可欠!フォトレジストの役割を解説!

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フォトレジストは、半導体製造の工程で微細な回路パターンを形成する際に欠かせない存在です。半導体デバイスの小型化や高性能化を実現するためには、フォトレジストの塗布や露光など各ステップにおいて高い精度が求められます。

この記事では、フォトレジストの役割と半導体製造のプロセス、日本企業におけるシェアや今後の展望について解説します。

フォトレジストとは

フォトレジストとは、半導体の製造において不可欠な化学溶剤です。特殊な塗料であるフォトレジストは光に敏感で、半導体の微細なパターンを作る際に使われます。スマートフォンやパソコン、家電、自動車など、私たちの生活に欠かせない半導体の性能を向上させるために必要なものです。

半導体製造の工程では、ウェハー(基板)にフォトレジストを塗布して光を照射します。光を当てることでフォトレジストの特定成分が反応し、微細なパターン形成を可能にします。作成された回路パターンは、半導体の性能に大きな影響を与えるため、フォトレジストの高品質化は重要なポイントです。

日本が半導体材料分野で約9割の世界シェアを持つ一方で、競争は激化しています。半導体メーカーの競争力低下や海外競争も課題となっており、競争力を保ちつつ戦略的な視点で研究開発に臨む必要があります。

高性能な半導体製造に不可欠なフォトレジスト

フォトレジストが半導体にとって必要不可欠である理由は、半導体製造のプロセスやフォトレジストが使われる工程から読み取れます。以下で半導体の製造工程について解説します。

半導体の製造工程

半導体製造は、微細な回路を形成して高性能な半導体素子を作り上げます。以下では、半導体製造手順の要点を解説します。

半導体製造手順 概要
フォトマスク作成 半導体の回路パターンを描くための原版であるフォトマスクを作成します。このパターンが後の工程でウェハーに転写されます。
ウェハーに塗布 ウェハー(シリコン基板)にフォトレジストと呼ばれる感光性素材を塗布します。フォトレジストが露光工程でパターン形成する際の基盤となります。
露光 フォトリソグラフィ技術でフォトマスク上の回路パターンをウェハーに転写します。照射することでフォトレジストが反応し、パターンが現れます。
現像・エッジング 露光されたフォトレジストを現像液で処理し、パターンを浮き彫りにします。エッチングによって不要な部分を削除し、パターンを決定します。
フォトレジストを除去 現像後のフォトレジストを除去して、ウェハー上に正確な回路パターンを残します。高精度な剥離液が使用されます。
配線の加工 ウェハー上に形成されたパターンに基づき、配線の形成やエッチングを行います。これによって回路間の接続が確立されます。
絶縁膜を形成 トランジスタや配線の間に絶縁膜を形成します。絶縁膜によって回路間の干渉や電流漏れを防ぎます。
集積回路を形成 上記工程を繰り返すことで、さまざまな層に微細な回路パターンが形成され、集積回路が完成します。

これらの工程を通じて回路を正確に形成し、高性能な半導体を製造します。半導体の性能を向上させる重要な手段は、微細な回路パターンの精度を高めることです。フォトレジストはその役割を担い、半導体製造の用途において欠かせない材料となっています。

フォトレジストが使われる工程の例

フォトレジストが使用される工程では、以下の3つのプロセスがあります。

【フォトレジストが使われる工程例】

     
  • ウェハーに塗布
  • 露光
  • 現像・エッジング

それぞれ詳しく解説します。

ウェハーに塗布

半導体の製造において、ウェハーに塗布するフォトレジスト工程は、半導体の性能を上げるうえで重要なステップです。ウェハーに微細な回路を形成するためには、フォトレジストを均一に塗布しなければなりません。

均一な塗布が重要である理由は、露光工程において微細な回路パターンを正確に形成するためです。ウェハー表面の均一さが保たれていない場合、露光後のパターン形成が正確にいかず、半導体の性能や信頼性に課題を残します。このため、フォトレジストの塗布工程は、高度な精度を持つ装置を使用して行い、均一な薄い膜が維持されるようにすることが重要です。

半導体の小型化や高集積化が進む現代においては、回路パターンがますます微細化しているため、フォトレジストの均一な塗布がますます重要となっています。

露光

露光工程は半導体製造において重要な工程の1つであり、ウェハーに光を照射し回路パターンを形成します。光の照射によりフォトレジストの性質が変化し、続く工程で回路パターンが確立されます。

フォトレジストの露光工程には以下の2種類があり、光の照射によって反応する仕組みが異なります。

     
  • ウポジ型フォトレジスト:光が当たった部分が化学反応を起こし現像液で溶解する
  • ネガ型フォトレジスト:光が当たった部分が残り、他の部分が現像液で溶解する

2つの違いを利用して露光工程が行われます。違いを活用して光を照射することで、微細な回路パターンを形成します。

半導体デバイスの性能を向上させるためには、微細な回路パターンを精密に形成することが重要です。このためには波長の短い光で露光し、より細い線を描く必要があります。露光によって形成されるパターンが正確でない場合、半導体デバイスの性能に悪影響を及ぼす可能性があります。

現像・エッジング

現像とエッジングも、フォトレジストの工程における重要なステップです。現像はフォトレジスト上に回路パターンを形成し、エッジングはフォトレジストを基に不要な部分を取り除いて最終形状を整える役割を果たします。

現像

現像は照射された部分と照射されなかった部分を区別し、所定のパターンを作成する工程です。露光後、特定の現像液(主に希アルカリ水溶液)によって処理され、露光された部分が溶解するか残るかが決定されます。現像が正しく処理されないと高性能半導体の構造を正確に形成することが難しくなるため、現像は微細なパターン形成を担当する重要な役割を果たします。

エッジング

現像後はエッジングの工程です。エッジングはウェハーの周辺部整形に必要で、フォトレジストが必要でない箇所を取り除いて製品形状を整える工程です。エッジングの種類には主に以下の2つがあります。

     
  • ドライエッジング:化学ガスやプラズマを使用して素材表面に付着した原子を除去する
  • ウェットエッジング:化学溶液による腐食性を利用して不要な部分を除去する

ウェットエッジングは、工程速度が速くコストを抑えられ生産性を向上できますが、ドライエッジングのほうが微細なパターンの処理に適しています。エッジングは半導体の高性能化を推し進めるうえで重要な鍵を握っているといえます。

半導体製造工程を通じて、フォトレジストは高性能な半導体デバイスの微細な回路パターン形成に重要な役割を果たします。半導体デバイスの小型化や高集積化を実現するためには、正確なフォトレジストの塗布と露光、現像・エッジング工程が不可欠です。

フォトレジストの市場規模

Semi Journalの「フォトレジストの業界研究」によると、フォトレジスト市場は2021年に2085億円の市場規模を持ち、過去5年間(2017年から2021年)の平均成長率は14.5%で推移しています。この成長は、半導体市場の拡大と密接に関連しており、半導体市場の需要増加がフォトレジストの需要を刺激している要因です。

特に、2021年は新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要やリモートワークの増加が、フォトレジストの需要を大幅に増加させました。加えて、主要企業であるINTEL、Samsung、TSMCなどが先端工場への大規模な投資を行っていることも、フォトレジスト市場の成長を後押ししています。

2021年 光機能材料・製品市場の全貌」(富士経済)によると、2026年のフォトレジスト市場は、2020年と比較して約52.9%増加すると予測されています。

フォトレジストの企業シェア

フォトレジスト市場において、日本企業が9割のシェアを占めていることが明らかになっています。シェアの1位はJSR、2位が東京応化工業、続いて3位が信越科学工業です。互いに世界のトップシェアを競い、上位2社だけで世界シェアの約半分を占めています。

JSRは、さまざまな光源に対応する高性能なフォトレジストを提供しており、世界中の半導体製造で広く使用されています。

東京応化工業は1962年にフォトレジストの国産化を達成後、高純度のフォトレジストの開発により半導体産業を支えてきました。

信越化学工業はリソグラフィ向けのフォトレジストと微細加工用材料を提供しています。

日本企業が市場で優位に立つ理由

日本企業がフォトレジスト市場で圧倒的な強みを持つ理由として、以下の3点があります。

     
  • 不純物管理の徹底
  • 半導体エコシステムの形成
  • チームワークや細かい管理体制

上記について順に解説します。

不純物管理の徹底

フォトレジストは、半導体ウェハーに微細なパターンを形成するための重要な素材です。高性能の半導体を製造する場合、ゴミや不純物などは許容されます。日本企業は、地道で慎重な行程を管理しており、高純度を保つ強みを持っています。

半導体エコシステムの形成

日本には半導体メーカーだけでなく、半導体を製造する装置や樹脂、感光剤などの原材料を作るメーカーなど、半導体製造に関する各要素が集積しています。

こうした背景もあり、フォトレジストの最適化や開発において、日本は協力関係を築きやすい環境にあります。エコシステムの存在が日本企業のフォトレジスト分野での強さを後押ししています。

チームワークや細かい管理体制

日本企業は、「擦り合わせ」と呼ばれるチームワークや細かい管理手法を活用することで、技術向上を図りやすい環境があります。互いの良さや強みを生かしながら、さらに高性能の素材や製品を作りだす技術力が磨かれるため、優れた成果を生み出しています。

これら3つの要因によって、日本企業はフォトレジスト市場で強い存在感を示しています。フォトレジスト分野における日本企業の優位性を維持していくためには、研究開発への投資や国内外との連携強化などの戦略的な取り組みが必要です。

フォトレジストの需要は今後も拡大見込み

フォトレジスト市場は、半導体産業の急速な進化や需要が増加傾向にあることから、今後も成長が見込まれる分野といえます。DX化やIoT、AI技術の進化によって家電のスマート化や電子機器の高性能化はより進むと考えられるでしょう。

また、高度な性能を持つ半導体の需要が増大しており、フォトレジストの役割がより重視されています。微細な回路パターンを形成するプロセスをより精密に行い、企業の競争力を高めていくためには、以下のような課題に取り組まなければなりません。

     
  • 光源の変化への対応
  • 品質と効率の向上
  • 環境への配慮

フォトレジストは特定の光の波長で活性化する性質があります。

今後、新たな光源に適応する技術開発や、製造工程における高い精度と効率を高めるための研究開発を継続的に行う必要があります。

持続可能な材料供給や廃棄物削減などの取り組みも、市場における競争力を高める要素です。未来に向けた戦略的な投資や継続的な技術革新が、フォトレジスト市場の発展につながると考えられます。

まとめ

フォトレジストは半導体製造に不可欠な材料で、微細な回路パターン形成に使用されます。日本企業が約9割の市場シェアを持ち、世界の半導体製造において重要な立ち位置を占めています。

今後も半導体需要はますます増大し、市場は急成長していくと予想されます。新しい光源に対応する技術革新、環境対応などの機を逃さずに取り組み、持続的かつ戦略的な投資や開発を行っていくことが企業が生き残る重要な要素といえます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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