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有機ELの歴史を時系列で紹介|世界初の商用化ディスプレイ開発は日本企業

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テレビ、スマートフォン、タブレット、PCモニターなど、私たちが生活する環境にはディスプレイデバイスがあふれています。ディスプレイデバイスは画質や製品寿命などの技術革新が目覚ましく、ほんの数年程度でも驚くほどの変化があります。

特に近年では液晶ディスプレイに代わって、有機ELの技術を用いたモニターやディスプレイが大きな注目を集めています。

有機ELの歴史は実は古く、初めて発見されたのは1950年代にさかのぼります。その後有機ELの製品化に至るまでに、実に半世紀以上の歳月がかかっています。

この記事では、有機ELの概要から現代に至るまでの歴史を詳しくご紹介します。

有機ELとは?特徴と種類

ELは「Electro Luminescence」の略称で、電気エネルギーを光エネルギーに変換する「電界発光」という仕組みを指します。電界発光が有機化合物によって行われる現象を有機ELと呼んでいます。

有機ELはホタルやヒカリゴケによる発光のように熱を発することなく、化学反応や物質の変化によって発光する原理です。

電界発光を発生させるELは有機ELのほかに「無機EL」と「半導体LED」があります。
無機ELは主に鉱物を始めとした無機物に電圧を加えて発光させる仕組みです。ネオンサインや照明演出に用いられることが一般的です。

半導体LEDはプラスとマイナスの作用をもつ2つの半導体によって発光させる仕組みです。有機ELと発光のプロセスには類似点がありますが、有機物の使用有無によって分類されます。

有機ELの場合、使用する有機物質の種類や割合を変えることで、無機ELや半導体LEDよりもさらに多彩な色彩の表現が可能になります。

こうした有機ELの技術を利用した、テレビやPCのモニターなどのディスプレイデバイスにおける次世代のディスプレイ技術が、近年注目を集めています。

従来の液晶ディスプレイは、液晶とカラーフィルターの層が創り出した映像を、背面のバックライトが照らすことで映像を表出する仕組みです。分子自体が発光するのではなく多層に折り重なることで、光を透過するかの判断をピクセルごとに実施し、色の種類を変化させています。

一方の有機ELディスプレイは、敷き詰められた分子自体が発行体であるため、バックライトを搭載する必要がありません。分子それぞれが独立して発光することから映像として出力される色の再現度が高く、どの角度から見ても視認性が高いといった特徴があります。

有機ELの歴史

有機ELが初めて発見されたのは、1950年代のフランスまでさかのぼります。ここからは有機ELが一般製品として実用化されるまでの歴史をみていきましょう。

1950年代 フランスで有機ELが発見される

有機ELの仕組みは、1953年のフランスで、アンドレ・ベルナノーゼらによって初めて発見されました。当時は塩素酸マグネシウムまたはセロファンに有機染料を吸着させた素子に対し、交流電場をかけて発光させる仕組みを利用していました。

初期の有機EL研究においてはデバイスを介すことなく、有機物の単結晶のみを用いた研究が広く実施されていました。有機ELの実用化を目指す動きに至るまでには数十年を要しましたが、その渦中には現代の技術において重要な役目を担う、以下のような研究成果が挙げられています。

     
  • 有機結晶へのオーミック暗電流注入電極接触を開発(1960年)
  • アントラセン単結晶で初めて二重注入型結合電界ELを発光(1965年)
  • ポリマーフィルムのEL初観測(1983年)

1987年 コダック社が高性能化の技術を発見

発見から30余年にわたって有機ELの観測が進められましたが、発光に必要とされる電圧が数百ボルトと非常に高く、扱いづらさが残るなどのさまざまなデメリットがあることから、製品化を目指す応用研究は長らく見送られてきました。

そんな中、有機ELの研究は1987年に大きな転換期を迎えます。当時米国コダック社の研究員として所属していたチン・ワン・タン博士が、これまでの研究とは比較にならないほどの効率で有機電界発光素子を光らせる仕組みを掲載した論文を発表しました。

それまでの発光技術は、高い電圧が要求されるにもかかわらず、暗室といった条件下でなければはっきりとわからないほど弱い光でした。ところが、チン博士が発見した技術では10ボルト程度の電圧で十分な明るさが確保され、さらに装置の薄型化に成功したのです。チン博士の研究により、有機ELの技術がひとつ高い次元まで到達することとなりました。

1992年 有機ELで三原色を実現

有機ELディスプレイは、光の三原色である赤・緑・青それぞれの有機材料を発光させ、鮮やかな色を表現しますが、赤・緑・青のうち、先に赤色、緑色しか開発が進んでいませんでした。

しかし、出光興産により1992年に最後の砦となる、青色の発光材料が開発され、ついに実用レベルのRGB三原色が出そろうこととなりました。

1993年 山形大学が白色有機ELの発光に成功

1990年代に入り、世界各国で有機ELの研究はこれまで以上に盛んに行われるようになりました。しかし、当時は赤・緑・青の3色を単色で光らせることが限界で、研究はいかに発光の寿命を伸ばすかが主たるテーマとなっていました。

そこで1993年に山形大学の城戸淳二教授らは、白色に発光する有機ELの開発に成功しました。高分子膜に赤・緑・青の3種類の色素を分散させて白色に発光させる仕組みで、学生実験での偶然の産物によって生まれたものでした。

これまでの技術を駆使しディスプレイでフルカラーの発光を実現するためには、赤・緑・青の各色に光る発光分子を均等に敷き詰めて構成する必要がありました。そのため製品化は製造過程やコストが膨れ上がってしまうため、現実的ではありませんでした。

城戸教授らの発見によって白色有機ELが生まれたことにより、フルカラーでの有機ELディスプレイの製品化に一歩近づきました。白色有機ELの発光分子のみで構成させることで、カラーフィルターを通してフルカラー化を実現する仕組みが可能となったためです。白色有機ELにより色ごとの配置が必要なくなり、フルカラー化への過程がより簡略化されました。

1997年 パイオニアが世界で初めて有機ELフラットパネルディスプレイを商品化

日本の電機メーカーであるパイオニアは、1997年にカーステレオ用の有機ELディスプレイの販売を世界で初めて開始しました。

有機ELディスプレイの持つ、どの角度から見ても視認性が良いというメリットを活かすために、カーステレオに採用されたといわれています。
初めて販売されたフラットパネルディスプレイはフルカラーではなく、緑色に発光する単色パネルによるものでした。

しかし1998年にはパイオニアはフルカラー化のディスプレイ開発に成功し、1999年にはTDKにより白色有機ELとカラーフィルターを駆使したフルカラーディスプレイが発表されました。

このように有機ELディスプレイの商品化には、日本企業が先駆けとなって開発が進められていたことがわかります。

1999年 米プリンストン大学のグループがリン光材料を発見

パイオニアによる有機ELディスプレイ製品化の流れをくみ、世界各国でディスプレイの大型化や長寿命化を目指す研究が進められました。その過程で有機EL分子の発光効率を高めるため、発光材料を蛍光性化合物ではなくリン光材料を用いる研究が活発化していきました。

リン光材料はアメリカのプリンストン大学グループが1999年にフェニルピリジンという発光材料を用いたことがきっかけで発見されました。

これまでの蛍光性化合物では、外部量子効率(*)が5%を超えることは基本的にないとされていました。ところがリン光材料を用いた実験で外部量子効率が8%を記録し、かつ緑色の発光材料に関しては20%という成果が表れました。

この実験によって、発光材料にリン光材料を用いることがスタンダードとなり、現在の有機ELディスプレイにおいてもリン光材料が多く採用されています。

(*)実際に発光のエネルギーに関与したパーセンテージ

2007年 ソニーが世界初の有機ELテレビを発売

21世紀に入り、有機ELディスプレイはモバイルデバイスや携帯電話のメインディスプレイなど、主に小型プロダクトにおける実用化の動きが加速されるようになりました。

そしてついに、2007年にソニーが有機ELディスプレイを用いた初のテレビ開発に成功します。画面サイズは11インチとテレビ画面としては小ぶりではあるものの、液晶ディスプレイのようにバックライトといった光源を必要とせず、最も薄い部分で約3㎜とスリム化に成功した製品です。

この製品をきっかけに、有機ELディスプレイはさらなる大型化と高精細化の研究が進められるようになりました。

2013年には、韓国のサムスン社が有機ELディスプレイを採用したスマートフォンの販売を開始し、この頃から徐々に韓国企業が有機ELディスプレイ開発の参画に積極的な姿勢を見せ始めました。

2017年 世界初のインクジェット印刷による有機ELパネルの商業出荷が開始

有機ELディスプレイの製造方法は、「蒸着方式」と「印刷(インクジェット)方式」の2種類に大別されます。

蒸着方式は、有機EL素材を蒸発させて基盤に付着させる技術で、2013年に発売されたサムスン社のスマートフォンで採用された方法です。製造環境が製品サイズに依存するため、さまざまなサイズの製品に対応しにくいデメリットがありました。

一方の印刷(インクジェット)方式は、基盤に有機EL素材を直接印刷する技術です。製造工程がシンプルでさまざまなサイズの製品に対応できるほか、特定の位置にピンポイントで材料を塗布できるなどメリットが多い方式です。ただし、有機EL素材をインク化し印刷する技術の開発に時間を要し、初めて実用化に至ったのは2017年のことでした。

印刷方式を採用した初の有機ELパネルは、日本のディスプレイメーカーであるJOLEDによって販売されました。当時、蒸着方式で製造された有機ELディスプレイでは韓国メーカーであるLGがシェアのほとんどを占めており、50インチ以上の大型ディスプレイでの販売が中心でした。

一方で、JOLEDが販売した印刷方式の有機ELパネルは21.6インチと中型サイズで、PCモニターといった新たな有機ELディスプレイの製品開発を予感させる登場となりました。

有機ELディスプレイの今後の展望と課題

JOLEDはその後も有機ELディスプレイの開発を進めており、2022年11月には世界初の65インチサイズのディスプレイを印刷方式での開発に成功したと発表しました。これまで販売されていたモデルでは32インチ型が最大であったことから、約2倍の大型化に成功したことになります。

印刷方式での製造は、理論上100インチ以上の巨大ディスプレイの製造も不可能ではないとされ、巻き取り方式での長さ成約がない印刷方法の実現化が期待されています。

実際に、印刷方式での製造はディスプレイ形状における自由度が高いことから、韓国企業を中心に続々と製品が販売されています。具体的には折り畳み式のスマートフォンや、ロールカーテンのようにディスプレイを巻き上げるローラブルテレビなどの製品が挙げられます。

2022年12月現在、ディスプレイの市場シェアは液晶ディスプレイが中心です。しかし今後は、有機ELディスプレイによるデバイス開発の進出がさらに加速すると見られています。

まとめ

テレビやディスプレイ、モニター業界においては、長らく液晶製品がシェアをけん引してきました。その一方で、有機ELの研究も数十年単位で行われ、世界中の研究者が成果を挙げています。2022年現在では多くのデバイスに用いられており、私たちの生活に浸透しつつあります。

このように、製造業界は技術の発展とともに、人々のニーズや社会全体の仕組みが変化する環境にあります。近年では、DX化や働き方改革などの影響を受けたビジネススタイルの多様化が大きなトピックとして挙げられます。

現在では、スマートフォンやタブレット端末、パソコンなどがあればいつでもどこでも仕事ができるようになりました。コロナ禍を経て多様な働き方が求められるようになり、これらのデバイスは一層重要になっています。人とのインターフェイスであるディスプレイの重要度も高まっており、有期ELの応用はますます加速すると見られます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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