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光電子増倍管とは?基本原理や使用例・将来性についてわかりやすく解説

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光電子増倍管(Photomultiplier Tube)は、微弱な光を電気信号に変換し、増幅する高感度な光検出器です。科学研究や医療分野をはじめ、幅広い用途で使用されるこの装置は、特に高精度な計測が求められる場面で欠かせない存在となっています。

本記事では、光電子増倍管の基本原理や具体的な使用例、代表的な種類について解説します。また、最先端の研究における利用や将来性についても触れ、今後の可能性を探ります。光や計測技術に興味のある方はぜひ参考にしてください。

光電子増倍管とは

光電子増倍管とは、光を電子に変換して増幅する装置のことです。英語では「Photomultiplier Tube」と呼ばれることから、略してフォトマルやPMTとも呼ばれています。

一般的な光電子増倍管はガラス管に封じ込められた真空管で、入射窓、光電面(陰極)、集束電極、電子増倍部(ダイノード)、陽極から構成されています。光電子増倍管に入射した光は、最終的には信号出力されますが、この増倍管によって微弱な光が106倍から107倍まで増幅されます。

光電子増倍管の仕組みについて、以降で詳しく解説します。

光電子増倍管の基本原理

光電子増倍管での光から電気信号への変換は、以下の過程を経て行われます。

     
  • 光がガラス窓を透過する
  • 光電面内の電子が励起され、真空中に光電子が放出される
  • 放出された光電子は集束電極で加速・収束され、第1ダイノードに衝突して二次電子を放出する
  • 二次電子がさらなる電子増倍部に衝突し、二次電子放出を繰り返す
  • 最終ダイノードから放出された二次電子群が陽極から出力される

まず、入射窓から入った光が光電面に到達します。光電面は一種の半導体であり、入射した光子のエネルギーにより価電子帯の電子が励起され、真空中に光電子として放出されます。この現象は外部光電効果と呼ばれています。

続いて、放出された光電子は、集束電極によって加速・集束され第1ダイノードに導かれます。ダイノード部では二次電子放出が行われ、1段から最大19段のダイノードで多段増倍されることで、最終的に106倍から107倍という大きな電流増倍が実現されます。

このように光電子増倍管は、光電効果による電子放出と二次電子放出による多段増倍を組み合わせることで、物質を破壊せずに分析したり、高速な事象を計測したり、高感度な光検出を可能にしたりしています。

光電子増倍管は何に使うもの?

光電子増倍管は、化学・環境・医療の各産業界から高エネルギー物理実験まで、幅広い分野で活用されています。特に医療分野では血液検査装置や放射線画像検出器として、環境分野では大気汚染物質の測定装置として重要な役割を果たしています。

<光電子増倍管が用いられている機器>

使用例 概要
科学計測機器窒素酸化物の濃度を測るNox分析計など、物質の状態や濃度を測定する機器など
医療機器血液検査や尿検査など、生体から取り出した成分を分析する機器など
環境計測機器核物質から放出される各種放射線の検出・測定を行う機器など
その他半導体の製造において、表面の傷や不純物を検出する機器など

スーパーカミオカンデでも使用されている

スーパーカミオカンデは、岐阜県飛騨市神岡町の地下1,000mに設置された「世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置」です。この装置は主にニュートリノという素粒子を観測する研究を行っており、直径約39m、高さ約41mという巨大な水タンクと、約1万3,000本の光電子増倍管などで構成されています。

この光電子増倍管は、ニュートリノが水と反応した際に発生する非常に微弱なチェレンコフ光を検出する役割を担っています。

光電子増倍管の高い検出感度により、月面の懐中電灯の光も地球上から観測できるほどの性能を実現しており、ニュートリノ研究における重要な観測装置として機能しています。

光電子増倍管の種類

光電子増倍管は、光の入射方法によって大きく2つのタイプに分類されます。1つはバルブの頭部から光を入射させる「ヘッドオン型」、もう1つは側面から入射させる「サイドオン型」です。それぞれ特徴が異なり、用途に応じて使い分けられています。

ヘッドオン型

ヘッドオン型は、円筒管の端面より光を入射するタイプの光電子増倍管です。このタイプの特徴は、入射窓の内側に光電面が直接取り付けられている点です。この構造により、光源からの均一な入射への応答性に優れているため、入射光の均一性が重要な測定に適しています。

サイドオン型

サイドオン型は、バルブの側面より光を入射するタイプの光電子増倍管です。このタイプは高い増倍率を得やすく、製造コストも抑えられるという特徴があります。こうした利点から、分光光度計や一般的な測光システムなど、幅広い用途で使用されています。

光電子増倍管の将来性

光電子増倍管の需要は、今後も着実な成長が見込まれています。世界での健康・医療への意識の高まりやデジタル・トランスフォーメーション(DX)の加速が、市場拡大の追い風となっています。

特に医療分野では、オンライン診療の普及やAIを活用した病理診断の発展に伴い、高精度の検査装置への需要が増加しています。また、環境分野においても、世界的な環境意識の高まりを受けて、水質や大気汚染の分析、温室効果ガスの排出モニタリングなどで使用される計測器の需要が拡大しています。これらの用途における光電子増倍管の精度と重要性は、ますます高まると予測されています。

株式会社グローバルインフォメーションの最新の市場調査によると、シリコン光電子増倍管の市場規模は、2021年の1億2,000万ドルから、年平均成長率7.6%で成長し、2026年には1億7,300万ドルに達すると予測されています。この成長は、医療用画像処理における需要の増加や、LiDARや3Dマッピング技術における利用拡大などが主な要因となっています。

参考:PR Times|シリコン光電子増倍管の市場規模、2026年に1億7,300万米ドル到達予測 
(引用日2024-12月末)

まとめ

光電子増倍管は、微弱な光を高感度で検出できる優れた性能を持つ装置として、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。医療分野での診断機器から環境モニタリング、さらには素粒子物理学の研究まで、その応用範囲は広がり続けています。

高い増倍率とノイズの少なさを兼ね備えた光電子増倍管の特性は、今後も科学技術の発展に大きく貢献することでしょう。DXの加速や環境意識の高まりにより、光電子増倍管の需要は着実に成長すると予測されています。この技術への理解を深めることで、先端技術の開発や研究の進展に貢献することができます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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