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原子力電池の仕組みやメリット・デメリットと将来性について解説!

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原子力電池とは、放射性同位体の原子崩壊によって生成される熱を活用した電池です。宇宙探査機や遠隔地の無人施設など、電源供給が困難な場所で活用されます。

しかし、この技術はどのような仕組みで、どんな未来をもたらしてくれるのか詳しく知りたい方も多いのではないでしょうか。

本記事では、原子力電池の仕組みや用途、メリットやデメリット、国内や海外における原子力電池に対する取り組みについて紹介します。

原子力電池とは

原子力電池とは、放射性同位体から放射線エネルギーを利用して電力を作る装置(電池)です。放射線電池やアイソトープ電池、ラジオアイソトープ電池とも呼ばれ、次世代の電力供給源として期待されています

原子力電池の仕組み

原子力電池は、放射性同位体(放射線を放出する不安定な原子)の崩壊によって発生する熱エネルギーが、熱電発電素子を通じて電気に変換される仕組みを利用して開発されました。

放射性物質は、α(アルファ)崩壊、β(ベータ)崩壊、γ(ガンマ)崩壊により、それぞれ熱、電子、電磁波などを放出するが、原子力電池では主に熱をだすα崩壊が利用されます。α崩壊は、原子核分裂によってヘリウム粒子として放出される現象で、その熱エネルギーが原子力電池の熱源です。

また、放射性物質は放射性同位体である必要があり、プルトニウム238、ポロニウム210、ストロンチウム90といった放射性同位体が使われてきました。中でも長い半減期を持つものとしてプルトニウム238(半減期:約87年)は初期より採用されてきました。半減期とは、元々ある放射性同位体が半分に減少するまでの時間です。

近年ではβ崩壊を利用するダイヤモンド電池も注目されています。β崩壊は電子を放出し、半導体などを介して電気に変換する仕組みです。放射性物質として使われる炭素14は、半減期が5730年と非常に長い特長があり特に有望視されている。

原子力電池の使用用途

原子力電池は最近に始まった技術ではなく、1970年代から広く活用されてきました。その主な用途は以下のとおりです。

【原子力電池の使用用途】

     
  • 宇宙探査機
  • 人工衛星
  • ペースメーカー

原子力電池は、太陽光が届かない宇宙領域での探査機に搭載され、長期間にわたって電力供給を行っています。かつては人工衛星にも利用されましたが、事故から太陽電池や二次電池が主流になりました。

また、原子力電池は以前、心臓のペースメーカーにも採用されたこともあり、寿命の長い電力供給が可能でした。ただ、日常的な使用では放射性のリスクがあるため、一般的にはリチウム電池などに置き換えられています。

原子力電池のメリット

原子力電池のメリットは、主に以下の3点です。

【原子力電池のメリット】

     
  • 寿命が100年以上保つ
  • 充電の必要がない
  • 核廃棄物を有効活用できる

原子力電池は寿命が長いため、充電やメンテナンスの必要がありません。遠距離でも滞りなく電気を供給できます。また、核廃棄物を活用して電力を生み出せることも特長の一つです。

ここでは、上記3点のメリットについて詳しく解説します。

寿命が100年以上保つ

原子力電池はその寿命の長さが特徴です。一般的なアルカリ乾電池の寿命は最大で5~10年ほどですが、原子力電池を搭載した宇宙探査機の寿命は100年以上とされています。

原子力電池の寿命は、放射性同位体の半減期に応じて決まります。半減期が長いほど同位体がゆっくりと減少し、電池の寿命が延びます。一般的に使用される放射性同位体の中でも「プルトニウム238」は半減期が約88年と非常に長いため、広く使用されています。

一部の研究チームでは、より寿命の長い原子力電池を実現するため、半減期が2万年以上に及ぶ放射性同位体の開発に取り組んでいます。将来的にはさらに長期間にわたるミッションや装置への電力供給が可能になると考えられます。

充電の必要がない

原子力電池は、充電の必要がないことも大きなメリットです。放射性同位体の放射線を熱や電気に変換することによって発電します。

半減期が長い放射性同位体ほど、長期間にわたって放射線を放出し続けるため、原子力電池を一度設置すれば充電の必要がほとんどありません。

充電式の電池を使う場合、充電するための設備やケーブルが必要です。また、原子力電池を使えば充電やメンテナンスにかける時間、労力、コストを軽減できます。さらに、充電設備やケーブルが必要なければ本体も軽量化できます。

核廃棄物を有効活用できる

核廃棄物を有効活用できる利点もあります。英国のアーケンライト社は、核廃棄物を利用したダイヤモンド電池を開発しました。

生成プロセスは、核廃棄物であるグラファイトブロックの表層に炭素14が高濃度で存在しており、熱処理によって炭素14を気体化させ、減圧と高温下によってダイヤモンドに形成します。

そのままでは放射線が漏れる心配があるため、ダイヤモンドとなった炭素14の外側をさらにダイヤモンドで包み、安全性を確保するという仕組みです。

核廃棄物を有効活用することで生成可能なダイヤモンド電池は今後さらなる注目が高まるでしょう。同社は24年の量産化に向けて製造プロセスの確立を目指しています。

原子力電池のデメリットは破損時のリスクの大きさ

原子力電池は、放射線を放出する放射性同位体をエネルギー源としているため、破損した場合に有害物質が流出する可能性があります。

原子力電池の破損でもたらされるリスクや、世界や日本の取り組みについて紹介します。

原子力電池のリスク

1964年、原子力電池が搭載された人工衛星が大気圏に再突入の際に破壊される事故がありました。1kgのプルトニウム238がインド     洋上の成層圏に入りましたが、プルトニウムの降下は遅く、6年後の1970年時点でも大気中に5%残留されていたといわれています。

原子力電池は核廃棄物や放射性同位体を使用しているため、破損した際に放射性物質が環境に漏出するリスクがあります。土壌や水源などの環境が汚染されれば、周辺地域や人体への悪影響が懸念されます。

また、破損事故は一般に原子力技術に対する安全性への不安や疑念を深め、社会的な反発を招く可能性もあります。

課題解決に向けた取り組み

現在、原子力電池技術の安全性向上や、コスト削減に向けた研究が進んでいます。

安全性の向上には、原子力電池の設計改良や適切な遮蔽技術の開発が含まれます。さらに、社会への認知度向上や安全性のアピールにも努力が必要です。

世界では、英国のArkenlight社や米国のCity Lab社がダイヤモンド電池や、ベータボルタ電池(β崩壊を利用した電池)の開発に取り組んでいます。

米国のNDB社は、核廃棄物からの放射性同位体を使って最大2万8000年の寿命をもつ電池の開発中です。超現実的なアイデアは実現へと近づいている段階であり、実用レベルのプロトタイプを目指しています。

一方日本企業は、半導体で使われる人工ダイヤモンドの合成技術をもっており、原子力電池の開発・製造に活かす基盤があります。ただ、実際は欧米が中心となって事業化に向けた動きが加速しているのが現状です。

原子力電池の将来性

寿命が長く充電やメンテナンスが不要である原子力電池は、便利なデバイスといえますが、放射線のリスクがあります。さらに、世界でさまざまな企業が、原子力発電所などで発生する核廃棄物から原子力電池の開発に取り組んでいます。

ここでは、原子力電池の将来性についてイギリスの例から紹介します。

英国宇宙庁による宇宙用原子力電池の開発計画

イギリス宇宙庁は国立原子力研究所(NNL)とともに、2022年にアメリシウム241を利用した宇宙用原子力電池の開発プランを公表しました。

この計画は、イギリスと国際パートナーの宇宙探査活動を支援し「放射性同位体電力システム(RPS)」の開発を目指したものです。

放射性同位体電力システム(RPS)の用途

RPSには2つの用途があり、一つ目は放射性物質の崩壊によって発生する熱を利用して宇宙船の凍結を防ぐことです。凍結防止によって、宇宙船や探査機が厳しい寒冷環境で作動し続けられます。

2つ目の用途は、熱を電力に変換し宇宙船内の電力供給を円滑にすることです。電力供給が可能になれば、宇宙船や探査機の長期にわたる運用が可能となり、充電やメンテナンスを行う必要がなくなります。

放射性同位体の変更

従来の原子力電池には「プルトニウム238」が使用されていましたが、プルトニウムの供給量が限られており、アメリカとロシアに依存していました。

イギリスのNNLは、「アメリシウム241」を使用する新しい方式のRPSを開発することで、独自の原子力電池供給を確保しようとしています。「アメリシウム241」は、使用済み原子炉燃料から生成され、「プルトニウム238」の代替となる可能性があります。

この計画は、4年以内に新しいRPSを実用化し、欧州宇宙機関(ESA)の月探査機「Argonaut」への搭載を目標としています。

イギリス政府は、「アメリシウム241」を活用する世界初の原子力電池を通じて、原子力技術をさまざまな産業へ投資し、成長機会を促進しようとしています。

厳しい規制が普及の妨げになる可能性がある

放射性物質への規制が厳しい地域もあります。とくに、日本は世界唯一の被爆国であることや、福島第一原発事故を経験していることから、新しい原子力技術の開発や採用が難しい状況にあります。

日本の原子力に関する規制

2011年の東京電力福島第一原発発電所の事故を受け、2013年には、世界でもっとも厳しい水準とされる原子力の新規制基準を策定しています。

原子力技術や原子力電池の開発・利用にも厳しい規制があります。原子力電池は放射性物質を含む製品として、原子力基本法や放射性同位元素等の規制に関する法律に基づく許可や届出が必要です。

これらの基準や、原発の新設や再稼働に膨大コストがかかっていることもあり、原子力電池の開発が進んでいません。日本において、原子力電池の発展と市場成長を達成するためには、さらなる原子力への社会的な受け入れが極めて重要です。

原子力電池の普及と市場成長

日本における原子力技術の発展を促すポイントは、安全性と透明性の確保、環境への配慮、国際協力と知識共有、コミュニケーションと教育です。

透明性と安全性を最優先事項とし、規制基準や安全対策を十分に満たさなければなりません。安全性の高い原子力電池技術を開発し、社会に対して信頼性を示すことが求められます。

また、他国との協力や知識交流を通じて技術力と信頼性の向上に努めることも重要です。

こうした原子力電池に関する正確な情報を一般の人々に提供し、技術のメリットやリスクを理解してもらうことは不可欠です。公共の場でのディスカッションや教育活動が、社会的な受け入れを高めます。

日本はその歴史と経験を活かし、技術と安全性の両輪をしっかり回しながら、原子力技術を持続可能なエネルギーへと導く役割を担っていると考えられます。

まとめ

原子力電池は、太陽光が届かない宇宙ステーションや探査機にも使われる半永久的なデバイスです。寿命が大変長く、充電やメンテナンスの必要もないため、手間やコストがかからないメリットがあります。しかし、事故などによって放射性物質が漏れ、環境や人体に影響を与えないとも限りません。

こうした懸念を軽減するため、世界では安全性の高い原子力技術の開発が進められています。

一方、日本では厳格な規制により原子力電池の開発は世界に比べて進んでいません。ただ、半導体で使用されている人工ダイヤモンドの合成技術を活かしたダイヤモンド電池など、将来に向けた取り組みが国内でも期待されます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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