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ダイレクトエアキャプチャー(DAC)とは?技術の概要とメリット・課題を詳しく解説

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ダイレクトエアキャプチャーは環境技術のひとつで、大気中の二酸化炭素を効率よく低減できる可能性がある技術として、近年注目を集めています。ここでは、ダイレクトエアキャプチャーとはなにか、必要とされる背景、技術、メリット、課題、そして普及促進の動きについて説明したいと思います。

ダイレクトエアキャプチャーとは?

まずは、ダイレクトエアキャプチャーの概要を説明します。

環境技術のひとつ

ダイレクトエアキャプチャー(Direct Air Capture:DAC)とは、空気を構成する複数の成分のいずれかを直接分離・回収する技術の総称で、環境技術の一種です。特に断りのない場合、二酸化炭素(CO2)の分離回収技術を指します。CO2を対象としたDACは、日本では「CO2分離回収技術」とも呼ばれます。

似たようなものに、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という技術があります。DACは「大気」中のCO2を回収しますが、CCSでは工場や発電所の「排気」からCO2を回収する点が異なります。

似た技術は昔からある

空気中の成分を分離・回収する技術としては、空気中の窒素(N2)を回収して、工業製品であるアンモニアの原料とした例があります。ただ、空気中の窒素の濃度は非常に高いため、回収・分離は比較的容易です。

これに対して、CO2は濃度が0.04パーセントと非常に低いため、効率よく分離・回収を行うためには、DAC特有の技術開発が必要となります。

ダイレクトエアキャプチャー登場の背景

DACの登場は近年の環境意識の高まりにより、温室効果ガスの低減の要請が高まったのが主な背景です。その背景を少し具体的に見ていきましょう。

環境意識の高まり

人間が産業革命以来、産業活動をしてきた結果、さまざまな負の側面が近年急速にクローズアップされてきています。

これは近年、世界的に極端な寒波や大雨などの異常気象が多くなってきていることで、身近に理解できるようになりつつあります。このような異常気象は近年の気温上昇と関連があるのではないかと、肌感覚で考えられているからです。

このため、人々の間で環境意識が世界的に高まっており、特に緊急を要するのが気温上昇、つまり地球温暖化の問題とされています。

パリ協定

地球温暖化は人間の産業活動の結果、温室効果ガスが多く排出されたことが原因とされています。温室効果ガスにはさまざまな種類がありますが、近年ではその多くをCO2が占めていると考えられています。そのため、温室効果のあるCO2を削減する努力が求められています。

そこで、2015年に合意されたパリ協定で、気温上昇を産業革命以前に比べて1.5度に抑える努力を追求することが定められました。そして、パリ協定の締結が契機となって、大気中のCO2を削減するための技術(環境技術)の開発が盛んになったのです。

カーボンオフセット

人間が活動すると、必ずCO2が発生してしまいます。特に、運輸や工業などの産業活動では多くのCO2が発生してしまうことが避けられません。そこで、産業活動で発生したCO2を何らかの手段で減らすことを「カーボンオフセット」と呼び、CO2排出量と吸収量を±0にすることを「カーボンニュートラル」といいます。

カーボンオフセットの最も身近なものとしては、「木を植える(植樹)」ことが挙げられます。しかし、そのためには植林するための土地が必要です。

DACなら、圧倒的に少ない面積でCO2削減ができます。限られた土地と水で空気中のCO2回収ができるのが利点です。そのため、CO2の貯留や利用など、用途に合わせた回収場所が選択でき、より効率的な回収が実現できると言われています。

環境技術というと「大気中にCO2を極力排出しない」技術だけと考えがちですが、「大気中のCO2を積極的に削減する」技術も考えられます。CCSは前者、DACは後者といえます。

ダイレクトエアキャプチャーの技術

ダイレクトキャプチャーの技術は大きく分けると三種類あります。いずれも希薄なCO2を、どうやって効率よくコストをかけず、できるだけ熱エネルギーを消費しないように分離するかに主眼が置かれています。

     
  • 固体を使う方法:特殊なCO2吸着樹脂の表面に空気の流れを触れさせる方法。
  • 液体を使う方法:アルカリ溶液であるアミン系の液体にCO2を溶かす方法。
  • 膜を使う方法:膜に大気を通過させ、CO2だけを濾過する方法。

1.固体を使う方法

特殊なCO2吸着樹脂の表面に、空気の流れを触れさせる方法です。この吸着樹脂は常温でCO2を吸着し、吸着できるCO2の量が限界に達すると(飽和すると)、加熱することでCO2を放出する性質を持っています。この性質を利用してCO2のみを吸着します。

この方法は効率が良く安定的に稼働が可能で、大規模なDACプラントに向いています。反面、CO2を放出するために加熱が必要で、熱エネルギーが必要となります。

もっとも、近年、吸着樹脂の改良が進み、低温加熱で回収が可能なように改良がなされています。これにより、工場の低温排熱を有効に利用できるため、工場の付帯設備として普及が期待されています。

2.液体を使う方法

アルカリ溶液であるアミン系の液体にCO2を溶かす方法です。

CO2は酸性のため、アルカリ性の液体に良く溶けるという性質を持っています。そこで、アルカリ性の液体にCO2を吹き込めば、CO2のみを分離できることになります。そして、このアルカリ性の液体を加熱して沸騰させればCO2を回収できます。

このような性質を持つアルカリ溶液は、アミンと呼ばれる有機化合物に多くあります。アミンとは、ある種類の有機化合物の総称ですが、多くのアミン系の化合物は、沸点が低く、わずかな加熱でCO2を放出します。

このため、固体を使う方法よりも、さらに低温の加熱でCO2を回収することができます。反面、アミンの多くは異臭がしたり、取り扱いが難しいなどの問題があります。

3.膜を使う方法

膜に空気を通過させ、CO2だけを濾過する方法で、特に日本で研究が盛んです。

膜を用いる方法にはさまざまな方法があります。高分子膜やセラミック膜を用いてCO2の分子を物理的に濾過する方法や、近年開発された、イオン液体膜と呼ばれる特殊な膜を使用して、高い分離率を実現している研究もあります。

物理的に濾過する方法は原理的には加熱が必要なく、連続的に分離が可能です。つまり、送風機で大気をプラントに送るだけです。そのため、DACのプラントの構造を単純化でき、熱エネルギーの消費を抑えることができます。反面、分離率が低く、効率が悪いという問題があります。

近年開発されたイオン液体膜を使う方法では、高い分離率が特徴です。また、固体を使う方法や液体を使う方法に比べると、必要な熱エネルギーは少なくて済みます。また、DACプラントも構造が単純化でき、普及すればコストも比較的抑えることができるだろうと言われています。反面、これからの技術で、普及のための工夫が必要になります。

ダイレクトエアキャプチャーのメリット

DACの主なメリットは以下のようなものがあります。

     
  • 工場や火力発電所との相性が良い
  • 効率が高く、スピーディに効果が得られる
  • 回収したCO2を資源化できる
  • 他の環境問題に対して影響を与えにくい

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.工場や火力発電所との相性が良い

工場などではCO2の削減のための取り組みが強化されており排気中のCO2は上述したCCSを用いて極力回収されますが、どうしても大気中に排出される分がでてしまいます。

そこで、DACを用い、排出された分のCO2を回収することで、一企業の活動全体の排出CO2をプラスマイナスゼロ(カーボンニュートラル)にすることが注目されるようになりました。工場の排熱や余ったリソースを有効利用できるため、工場での付帯設備として導入がしやすいというメリットがあります。

2.効率が高く、スピーディに効果が得られる

カーボンニュートラルを実現するためには、いまのところ「植樹」が一般的な方法ですが、植樹は人手がかかり、育つのに何年もかかり、単位面積当たりのCO2吸収率があまり高くありません。

これに対して、DACは植樹よりもスピーディ、かつ効率よくCO2の濃度を低減できます。

3.回収したCO2を資源化できる

植樹では、回収したCO2は木の成長のために使われます。このため、産業利用することができません。これに対してDACでは、CO2のみをそのまま回収するので、炭酸ガスとして工業利用できます。

4.他の環境問題に対して影響を与えにくい

DACはさまざまな方法が研究開発されています。またその技術開発に当たっては、できるだけエネルギーを消費しないように工夫されています。そのため、DACの導入に際して他の環境問題に対して影響を与えにくく、状況に応じてさまざまな導入スタイルが考えられます。

ダイレクトエアキャプチャーの課題

DACの課題としてまず挙げられるのは、コストの高さです。まだ普及段階ではないため、量産できず費用が高額になりがちです。

また、大規模な実証実験は行われておらず、技術的にも未知の部分が多いのも懸念点でしょう。まだまだ開発中で、標準化・規格化の段階からは程遠いのが現状です。

さらに、標準化されたとしても、植樹のように土地があればできるものではなく、専用の設備を持つプラントが必要なため、気軽さにおいても取り組みやすいとは言えないのも課題です。DAC技術開発が進み、普及するためには、助成金など政府による支援が必要だと考えられます。

ダイレクトエアキャプチャーの現状と普及促進の動き

DACは基本的にこれからの技術です。普及にはさまざまなハードルがあります。しかし、官民挙げて世界的に普及促進の動きが高まっています。

ダイレクトエアキャプチャーの現状

エネルギー機関(IEA)のレポートによると、現在のところ大規模なDACプラントは世界で十数基程度です。そして、回収・除去能力は年間約1万トン程度です。

しかし、DACはIEAにより「ネット・ゼロ・エネルギー・システムへの以降における重要な炭素除去オプション」として挙げられており、今後その割合は増え続け、今後数十年で年間数億トンにまで拡大すると予想されている二酸化炭素の除去方法の大部分を占める可能性があると見られています。

実際に、ヨーロッパやアメリカを中心に次々と専門会社が立ち上げられプラント建設が進んでおり、世界中でDACへの取り組みは加速しています。アイスランドでは世界最大規模のDACプラントが建設中であるほか、ドイツの大手自動車メーカー「アウディ」など、専門企業以外の一般企業も取り組みをはじめています。

とくにアイスランドでは、寒冷地であることからこれまでの植樹によるカーボン・オフセットの取り組みが困難だったこともあり、積極的な取り組みの動きが見られます。

普及促進の動き

このような流れの中、日本政府は近年、脱炭素技術開発などを支援する2兆円の基金を活用して、より実用的なDAC技術の開発に資金を提供することになりました。

これは温室効果ガス排出量を削減する目標期限の2030年度までに、CO2濃度が10~数%程度の大気からCO2を分離・回収する技術の実用化を目指す狙いです。

そして、普及促進の取り組みは日本だけではなく世界各国で行われています。例えば、米国のバイデン政権は成立させたインフラ投資法案の中で、二酸化炭素回収技術に80億ドル(約8800億円)を割り当てています。

※分離回収の市場規模が拡大しており、ますますの発展が期待されています。

まとめ

ダイレクトエアキャプチャーはこれからの技術です。現在さまざまな手法が研究・開発されています。

現在のところ、コストが高く、決定版と呼べる技術がないという問題もありますが、CO2の排出割合の大きな工場や火力発電所などとは相性が良く、導入しやすい条件がそろっています。より研究開発が進み、もっと進化した技術が登場した時、ダイレクトエアキャプチャーはより身近な技術になっていくでしょう。

環境問題の意識が高まっている昨今、よりニーズが高まっていくのは間違いありません。

PEAKSMEDIA編集チーム

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