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工作機械業界における市場規模と特徴
製造業の基盤を支える工作機械業界は、自動車やIT機器など私たちの生活に欠かせない製品の製造に関わる重要な産業です。経済産業省が発表した2020年の生産動態統計調査によると、工作機械の生産額は約1兆528億円でした。37兆4,108億円もの生産額を誇る自動車と比べるとその規模は小さく見えますが、国内製造業全体に与える影響は極めて大きいといえます。
マザーマシンとしての重要性
工作機械は「マザーマシン(母なる機械)」と呼ばれ、私たちの身の回りにあるすべての工業製品は、源流を辿れば工作機械によって生み出されています。例えば、身近なペンのフタは射出成型機で作られていますが、その成型機の部品も工作機械で製造されています。衣類を生産する縫製機械や工業用ミシンの部品も同様です。
また、「工作機械の母性原理」という重要な概念があります。これは、工作機械によって生産される部品や製品の精度は、それを作り出す工作機械の精度によって決まるというものです。
つまり、生産される部品の精度は工作機械の精度を超えることができないため、工作機械の性能がその国の製造業の技術レベルを決定づけることになります。
国内外の市場動向と受注状況
日本の工作機械産業は1982年に世界一の生産額を達成して以来、27年間にわたり世界トップの座を維持してきました。
この躍進は、高い精度と耐久性を持つ複合機の開発や、価格対比で優れた品質を提供することで実現しました。特に、日本企業は高付加価値製品の開発にシフトするなど、革新的な技術開発でも業界をリードしています。
現在、世界の工作機械市場は拡大傾向にあり、2025年には2021年比で約1.4倍になると予測されています。この成長市場において、日本は生産額において中国に次ぐ世界2位の座をドイツと争っています。
ただし、中国が「中国製造2025」を掲げて国策として工作機械産業の強化を進めており、今後の競争激化が予想されます。
参考:経済産業省|工作機械及び産業用ロボットに係る安定供給確保を図るための取組方針
(引用日:2024年12月末)
参考:経済産業省|我が国工作機械産業の競争力強化に関するルール形成戦略に係る調査
(引用日:2024年12月末)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2023FY/000282.pdf
【国内】工作機械の主要メーカー
日本の工作機械業界を代表する主要メーカーとして、以下の企業が挙げられます。
- DMG森精機株式会社
DMG森精機は、数値制御旋盤やマシニングセンタを得意とし、2015年にドイツのギルデマイスターグループを完全子会社化して世界展開を加速させています。 - 株式会社アマダ
株式会社アマダは板金加工機械の開発・製造で知られ、グローバルに製造・販売拠点を展開しています。 - 株式会社ジェイテクト
株式会社ジェイテクトは、トヨタグループの主要企業として自動車関連部品の生産を中心に事業を展開しています。 - オークマ株式会社
オークマ株式会社は、高精度な工作機械の製造で知られ、旋盤やマシニングセンタ、研削盤などの幅広い製品ラインナップを誇ります。
【海外】工作機械の主要メーカー
海外の工作機械業界を代表する主要メーカーとして、以下の企業が挙げられます。
- TRUMPF(ドイツ)
TRUMPF(トルンプ)はドイツの工作機械メーカーで、レーザー加工機や工業用レーザー発振器の分野で世界をリードしています。 - 通用技術集団(中国)
通用技術集団は中国の国有企業で、CNC工作機械やシステムの分野で急速な成長を遂げています。 - SCHULER(ドイツ)
SCHULER(シューラー)はドイツのプレス機械専門メーカーで、金属成形技術で高い評価を獲得しています。 - DNソリューションズ(韓国)
DNソリューションズ(旧・斗山工作機械)は韓国の工作機械メーカーで、アジア市場での存在感を高めています。
これらの企業は、それぞれの得意分野で技術革新を進め、グローバル市場でのシェア拡大を目指しています。
工作機械業界が直面する主要な課題
工作機械業界は、人口減少や製造業のグローバル化に伴ってさまざまな課題に直面しています。特に人材不足と技術継承の問題、そして国際競争力の維持が重要な課題となっています。
人材不足と技術継承の問題
少子高齢化が進む日本では、製造現場における熟練労働者の高齢化や人材不足が次第に顕著になっています。特に工作機械業界では、工程間を一気通貫で効率的にデジタル化していく必要性が高まっているものの、それを担う人材の確保が困難な状況です。
技術継承においては、NC研削盤などの高精密加工機での作業に必要な熟練工の技能伝承が特に課題となっています。加工条件の設定や品質管理など、長年の経験とノウハウを必要とする技能の継承が、世代交代とともに困難になってきているのが現状です。
生産現場では、これまで熟練工に依拠していた生産プロセスの構築や品質管理などの対応を、いかに効率的にシステム化していくかが重要な課題となっています。
国際競争力の維持と技術革新
日本の工作機械産業は長年世界をリードしてきましたが、近年は国際競争が激化しています。特に中国は「中国製造2025」を掲げ、官民一体で急速に拡大しています。制御関連機器や専用部素材においても、中国をはじめとする各国の技術力の底上げが進んでいる状況です。
海外勢の台頭を受け、日本企業には新たな技術革新が求められています。デジタル化などの世界的なメガトレンドに沿うかたちで、製造プロセスの高精度化・自動化に関する技術開発が必要です。特に工作機械のソフトウエア面での機能向上や、関連するデジタルツールの開発が重要な課題といえるでしょう。
我が国の工作機械産業が国際競争力を維持するためには、安定供給体制の確保と、デジタル技術を活用した新たな価値創造が不可欠となっています。
今後の工作機械業界の展望
工作機械業界は、デジタル技術の進化と環境への配慮という二つの大きな潮流に直面しています。これらの変化に対応しながら、新たな価値創造への取り組みが進められています。
デジタル化とスマート製造への進化
デジタル化は、工作機械業界における最重要トレンドとなっています。その中でも特に注目されているのが「デジタルツイン」技術です。この技術によって、バーチャル空間上に現実の工作機械を再現し、実際の加工を行う前にシミュレーションや事前検証が可能となります。
製造現場では、オフィスのパソコンからデジタル空間上で「デジタル段取り」を行うことができ、効率的な生産計画の立案が実現しています。
IoTやAIを活用した技術開発も進んでおり、各社は手探りながらも新たな価値創出に向けた取り組みを進めています。
環境対応と省エネルギー化の推進
持続可能な開発目標(SDGs)が提唱される中、工作機械業界でも環境負荷低減への取り組みが加速しています。日本全体の電力消費の約4割を製造業が占めることから、工作機械の省エネルギー化は重要な課題です。
2017年には工作機械の環境性能評価を標準化するISO 14955-1が策定されており、今後は国の政策も相まって、より一層の省エネルギー化が求められることが予想されます。
今後の需要予測と成長戦略
工作機械業界は今後、自動化技術のさらなる発展と新規分野への展開という二つの方向性で成長が期待されています。
自動化技術のさらなる発展
人件費の高騰と人手不足を背景に、少ない人員でより多くの機械を動かす無人化・自動化の需要が高まっています。この実現には、工作機械単体の性能向上だけでなく、生産システム全体の能力向上が必要です。
各社で多軸ロボットアームを活用した自動化の検討が進んでおり、工具の破損チェック、機内の切り屑掃除など、多くの課題に対する自動化案が開発されています。
新規分野への展開の可能性
EVの普及に伴い、自動車産業向けの需要構造が変化しています。特に、モーターやインバーター、バッテリー関連部品の製造に必要な高精度加工機への需要が増加しています。
また半導体製造装置分野では、半導体の需要拡大に伴い、高精密な加工機械への需要が高まっています。航空機産業向けでは、リージョナルジェット向けの需要も期待されています。データ活用による予防保全サービスや生産性向上支援など、IoTを活用した新たな付加価値の創出も進んでいます。
まとめ
工作機械業界は、製造業の基盤を支えるマザーマシンとしての重要性を持ち続けていますが、人材不足や国際競争の激化など、さまざまな課題に直面しています。この状況を打破するためには、デジタル化とスマート製造への進化、環境対応と省エネルギー化の推進が不可欠です。
IoTやAI技術を活用した自動化の促進、EVや半導体製造装置など新規分野への展開により、工作機械業界はさらなる成長を実現することができるでしょう。この変革期において、技術革新と新たな価値創造に取り組むことで、より強固な産業基盤の構築が可能となるはずです。