INNOVATION

イノベーター理論とは何かを事例をまじえて分かりやすく紹介

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イノベーター理論は、商品・サービスを新規でリリースする際に、ぜひ知っておきたい理論です。イノベーター理論では、市場のユーザーをいくつかのタイプに分割し、各タイプでどのような戦略が望ましいかを教えてくれます。

今回は、イノベーター理論における5つのタイプをはじめ、普及のための戦略や事例、顧客タイプの診断・判断方法を解説。また、併せて知っておきたい「キャズム理論」 についてもご紹介します。

イノベーター理論とは何かをわかりやすく紹介

イノベーター理論は、60年前に、米スタンフォード大学の教授エベレット・M・ロジャーズ氏によって提唱されました。

ロジャーズ氏は著書『イノベーションの普及(Diffusion of Innovations)』において、新しい商品やサービスが普及する過程を研究。「第5章 革新性と採用者カテゴリー」では、 上記表のように、ユーザーのタイプを5つに分類しています。

表の横軸は「市場の成長に伴う時間の経過」、縦軸は「商品・サービスを採用するユーザー数」を示しており、新しい商品・サービスの普及は「少しずつ市場に浸透し、ピークを迎え、ゆるやかに減退する」というベルカーブ(正規分布曲線)を描くことが分かります。

なお、表で示されるイノベーター理論の5タイプは以下の通りです。

  • イノベーター(革新者)

新しい商品・サービスをいち早く手に取るユーザー層

  • アーリーアダプター(初期採用者)

イノベーターに続く流行やトレンドに敏感なユーザー層

  • アーリーマジョリティ(前期追随者)

流行に乗り遅れたくないと考えるユーザー層 

  • レイトマジョリティ(後期追随者)

新しい商品・サービスの導入・購入に慎重なユーザー層 

  • ラガード(遅滞者)

5タイプの中で最も保守的なユーザー層 

ここからは、イノベーター理論の5タイプについて、詳細を見ていきましょう。

イノベーター(革新者)

イノベーター(革新者)は、新しい商品やサービスが登場した最初期に導入・購入する、市場の2.5%を占めるユーザー層です。

イノベーターは好奇心が強く、そのぶん情報感度が高い傾向にあります。いわゆるオタク的なユーザーも少なくありません。

価格や商品・サービスのメリットは二の次で「新しさ」に大きな価値を感じています。

  • 大きな価値を感じるのは「新しさ」
  • 価格や商品・サービスのメリットは二の次

アーリーアダプター(初期採用者)

アーリーアダプター(初期採用者)は、イノベーターに続けて登場する、市場の13.5%を占めるユーザー層です。

情報感度の高さはイノベーターと似ていますが、単に「新しさ」に大きな価値を感じているというよりは、製品のメリットにも注目しています。

また、口コミや評価を広める「伝播力」もアーリーアダプターの特徴で、インフルエンサーやオピニオンリーダーを生みやすい層と言えるでしょう。

  • 新しさだけでなく「商品・サービスの具体的なメリット」も判断材料
  • インフルエンサーやオピニオンリーダーが生まれやすく、後のユーザー層への影響力は大

アーリーマジョリティ(前期追随者)

アーリーマジョリティ(前期追随者)は、市場の34%を占めるユーザー層です。

流行に乗り遅れたくない気持ちが強く、そのため流行を早期に捉えるアーリーアダプターの影響を強く受けます。

一方、流行のきざしが見えても、商品やサービスを採用する理由が明確でないと、流行が早く終わったり、一般に定着しない恐れがあります。

  • 流行に乗り遅れたくない強い気持ち 
  • 一方、商品・サービスの導入に慎重さもあり、採用の合理的な理由が必要

レイトマジョリティ(後期追随者)

レイトマジョリティ(後期追随者)は、アーリーマジョリティと同じく、市場の34%を占めるユーザー層です。

新しい商品やサービスに対しては、どちらかといえば懐疑的な立場を取ります。

採用で失敗したくない気持ちが強い一方「流行遅れで古いから嫌だ」という気持ちは、アーリーマジョリティほど強くないと考えられます。

レイトマジョリティが採用を検討するのは「すでに十分に有名で、普及している商品・サービス」「採用の失敗・デメリットがない商品・サービス」と言えるでしょう。

  • 新しい商品・サービスに懐疑的で、採用に慎重
  • 採用を検討するのは「十分に有名で、普及している商品・サービス」

ラガード(遅滞者)

ラガード(遅滞者)は、市場の16%を占めるユーザーです。

流行を追うことに関心がなく、新しい商品・サービスの採用には否定的な立場を取ります。 

「すでにレイトマジョリティまで商品・サービスが普及していること」そして「ある程度の歴史を有して定番化し、一般的になっていること」で、初めて採用を検討します。

市場においては一番保守的な層と言えるでしょう。

  • 新しい商品・サービスの採用に否定的
  • 商品・サービスの採用検討に長い時間がかかる

普及のカギはアーリーアダプターまでの16%

ロジャーズ氏は著書『イノベーションの普及(Diffusion of Innovations)』の中で「新商品・サービスの普及には、イノベーターとアーリーアダプターの16%が重要だ」との旨を提唱しています。

これは、累積採用者数の推移を見ても納得できるでしょう。

『イノベーションの普及(Diffusion of Innovations)』では「アイオワ州の2コミュニティにおける雑種とうもろこしの種の普及」に関する調査が記載されています。

採用者数のグラフを見ると、やはりベルカーブ(正規分布曲線)を描いており、一方、累積採用者数のグラフはS字を描いています。

そして、採用者数と累計採用者のグラフを比較すると「採用者数が16%を超えたあたりから、急激に累計採用者数も増加していること」が分かります。

アーリーアダプターを取り込むための戦略

アーリーアダプター(初期採用者)は流行やトレンドに敏感で、その情報を広めてくれる存在です。そんなアーリーアダプターを取り込むためには、以下のようなポイントをアピールすることが重要となります。 

  • 新しさ

流行やトレンドに敏感ということは、新しさに敏感ということでもあります。新しさのアピールについては、アーリーアダプターのみならず、イノベーターの関心を引くことも期待できます。

  • メリット

イノベーターにとってはあまり重要ではない一方、アーリーアダプターが関心を寄せるポイントとなります。その商品サービスを採用することで「どのような恩恵が受けられるのか」を明確にアピールしてください。

  • 従来の商品・サービスとの比較

アーリーアダプターは、その商品・サービスが流行しそうかをシビアに見極めます。そこでチェックするのが「従来の商品・サービスとの違い」です。どのような差異化が図られているのかを提示することで、アーリーアダプターの納得が期待できます。 

アーリーアダプターをうまく取り込めた事例

アーリーアダプターうまく取り込めたと考えられる事例の1つに「我が国におけるスマートフォンの普及」が挙げられます。

世界にスマートフォンが広まるきっかけとなったApple社の「iphone」が、日本で発売されたのが2008年。しかし「​​我が国の情報通信機器の保有状況の推移」のグラフ(※)を見ると、2010年までの普及率はわずか9.7%にとどまっていたことがわかります。

一方、市場16%への普及に達した、2010から2011年以降ごろより、急激に保有率が上昇。2015年には、なんと72%にまで達しました。

なお「情報通信白書(24年版)」においては、 スマートフォン普及に成功した背景を分析し、企業が取った戦略についても以下のように触れています。

  • 飛躍的な技術革新を達成した
  • 領域を絞り込み高レベルの研究開発投資を実現した 
  • スマートフォン向けの新たなプラットフォームの仕組みも併せて構築した 
  • 当初からグローバル展開(世界市場)を見込んでいた 

(※「情報通信白書 29年版」総務省 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc111110.html

市場開拓のカギは残りの84%?キャズム理論

「新商品・サービスの普及には、イノベーターとアーリーアダプターの16%が重要だ」というロジャーズ氏の主張に対して、一石を投じることとなったのが「キャズム理論」です。

キャズム理論は、マーケティングコンサルタントのジェフリー・A・ムーア氏が自著「キャズム(Crossing the Chasm)」で提唱しました。

その内容は「アーリーアダプターとアーリーマジョリティには、キャズム(深い溝)が存在する」 というものです。

つまり「普及率が16%に達しても安心できない(普及・流行するとは限らない)」と主張していると言えるでしょう。 

実際に、ムーア氏は自著の中で、初期市場からメイン市場への移行において「最重要課題はキャズム(深い溝)を乗り越えることである」との旨を記載。特に、ハイテク企業においては「キャズム(深い溝)を超えることが生死の分かれ目」と厳しい表現を用いています。

キャズムを超えるための方法

キャズムを超えるためには、アーリーマジョリティ(前期追随者)を意識したアプローチが必要となります。具体的な施策の代表例は、以下の通りです。

  • アーリーアダプターの利用事例を活用する 

アーリーマジョリティは流行に乗り遅れたくない気持ちが強いため、アーリーアダプターの利用事例を示すことが効果的です。豊富な利用事例を示すことで、導入への不安を和らげることが期待できます。 

  • インフルエンサーを活用する 

アーリーマジョリティにとって、流行を発信するインフルエンサーは大きな影響力を持つ存在です。具体的には人気YouTuber、ブロガー、SNSのインフルエンサー、あるいは芸能人・有名人などへ働きかけることで、効果的な訴求が期待できます。特に拡散の爆発力・瞬発力は、キャズムを超える上で、非常に心強いと言えるでしょう。

  • アンバサダーを活用する 

アンバサダーとは、製品・サービスに対する理解や愛着が強い人物です。アンバサダーは、インフルエンザーよりも消費者に近い距離にいるため、情報のリアルさや説得力の高さが期待できます。拡散の爆発力・瞬発力は、インフルエンサーほどではありませんが、地道に魅力を広め、ファンを増やすのに向いています。

キャズムをうまく超えた事例

キャズムをうまく超えたと考えられる事例の1つに「ネスカフェアンバサダーの成功」が挙げられます。

ネスカフェアンバサダーとは「コーヒーマシンを無料で貸与し、良質なコーヒーを体験してもらうプログラム」の代表者です。

企業・学校などさまざまな場所にマシンを設置し、コーヒーを体験した人々の口コミ・体験談を広げていきました。

あえてインフルエンサーではなく、アンバサダーをメインに起用したことで、アーリーマジョリティ(前期追随者)以降の層に安心感を与えることに成功。拡散の爆発力・瞬発力に欠ける点は、テレビCMなどのマスメディアでサポートしつつ、キャズムを乗り越えたと考えられます。

顧客のタイプを診断・判断する方法

顧客が、イノベーター理論の中でどのタイプに近いか診断・判断するには、顧客の言動や身につけているものが参考になります。

新しい商品・サービスの話題に積極的であったり、特定の商品・サービスを普及前から利用していたりといった場合は、イノベーターもしくはアーリーアダプターの可能性があります。また、流行の服装をしている、また話題のガジェットを身につけている場合などは、アーリーマジョリティの可能性が考えられるでしょう。逆に、新しい商品・サービスの話題に消極的や否定的など、流行に明るくない場合などは、レイトマジョリティもしくはラガード層かもしれません。

顧客タイプの正確な把握は、難しい部分もありますが「色の好みでタイプが見分けられるのではないか」というユニークな研究もあります。

これは株式会社・色彩舎と関西学院大学が共同で「アーリーアダプターが好む色」を調査した研究です。その結果、以下のような傾向が判明しました。

  • アーリーアダプターが好むスマートフォンの色:ターコイズ、黒。薄いピンクなど 
  • アーリーアダプターが好む自動車の色:オレンジ、黄色など
  • アーリーアダプターが好む文房具の色:青、ターコイズ、黄色オレンジ、など 
  • アーリーアダプターが好む時計の色:薄ピンク、ターコイズ、ゴールド、オレンジ、赤など
  • アーリーアダプターが好む決めファッションの色:ターコイズ、白、ペパーミントグリーン、黄緑、オレンジなど
  • アーリーアダプターが好む話題のレストランの色:うすいピンク、ターコイズ、黒、青など
  • アーリーアダプターが好む話題の観光スポットの色:ターコイズ、うすいピンク 、黒、白 、オレンジ、ターコイズなど

「アーリーアダプターが好む色は地域・国あるいは男女差などで変化するのか」と言った点は、まだ研究の余地があると考えられます。しかし、顧客のタイプを知る手がかりとして、覚えておいても損はないでしょう。

まとめ

イノベーター理論では「市場は5つのユーザー層に分割できる」とし、各層に対して適切なアプローチが変わるとしています。

特に、新しいものに対して敏感な「アーリーアダプターまでの16%の層」は普及のカギです。

ただし、キャズム理論は「アーリーアダプターとアーリーマジョリティには、キャズム(深い溝)が存在する」と指摘しているため、それを乗り越えるための施策も十分に考慮しておくことが望ましいでしょう。 

「新規ビジネスを成功させたい」「商品・サービスをもっと世の中に普及・浸透させたい」という企業はぜひ、イノベーター理論を上手にご活用ください。

PEAKSMEDIA編集チーム

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