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長期脱炭素電源オークションとは|要件やオークションへの参加メリットなどをわかりやすく解説

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長期脱炭素電源オークションは、巨額の初期投資に対し、長期的な収入の予見可能性を付与する入札制度です。2023年度から新たに創設されることになりました。長期脱炭素電源オークションの目的は、再生可能エネルギーへの投資を促進し、電力供給や価格の安定化、そして温室効果ガスの削減を実現することです。

本記事では長期脱炭素電源オークションが登場した背景やその仕組み、方法などについて詳しく解説します。

長期脱炭素電源オークションとは

長期脱炭素電源オークションは、2050年までにカーボンニュートラル目標の達成することに向けて導入された制度です。

その目的は、発電事業者に対し初期投資額の回収予見性を確保をすることで、脱炭素電源への新規投資を着実に促すことです。

2022年3月、東日本において電力需給がひっ迫しました。それを踏まえて、短期的な電力需給のひっ迫を防止する動きが高まったのです。

ここでは、長期脱炭素電源オークションが検討される背景、容量市場との違いについて解説します。

長期脱炭素電源オークションの開催が検討されるようになった背景

長期脱炭素電源オークションの開催が検討されるようになった背景には、下記の要素が挙げられます。

     
  • 中長期的な電力供給の安定
  • 価格高騰リスクの緩和
  • 再生可能エネルギー電源の整備

電力需給のひっ迫や新規投資の停滞によって電力の供給力が低下しており、長期脱炭素電源オークションによる供給力の増加を通じて、電力供給の安定化が期待されています。

電力市場における価格高騰は市場関係者や消費者にとって大きな課題です。脱炭素電源への新規投資を奨励し供給力を確保することで、電力価格の急激な上昇を和らげます。

例えば、太陽光や風力など環境要因に応じて変動する電源がアンバランスになってしまうと、電力価格も大きく上下します。そこで継続的な稼働が可能で、発電単価が安く、安定した供給が見込める電源に注目が集まっています。

また、カーボンニュートラルを実現するためには、化石燃料に依存しない脱炭素エネルギーの供給が必要です。長期脱炭素電源オークションによって、脱炭素電源の整備と関連するプロジェクトへの投資を促進できます。

長期脱炭素電源オークションは、日本がカーボンニュートラルの目標達成に向かうなかで、電力の安定供給と価格の安定を実現するための重要な一歩と考えられます。

容量市場との違い

電力市場には、主に以下のようなものがあります。

■卸電力市場

卸電力市場とは、発電事業者と小売電気事業者、または他の電力事業者間で電力を売買する市場です。日本では、日本卸電力取引所(JEPX)が運営しています。

■需給調整市場

需給調整市場とは、電力需給のバランスを調整するために、発電事業者や蓄電池などの事業者が発電量や蓄電量を調整するサービスを提供する市場です。日本では2020年4月から導入されました。

■容量市場

容量市場とは、将来の電力需給のバランスを調整するために、発電所や蓄電池などの供給力を金銭価値化し、市場取引を通じて効率的に調達する仕組みです。欧米を中心に導入が進んでおり、日本では2020年4月から導入されました。

長期脱炭素電源オークションは、容量市場における特別なオークションに位置づけられています。メインオークションと長期脱炭素電源オークションの違いについて以下の表にまとめました。

長期脱炭素電源オークション メインオークション
目的 電源への新規投資を促進し、とくに脱炭素電源の整備と長期的な電力の安定供給を確保する 一定の投資回収の予見性の確保。将来的に一定期間(単年度)の需要に対して必要な供給力の調達
対象電源 再生可能エネルギーなどの脱炭素電源 実需給年度(応札の4年後)に、供給力を提供できる電源
落札事業者の収入 入札による長期的な固定収入提供、投資回収の予見可能性が高い 容量確保契約金額
おもな運用時期 2023年度から実施、原則20年間の契約 単年度

長期脱炭素電源オークションは、とくに脱炭素電源の整備と長期的な電力供給の確保に焦点を当て、収益の安定性を提供します。

一方、容量市場は供給力の保持が主要な目的であり、市場全体の供給力を競争的に確保するための仕組みです。

第一回長期脱炭素電源オークションの詳細・要件

ここでは、長期脱炭素電源オークションの詳細・要件、またオークションに参加したいと考えている事業者が知っておくべき内容について詳しく解説します。※2023年11月20日記載

 事前登録の受付とスケジュール

事前登録の受付は2023年10月から始まっており、期間内に登録手続きを完了する必要があります。

事前登録を行うための条件は次のとおりです。

     
  • オークション参加予定者は電源を自ら維持・運用し、かつ本オークションに応札する意向を持っていること
  • 参加登録を行う事業者は国内法人であること(日本の法律に基づいて設立され、日本国内に本店または主たる事務所を持つ法人が対象)

参加登録には、「事前手続き」「事業者情報の登録」「電源等情報の登録」「期待容量の登録」の主要な手続きをおこなわなければなりません。

各ステップが完了すると申請者へ登録が完了した旨が通知されます。不備がある場合も通知され、必要な修正が求められます。不備が判明した場合、受付期間が終了する前に再申込みをおこなう必要があります。

対象電源

下記は、長期脱炭素電源オークションにおける対象電源の要件についての詳細です。

【安定電源】

     
  • 水力電源(調整式または貯水式に限る)
  • 火力電源(LNGに熱量ベースで水素を10%以上混焼させる火力電源または水素専焼の火力電源に限る)
  • 原子力電源
  • 地熱電源
  • バイオマス電源
  • 既設火力電源をバイオマス専焼にするための改修(改修によって新たに生じるバイオマス部分が対象)
  • 既設火力電源をアンモニア混焼または水素混焼にするための改修(改修によって新たに生じるアンモニアまたは水素部分が対象)
  • 水力電源(揚水式に限る)
  • 蓄電池(1日1回以上3時間以上の運転継続が可能であることが必要)

【変動電源】

     
  • 水力電源(流込式に限る)
  • 太陽光電源
  • 陸上風力電源
  • 洋上風力電源

【LNG専焼火力】

     
  • LNGのみを燃料とする火力電源(新設またはリプレース)

参照元:資源エネルギー庁

電源の種類には募集要綱において特定の条件が設けられており、条件を満たす電源のみがオークションの対象となります。

最低入札容量

最低入札容量は、オークションへの参加に際して提出する入札の最低容量を規定しています。電源種別によって異なる要件が設けられており、最低入札容量は下記(参考図に示される)のとおりです。

対象 最低入札容量
①新設・リプレース案件
※④⑤除く

10万kW

※設備全体の送電端設備容量ベース

※同一場所の発電所の別の①~③の案件と同時落札条件付の入札を行い、合計10万kW以上となる場合も可

②既設火力をバイオマス専焼にするための改修

10万kW

※新たに生じるバイオマスkW部分の送電端設備容量ベース

※同一場所の発電所の別の①~③の案件と同時落札条件付の入札を行い、合計10万kW以上となる場合も可

③既設火力のアンモニア・水素混焼にするための改修案件

5万kW

※新たに生じるアンモニア・水素kW部分の送電端設備容量ベース。

※同一場所の発電所の別の③の案件と同時落札条件付の入札を行い、合計5万kW以上となる場合も可

※既設の火力電源を改修し、水素混焼のガスタービン発電設備を追設する場合は、追設するガスタービン発電設備(その排熱由来の蒸気を用いて蒸気タービン・発電機で発電する部分も含む)の送電端設備容量が10万キロワット以上必要

※同一場所の発電所の別の①~③の案件と同時落札条件付の入札を行い、合計10万kW以上となる場合も可

④揚水・蓄電池の新設・リプレース案件

1万kW

※設備全体の送電端設備容量ベース

※発電可能時間3時間以上のものに限る

⑤LNG火力の新設・リプレース案件

10万kW

※設備全体の送電端設備容量ベース

※同一場所の発電所の別の⑤の案件と同時落札条件付の入札を行い、合計10万kW以上となる場合も可

参照元:資源エネルギー庁

再生可能エネルギー発電や既設の火力発電をバイオマス専焼への改修、LNG火力の新設またはリプレース案件については、最低入札容量が原則として10万kWとされています。

既設の火力発電をアンモニアや水素の混焼への改修案件については、最低入札容量が5万kWとされています。揚水・蓄電池の新設・リプレース場合、最低入札容量は1万kWです。

以上の要件に従って、参加事業者はオークションで入札する電力供給能力の最低要件を満たす必要があります。

募集容量

募集容量は電源タイプによって異なる上限が設けられており、供給力と調整力の両方を考慮して設定されます。

2021年度の市場で、全体調達量の7割を占めている化石電源は約1.2億kWです。1.2億kW分の化石電源を脱炭素電源に転換する場合、年平均で600万kW程度の導入が必要です。しかし、技術の進化による効率的な導入の可能性を考慮し、2023年度の初回オークションではスモールスタートとして募集容量400万kWと設定されています。

既存の火力電源の改修案件、蓄電池および揚水発電に関する上限はそれぞれ100万kWです。LNG火力については、初回オークションから3年間で合計600万kWの募集がおこなわれる予定であり、2050年までに脱炭素化が進められることが前提です。

以上の取り決めは、非効率とされる火力発電からの変換を後押しし、脱炭素化を促進することを目的としています。

入札価格の算定方法

長期脱炭素電源オークションの入札価格の算定方法は、まず電源事業者は電源プロジェクトの応札容量(発電能力)と希望価格を提出し、kW当たりの価格で入札をおこないます。


入札価格が低い順にオークションが進行し、価格が最低の電源から順に落札される仕組みです。募集容量(支援対象となる電源の総容量)を超えるまで電源プロジェクトが順に落札されます。

電源事業者の提示した希望価格とプロジェクトの容量に基づいて、支援金額(容量支払い)が計算され、落札された場合にその金額を受け取ることができます。

長期脱炭素電源オークションで採用される方法は、電力市場における競争を奨励し、新規の電源プロジェクトの適正価格を設定するのに役立ちます。

なお、電源事業者は建設費、系統接続費、廃棄費用、運転維持費用などを価格に織り込み、プロジェクトの実行にかかる費用を考慮して価格を設定することが可能です。

オークションの上限価格

オークションの上限価格は、電力購入契約のための応札価格を最大限に許容できる値です。上限価格は、異なる電源種別や設備のタイプ(新設、リプレース、改修)に応じて異なり、地域によってもさまざまな上限価格が適用されます。

事業者はオークションに参加する際、上限価格も低い値で応札しなければなりません。オークションにおいて応札価格が上限価格を超える場合、その応札は無効となります。理由は、オークション透明性や健全性を確保し、電力購入価格の適切な管理を保つためです。

具体的な上限価格は電源種やリプレースの有無、また地域によって異なるため事業者は要件を十分に理解し、自身の応札価格が上限以下になるように計画する必要があります。また、上限価格は時間の経過とともに変動する場合があるため、最新の情報を確認して正確な上限価格を把握することが重要です。

<新設・リプレース>

(円/kW/年)

新設の上限価格 リプレースの上限価格
太陽光 100,000
陸上風力 100,000
洋上風力 100,000
一般水力 72,916 37,319
揚水 100,000 55,308~74,690
蓄電池 55,308~74,690
地熱 100,000 全設備更新型:97,104
地下設備流用型:58,262
バイオマス 100,000
原子力 100,000
水素(10%以上) 48,662
LNG 36,945

<既設火力の改修>

(円/kW/年)

上限価格
水素10%以上の混焼にするための改修 100,000
アンモニア20%以上の混焼にするための改修 74,446
バイオマス専焼にするための改修 81,637

※次頁の諸元を元に算定。閾値の10万円/kW/年を超える場合は10万円/kW/年。

※合成メタンは、水素の中に含まれる。

※アンモニアの新設・リプレースは、発電コスト検証において石炭火力と混焼する場合のコストデータしか示されていないこと、 及び、LNGとの混焼による新設・リプレース案件の応札が想定されないことから、今後、必要に応じて設定。(よってそれまでの間は入札できない。)

※CCSは、固定費・可変費の整理など、プロジェクトのコスト構造が未定であるため、今後、明確化した段階で設定 (よってそれまでの間入札はできず、CCSプロジェクトの状況を見つつ、今後必要な議論をする)。

電源が設置されたエリアによって、以下のように設定します。

北海道:57,598円/キロワット/年
東北:55,308円/キロワット/年
東京:74,690円/キロワット/年
中部:59,738円/キロワット/年
北陸:56,101円/キロワット/年
関西:60,761円/キロワット/年
中国:56,477円/キロワット/年
四国:55,826円/キロワット/年
九州:60,595円/キロワット/年

長期脱炭素電源オークションのメリット

長期脱炭素電源オークションは、持続可能な電力供給を促進するうえで重要な役割を果たします。主なメリットを紹介します。

     
  • CO2などの温室効果ガスの排出量を減らすことができる。
  • カーボンニュートラル実現のための電源を増やすことができる。
  • 安定的に電力が供給されることにつながる。
  • 投資予見性を高められる。

長期脱炭素電源オークションは、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、発電事業者の投資回収予見性を確保することで、脱炭素電源への投資を着実に促すことにより、脱炭素電力の価値を提供するとともに、中長期的な観点から安定供給上のリスクや価格高騰リスク抑制が期待されます。

参加事業者に対して、固定費に相当する収入を20年間調達するための入札が実施されるため、売電収入に左右されることなく投資予見性を高められます。

最終的に電力供給の安定化が実現されれば、電気供給の急激な変動から発生するリスクを減らし、市場参加者や消費者の利益保護を同時に達成することが可能です。

オークションに参加するメリットのある事業者

長期脱炭素電源オークションのメリットを享受できる事業者として、以下が挙げられます。

     
  • 再生可能エネルギー発電事業者
  • 大手電力会社やインフラ運営者
  • 大規模企業

再生可能エネルギー発電所を所有または運営する事業者は、新たな発電所の建設や既存発電所の改修によってメリットを得られます。

電力やインフラ運営者は、市場関係者や消費者に対して電力を安定的に供給でき、収益の確保に貢献できます。

カーボンニュートラルの取り組みを推進する大企業は、オークションによる電源の割合を増加させ、環境にやさしいビジネスモデルを構築することが可能です。さらに、電力効率の向上や温室効果ガス排出削減を重視する事業者は再生可能エネルギーへの投資により、持続可能なエネルギー供給を実現できます。

長期脱炭素電源オークションは、再生可能エネルギーへの投資や電力供給の安定化を実現したい事業者にとって、今後の電力分野で活躍できる機会を提供できるといえます。

引用元:経済産業省│長期脱炭素電源オークションについて

まとめ

長期脱炭素電源オークションは、巨額の初期投資に対し、長期的な収入の予見可能性を付与する入札制度です。

さらに、長期的な電力供給と価格の安定を図り、さらに温室効果ガスの削減を進めるための重要な取り組みです。再生可能エネルギーの整備や脱炭素電源の促進に寄与し、カーボンニュートラルの目標を実現すると期待されています。

PEAKSMEDIA編集チーム

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