INNOVATION

破壊的イノベーションとは|事例や必要とされる理由、種類などを解説

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破壊的イノベーションが業界に与える影響は大きく、時には業界だけでなく社会構造や経済成長にも寄与する取り組みであるとして注目されています。

過去を振り返っても、破壊的イノベーションに成功した企業が業界のリーディングカンパニーとなっている事例は多く、企業規模・業種に関わらずチャンスがあるとわかります。

本記事では、破壊的イノベーションの概要や種類・必要とされる背景・事例について解説します。

破壊的イノベーションとは

破壊的イノベーションとは、従来のやり方・固定観念・ルールと異なる、新しい価値観の創造を指す言葉です。ビジネスシーンにおいては、業界構造が変わるような革新的な取り組みや、柔軟な発想に基づく先進技術の活用を指すことが多いです。

例えば、固定電話から携帯電話、携帯電話からスマートフォンへの変遷などが「破壊的イノベーション」のひとつです。移動性・多機能性・小型化を追求した変遷であり、通信業界の構造も大きく変化していきました。

誰も見たことのない新たな事業が「破壊的イノベーション」と呼ばれており、担い手企業は業界におけるキープレイヤーとして成長することも多い点に注目しておきましょう。

持続的イノベーションとの違い

破壊的イノベーションと混同されがちな言葉として、「持続的イノベーション」があります。持続的イノベーションは、既存事業の価値観をさらに向上させるイノベーションを指す言葉です。

「改善」「改良」を指す言葉でもあり、日本企業が得意としてきました。今ある業界構造を抜本的に変えることではなく、カスタマーサポートの充実による顧客満足度向上や、コストダウンによる販売価格の引き下げにまつわるイノベーションも「持続的イノベーション」に含まれます。

一方、破壊的イノベーションは、「改善」「改良」ではなく「革新」「刷新」を指す言葉です。全くの新しい価値を生み出すのが破壊的イノベーションであり、既存の枠組みに捉われないという点で持続的イノベーションとは異なります。

イノベーションのジレンマとは

イノベーションのジレンマとは、既にある程度成功している会社が、破壊的イノベーションに対して後ろ向きになってしまう現象を表す言葉です。

イノベーションのジレンマが起きる理由は、今まさに成功して軌道に乗っているからこそ未知の先端技術や新しいアイディアが、既存事業にマイナスの影響を与えないか危惧してしまうからです。

守りの姿勢を取ったり、リスクやデメリットを避ける動きになってしまったりすることで、破壊的イノベーションのチャンスが失われてしまう点に注意しましょう。

反対に、スタートアップやベンチャー企業、またはこれから起死回生の施策を打とうと考えている企業では、イノベーションのジレンマが起こりにくいといわれています。

革新的なアイディアが持つ可能性を信じやすく冒険しやすいからこそ、イノベーションのジレンマが起きにくいのです。

破壊的イノベーションの種類

破壊的イノベーションには、下記の2種類があります。

  • ローエンド型破壊的イノベーション
  • 新市場型破壊的イノベーション

下記でそれぞれの違いについて詳しく解説します。

ローエンド型破壊的イノベーション

ローエンド型破壊的イノベーション(低価格型破壊的イノベーション)とは、「シンプル」「安価」「利便性」を重視した破壊的イノベーションのことです。

例えば、均一料金で高品質な商品を販売する100円ショップや、効率的な接客と楽しい購買体験とを組み合わせた回転寿司などが挙げられます。いずれも雑貨・寿司などもともと市場に存在していた商材を扱っていますが、販売手法を抜本的に変えたことで消費者のニーズを掴んでいます。

ローエンド型破壊的イノベーションが生まれる前の業界では、「安いものは品質も悪いだろう」「利便性を重視しすぎると丁寧な接客ができなくなるだろう」など、「シンプル」「安価」「利便性」に対しネガティブなイメージが蔓延していることが多いです。

しかし、ローエンド顧客市場のニーズに応える販売手法が評価されると爆発的な売り上げにつながり、大きなシェアを獲得できることも珍しくありません。

新市場型破壊的イノベーション

新市場型破壊的イノベーションとは、既存市場に新しい技術やアイディアを反映させて1からニーズを作り出していくイノベーションです。

前述した固定電話から携帯電話への変遷は、それまで誰も考えていなかった「電話の持ち運び」という点で注目され、新市場型破壊的イノベーションとなりました。同様に、電話やメールのやり取りだけでなく決済やクラウドツールの活用ができるスマートフォンの誕生も、新市場型破壊的イノベーションに該当します。

その他、フィルムカメラと置き換わったデジタルカメラ市場や、ビデオレンタルと置き換わったサブスク型の動画配信市場なども新市場型破壊的イノベーションのひとつです。

また、動画配信サービスはインターネットを通じて、さまざまな動画を好きなときに好きなように視聴できるサービスとして登場し、テレビの視聴スタイルを大きく変えました。これによって、従来のテレビ市場を破壊し、新たな動画配信サービス市場を創出しました。

その時代ごとの最先端技術を使いながら、新たな顧客層を取り入れることが可能になります。

破壊的イノベーションが必要とされる理由

破壊的イノベーションが必要とされる理由は、下記の通りです。

  • 新しい市場の創造
  • 既存市場の変革
  • 経済成長への貢献

下記でひとつずつ解説します。

新しい市場の創造

破壊的イノベーションは新しい市場を創造でき、業界全体に大きなインパクトを与えるからこそ必要性が高いといわれています。

なかでも、既に飽和状態にある業界においては破壊的イノベーションが急務です。飽和状態が続くと今いる顧客を奪い合う構造になりやすく、価格競争が激化してどの企業の収益も下がるなど、やがてネガティブな影響が大きくなっていきます。

競合とは異なる革新的な製品やサービスを提供することで、新市場を開拓するキープレイヤーとして市場における高いシェアを獲得し、企業の収益の拡大にも貢献します。そのため、経営戦略の一環として破壊的イノベーションに取り組む企業が多いのです。

既存市場の変革

破壊的イノベーションは、キープレイヤー企業だけでなく業界全体にも影響を与えます。キープレイヤー企業の動きを参考にしながら業界全体が少しずつ変わっていくため、イノベーションが業界の新たなスタンダードとなることも珍しくありません。

製品の性能が向上し顧客満足度が高くなり、世の中の利便性がさらに向上するなど消費者に与える影響も大きくなります。

また、成長途中にある業界では優秀な就職・転職希望者が増えるなど、内部が少しずつ変わるきっかけを掴めることも多いです。業界全体が活性化し、将来的な成長につながる効果もあると考えれば、破壊的イノベーションがもたらす効果は非常に高いといえます。

経済成長への貢献

破壊的イノベーション、経済成長への貢献にも寄与します。

例えば、品質の良い商品を安価に使えるようになったことで予算を他のサービスに使えるなど、経済効果を高めます。最先端技術の活用で地球に優しい生産活動ができるようになったり、さらなる業務効率化を図ることで既存従業員のワークライフバランス向上ができたり、副次的なメリットも多いので注目しておきましょう。

少子高齢化が進み、労働人口が減りつつある今の時代だからこそ、破壊的イノベーションを必要とする声も出ています。破壊的イノベーションは、業界の枠を超えて経済全体に影響するケースも少なくありません。

破壊的イノベーションの注意点

破壊的イノベーションの効果は非常に高い一方で、注意点もあるので確認しておきましょう。

  • 社会的影響への懸念
  • 多額の投資が必要
  • 従業員の必要人数が減少する可能性

下記で詳細を解説します。

社会的影響への懸念

破壊的イノベーションはその業界だけでなく、社会全体に大きな影響を与えるからこそ慎重になるべきという声もあります。例えば、破壊的イノベーションにより誕生した新たな商品・サービスが既存商品の立ち位置を危うくする場合、既存企業の収益源・倒産などが起こり得ます。

資本主義である以上、それぞれの企業の責任だと切り捨てることは簡単です。しかし、既存企業の従業員だけでなく、その取引先・株主・地域社会等にも影響があると考えれば懸念が多くなります。複数の企業が倒産することで産業自体が衰退したり、失業率が高くなったりすることにも注意しましょう。

そのため、破壊的イノベーションを起こすときは、社会的責任についても十分考慮しておくことが欠かせません。自主的な規制・規律を導入するなど、配慮が求められることもあります。

多額の投資が必要

破壊的イノベーションは、新たな価値観を創造する取り組みであることから多額の投資を要します。新たな商品・サービスを1から作るため、設備投資も人材投資も必要です。取引先の開拓や部署の新設など、大きな手間とコストがかかります。

破壊的イノベーションは成功する可能性がある一方で、当然ながら失敗する可能性もあります。投資した額を回収できるか、資金調達や株主の説得ができそうか、事前に入念なシミュレーションが必要でしょう。

また、十分なリスクマネジメントをしておくことで見切り発車になることを抑制し、効果的な戦略とすることも欠かせません。

従業員の必要人数が減少する可能性

新しい技術やビジネスモデルを生み出す破壊的イノベーションによって、従業員の必要人数が減ることは珍しくありません。革新的な技術で業務効率が上がったからこそ最小限の人数で仕事を回せるようになったり、人材の数に対して仕事量が十分でなくなったりする恐れもあります。

逆に人件費ばかり膨らんで収益を圧迫するなど、デメリットの方が多くなるケースもあるため注意しましょう。急なリストラや社内失業が起きると従業員満足度や業界内での評判も下がってしまい、会社全体にダメージを与えます。

破壊的イノベーションを起こすときは、従業員のリスキルや再雇用の促進が欠かせません。新しい技術やスキルを習得してもらい、他の業務に対応できるよう教育育成するなど工夫し、万が一失業した従業員がいれば一定期間の生活費を保障するなど十分な配慮を心がけましょう。

破壊的イノベーションの事例

最後に、破壊的イノベーションの事例を紹介します。新市場型破壊的イノベーションとローエンド型破壊的イノベーションそれぞれの事例をピックアップしているので、よりリアルなイメージをしたいとき参考にしてみましょう。

ソニー(新市場型破壊的イノベーション)

ソニーはそれまでになかった移動式音楽再生プレイヤー「ウォークマン」を発売し、業界に破壊的イノベーションを起こしました。それまで音楽は「自宅で聞くもの」として定着しており、再生機器は家のなかで持ち運びできるCDコンポ等に限定されていました。

しかし、ウォークマンの台頭によってポケットに入る小さなサイズの再生機器を持って外出できるようになり、出先のカフェや電車での移動中にも音楽が聞けるようになりました。結果、音楽を聞く人の層がグッと広がり、新たなニーズも生まれています。

また、ソニーは音楽再生の質を良くする「持続的イノベーション」の面でも大きく貢献しています。音質を劣化させることなく、移動式端末に音楽を移す技術や世界にも引けを取らないノイズキャンセリング機能の搭載など、さまざまなシーンで業界をリードしました。

Apple(新市場型破壊的イノベーション)

AppleはPCブランド「Macintosh」やモニター一体型PCの「iMac」、小型ハードディスク搭載のオーディオプレイヤー「iPod」の開発など、さまざまな破壊的イノベーションを起こしています。

2008年には「iPhone」を発表し、キーボードと液晶画面を一体化させ、フリック操作で動く多機能型モバイル端末として世界中で注目を集めました。

また、腕に装着できるウェアラブル端末「Apple Watch」に健康管理機能を搭載するなど、新たな取り組みにも積極的です。

世の価値観が変化していくと共にApple社が新たな商品を開発しているため、今後も驚くようなツールが出るかもしれません。

ユニクロ(ローエンド型破壊的イノベーション)

ファッションブランドとして台頭し、いわゆる「ファストファッション」を牽引した存在といえます。

同じデザインでありながら豊富なカラーバリエーションやサイズ展開をしたことで、老若男女問わず利用できるブランドとして確立したのも特徴です。

また、店員による接客を最小限に抑えて、顧客がじっくり服を選びやすくしたシステムや「ヒートテック」「エアリズム」など独自のブランドを設けたことで、特定のニーズにフォーカスする販売戦略にも注目が集まっています。

「良いものを安く提供する」という方向性に舵取りした、ローエンド型破壊的イノベーションの成功例となりました。

 IKEA(ローエンド型破壊的イノベーション)

IKEAは「顧客自ら組み立てる家具」という販売戦略で、ローエンド型破壊的イノベーションを起こした企業です。

それまでの家具は家具屋による組み立て、または既に完成品を販売するのが主流であり、多くの配送費や人件費がかかっていました。しかし、顧客自ら家具を組み立てて使う方式が一般的になったことで配送費も人件費も抑えられた他、在庫管理にかかる倉庫費も減少し「手に入れやすい価格」を設定できるようになっています。

今でこそ多く見られるようになった「組み立て家具」を始めたのがIKEAであり、高品質な家具を誰でも手軽に入手できるようになる最初の一歩を踏み出しています。

まとめ

破壊的イノベーションは、ビジネスにおいて固定観念にとらわれず新たなニーズや価値観を創出する取り組みであり、業界構造や消費者ニーズを大きく変える可能性が高い手法といえます。

新しい市場の創造や経済成長への貢献などさまざまなメリットがあるため、自社で破壊的イノベーションできる可能性があるかシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。

PEAKSMEDIA編集チーム

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