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MOT(技術経営)の必要性とは?MOTの考え方を浸透させるためのポイントを解説!

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日本の製造業において技術力は高くても、技術リソースやイノベーションを適切に管理できていない現状があります。MOT(技術経営)を取り入れることで、新しいビジネスチャンスをつかむことができ、収益を最大化することが可能です。

当記事では、MOT(技術経営)の概要について、また導入する際のポイントやメリットをわかりやすく解説しています。

MOT(技術経営)とは

MOT(技術経営)とは「management of technology(マネジメント オブ テクノロジー)」の略です。会社組織が技術的なリソースやイノベーションを効果的に管理し、技術の開発成果を商品や事業に結びつけて、経済的な価値を生み出すことを意味します。

MOTは変化の激しいビジネス環境に置かれている企業が今後も成長を続け、企業を存続させるための重要な考え方です。技術経営は他にも、エンジニアリングマネジメント、テクノロジーイノベーションマネジメントなど様々な呼ばれ方があります。

MBAとの違い

MOTと混同されやすい経営学の専門領域にMBA(Master of Business Administration)があります。
MBAは、ビジネス目標を達成するための戦略的なアプローチの中で、後半の「事業化」「産業化」を指しますが、MOTは前半の「技術研究」「開発」を進める点に違いがあります。

MOT(技術経営)が求められる理由

MOT(技術経営)は、製造業を代表とする各企業において求められている考え方です。MOTが求められる背景について解説します。

日本の製造業は、これまで高い技術力を生かした商品開発を行い、日本経済の成長を後押ししてきました。しかし、グローバル化されたビジネス環境では目まぐるしい変化が起きており、「技術」や「ノウハウ」を経営に活かせない製造業が競争に乗り遅れるようになりました。新しい技術を活かして設計図通りに商品を開発しても、世間のニーズにマッチしなければ売上を伸ばせるとは限りません。

社会のニーズが目まぐるしく変化する中で競争に勝つためには、新たなアイデアや価値を創出するスピード感や、製造業が持つ技術やイノベーションの管理が必要です。技術をいつでも活かせられるような組織体制・組織経営が現在の製造業に求められています。

今後は、さらなる技術の発展によって技術が細分化されていくため、今のうちに技術と経営の本質を理解し経済活動を進める必要があります。

日本国内におけるMOT(技術経営)の現状

日本国内におけるMOT(技術経営)の現状について解説します。

日本では技術開発の環境が非常に整っています。国がイノベーションや技術の進歩を支援する程度を示す重要な要素に、研究開発支出のGDPがあります。日本は研究開発支出のGDPに占める割合が世界で3位であり、特許取得数も世界3位です。GDPの2割が製造業であり、研究費用の89.9%が製造業であることから、日本は新しい技術が常に生まれ続けている国であることが分かります。

この数字に対して、日本のビジネス効率は世界で47位と非常に低い数値となっています。内訳として生産性が54位、労働市場が44位、マネジメント管理は62位という結果です。

これらのことから、日本ではMOTをうまく経営に活かしきれていないといえるでしょう。新しい技術が生まれているのにもかかわらず、ビジネス効率が非常に悪いことが分かります。

MOT(技術経営)を導入するメリット

MOT(技術経営)を導入するメリットは、以下のとおりです。

     
  • 新しいビジネスチャンスを掴むことができる
  • 収益の最大化を図ることができる
  • 外部ネットワークとの関係を構築・強化できる

MOTを導入すれば、技術力と経営を結びつけることができ、効率的なビジネスモデルが構築できます。それぞれのメリットについて解説します。

新しいビジネスチャンスを掴むことができる

MOTを導入することで、新しいビジネスチャンスを掴むことができます。MOTを導入して、将来の市場や技術の変化に対応できる技術力を社内に確保します。

自社の強みを活かしつつ、競合が少ない分野で新規ビジネスチャンスを創出すると企業として成長が見込まれます。社会のニーズを把握しながら、自社の技術力をきっかけとした新しいイノベーションを起こせるようになります。

収益の最大化を図ることができる

MOTを導入すると収益の最大化を図れるようになります。

新しい技術開発によって、市場の求めるニーズに対して新しい商品を投入でき市場での優位性を保てるようになります。

技術力のリソースを戦略的に管理できるため、リソースが最適化されコスト削減につながります。売上が伸びてコストを削減でき、収益の最大化を図れるようになります。

外部ネットワークとの関係を構築・強化できる

MOTを導入することで外部ネットワークとの関係を構築・強化できます。技術革新を進めるためには、大学などの研究機関やベンチャー企業との関係が必要不可欠です。

自社での研究開発と融合して外部ネットワークからの知見を取り入れることで、新規事業の創出につながりやすくなります。

MOT(技術経営)導入のポイント

日本では、MOT(技術経営)の考え方が企業内に導入できていない課題があります。MOTを導入するポイントは以下の通りです。

【MOT(技術経営)導入のポイント】

     
  • 自社の強みを明確に認識する
  • MOT人材の育成・確保
  • 社内体制の見直し
  • 具体的な目標や行動計画を設定する
  • MOT導入に役立つ補助金を活用する

MOTを導入する際には、自社の強みを改めて再認識し、技術者の育成と社内体制の見直しが重要になります。MOT導入のポイントを解説します。

自社の強みを明確に認識する

MOTを導入する際、自社の技術的な強みを認識することが重要です。自社独自の技術力は他社と差別化を図る上でも重要で、経営の軸になります。経営の軸となる技術力が明確になると、市場の中での立ち位置が可視化され、社内で技術力のマネジメントがしやすくなります。

逆に自社の強みが明確になっていないと人材や資金のリソースを集中化できず、技術発展の機会損失を引き起こしてしまうので注意が必要です。

MOT人材の育成・確保

MOT人材とは、組織内でMOTの実践や推進に必要なスキルを有している人材のことです。組織内にMOTの実現に必要な人材がいなければ、早期なる導入や実践が難しくなります。

MOT人材に求められるスキルには、以下のようなものがあります。

     
  • 専門的な技術スキル
  • 戦略を立案するスキル
  • プロジェクト管理スキル
  • 変化への適応能力
  • リーダーシップ

MOT人材を育成・確保するためには、専門的な研修制度が必要です。社内でMOT人材を育成できる環境を構築します。また、専門家とのコミュニケーションを取ることで、新たな知見を得られるようになります。

社内体制の見直し

MOTを導入するときに社内体制を見直すことはとても重要です。

MOTを導入して技術的なイノベーションが起こりやすく、組織力が向上する社内体制を構築します。たとえば、MOTを推進するためのリーダーを選任します。役割が明確になることで、責任が可視化され組織としてPDCAサイクルが回しやすくなります。

他にも情報共有とコミュニケ-ションが活性化される組織を構築します。MOTに関するプロジェクトが推進しやすくなる社内体制になるよう見直しが大切です。

具体的な目標や行動計画を設定する

MOTを導入して組織が目指すべき場所はどこなのか、具体的な目標や行動計画を設定します。目標があるとプロセスにおける軌道修正がしやすくなり、計画と実績の検証をできるようになります。

技術経営の目標が明確であれば、プロジェクトメンバーのモチベーション維持にもつながります。

MOT導入に役立つ補助金を活用する

技術経営を行う企業に対して、人材育成を後押しする補助金や助成金があります。以下に役立ちそうな補助金の例を紹介します。

MOT導入に活用できる補助金概要
科学研究費助成事業科学技術の進歩や知識の拡充を目指して実施する研究プロジェクトを支援するための助成制度
新製品・新技術開発助成事業イノベーションの促進や競争力の強化を図ることを目的に、製品や技術の開発を行う際に必要な資金を支援する助成制度
事業再構築補助金技術経営を通して事業を再構築することを目的にした資金提供補助金制度
ものづくり補助金新製品の開発や生産技術の向上を行う際に支援を受ける助成制度で、雇用促進も目的の1つとなっている

MOTを社内に導入した事例

MOT(技術経営)を社内に導入した事例について紹介します。

【国内事例】三菱ケミカル株式会社

三菱ケミカル株式会社は、「人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくこと」を表したKAITEKI経営を推進しています。KAITEKI経営とは、3つの基軸で捉えた独自の経営手法のことです。サスティナビリティ軸、経済効率性軸、イノベーション軸(MOT)があります。

MOTでは、新規技術の開発や技術の差異化などを通じて、経済的価値や社会的価値の向上に資するイノベーションの創出をめざしています。3つの軸を定量評価によってPDCAサイクルを回し、企業価値の向上に取り組んでいます。

【海外事例】GAFA(Google/Apple/Facebook/Amazon)

世界を代表するIT企業のGAFAは、MOTを取り入れることで事業を拡大してきました。

GAFAはMOTを活用して、新しい技術や製品の開発・市場の変革に取り組んでいます。研究や開発に力を入れており、将来的な社会のニーズを捉えた企業活動を続けています。IT業界におけるリーダーシップを確立しており、今後も持続的な成長とイノベーションの実現における主役になると考えられます。

MOTが学べるプログラムを5つ紹介

MOT(技術経営)が学べるプログラムを5つ紹介します。

【MOTを学べるプログラム】

     
  • 東京工業大学 環境・社会工学院 技術経営専門職学位課程
  • 東京理科大学大学院 イノベーション研究科 MOT技術経営専攻
  • 東京理科大学大学院 イノベーション研究科 MOT技術経営専攻
  • 九州大学 ビジネス・スクール
  • 日本工業大学専門職大学院 大学院技術経営研究科 技術経営専攻

日本では大学やビジネススクールでMOTを学ぶことができます。将来のキャリアパスをイメージしながら、自分に合ったプログラムを選択する必要があります。

東京工業大学 環境・社会工学院 技術経営専門職学位課程

技術研究に定評のある東京工業大学のプログラムで、技術経営に関する高度な知識とスキルを習得できます。企業でリーダーシップを発揮し、イノベーションを生み出す人材育成を目的にしています。

東京工業大学は産学連携に強みがあるため、実際の企業と協力をして実践力を学ぶことが可能です。MOTをどのように浸透させていくか、体感しながら力をつけることができます。

東京理科大学大学院 イノベーション研究科 MOT技術経営専攻

東京理科大学の大学院が提供しているMOTを専門にしたプログラムです。経営と技術の融合に焦点を当てており、社会に出てから企業内にMOTを浸透させる力を身に着けられるプログラムとなっています。

MOTに必要なリーダーシップ・マネジメント・コミュニケーション能力を身に着けながらスキルアップできるプログラムです。

北陸先端科学技術大学院(JAIST) 技術経営コース

石川県にある北陸先端科学技術大学院が提供しているMOTを学べるプログラムです。東京にサテライト拠点を設けているため、都市部で勤務している人も受けられるカリキュラムであり、都市部と地方の知見交換にも役立ちます。

九州大学 ビジネス・スクール

福岡県にある九州大学ビジネス・スクールは、MOTをMBAの選択分野のひとつとして学ぶことができます。経営の基礎となる組織マネジメント・マーケティング・財務会計が必須科目で、MOTは選択科目として学べます。

MOTに特化するのではなく経営学の中で学べるため、より実践に近いスキルが身につくといえます。

日本工業大学専門職大学院 大学院技術経営研究科 技術経営専攻

技術経営の基礎および実践的知識と技術を、1年間のプログラムで学ぶことができます。平日の夜間や土日を活用したカリキュラムになっているため、仕事をしている人が短期集中的に学べる強みがあります。

中堅・中小企業における経営戦略やイノベーション戦略を学び、MOTの実践に活かすことができます。

まとめ

MOT(技術経営)とは、企業が技術的リソースや新しい技術を活用したイノベーションを効果的に管理し、目標を達成するための戦略的なアプローチを実践することです。日本では技術開発の環境が整っているにも関わらず、効率的に経営に活かすことができていない現状があります。

目まぐるしい社会変化の中でMOTを積極的に導入する企業が生き残っていく時代です。特に、高い技術力を持っている製造業ではMOTを取り入れるメリットは大きく、MOTを活かすことで日本の製造業全体が成長していくと考えられます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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