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グリーンスローモビリティとは?導入のメリットと活用事例

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環境問題への取り組みが取り沙汰される昨今、車やバスなど公共交通機関の燃料にも言及されるようになってきました。そのような中、電気を動力とした公共交通手段として「グリーンスローモビリティ」が注目されています。

この記事では、グリーンスローモビリティの概要とメリットデメリット、運行の実例を紹介します。

グリーンスローモビリティの運用に少しでも興味のある方は、ぜひ参考にしてください。

グリーンスローモビリティとは

グリーンスローモビリティとは、時速20km未満で公道を走ることができる、4人乗り以上の電気自動車を活用した小さな移動サービスです。

グリーンスローモビリティには「Green、Slow、Safety、Small、Open」と、5つの特長があります。

     
  • Green:二酸化炭素排出量の少ない電気自動車である
  • Slow:時速20km未満とゆっくり走るため、観光にぴったりである
  • Safety:スピードが出ないので安全、高齢者でも運転が可能である
  • Small:小型なので狭い道でも走行可能である
  • Open:窓がなく乗っていて開放感がある

なお、グリーンスローモビリティは、おもに地方公共団体を中心としたサービス運用が想定されています。個人ではグリーンスローモビリティを購入・実施・運用はできないため、注意が必要です

グリーンスローモビリティ導入の目的

グリーンスローモビリティの導入目的としては、おもに次の理由があげられます。

     
  • 脱炭素社会への取り組み
  • 地域の交通問題解決

脱炭素社会への取り組み

目的の一つ目として、脱炭素への取り組みがあげられます。

2015年に宣言された「パリ協定(世界の平均気温上昇を、産業革命以前に比べて1.5℃以内に抑える努力をする)」によって、世界的に脱炭素が推進されています。パリ宣言を受けて、日本でも2020年に「カーボンニュートラル宣言(2050年までに温室ガスの排出を全体としてゼロにする)」を発表しました。

グリーンスローモビリティに使われるのは、電気自動車です。ガソリンや軽油など、化石燃料を使う自動車と比較して、圧倒的に温室効果ガスの排出量が少ない特徴を持ちます。

そういった環境問題への取り組みの一環として、温室効果ガスを出さないグリーンスローモビリティが注目され、各地で導入が検討されるようになりました。

地域の交通問題解決

地域の交通問題の解決手段としても、グリーンスローモビリティの導入が寄与するでしょう。

少子高齢化・過疎地の人口減少に伴い、バスや鉄道などの公共交通機関は減少傾向です。また、道路が狭小な地域では大型の自動車が侵入できず、とくに高齢者にとって日常の移動手段が困難であるケースも見られます。

グリーンスローモビリティであれば、バスやタクシーよりも小型のものであれば、道路狭小により通行困難な場所でも走行可能です。少人数での移動も可能となるため、たとえば近くのバス停までの移動や勾配の大きい道での利用など、短距離の利用にも向きます。

自家用車が必要となる地域に住んでいる高齢者にとって、足代わりとしての利用が期待できるでしょう。

グリーンスローモビリティの導入メリット

グリーンスローモビリティを導入することで、次のメリットが考えられます。

     
  • 地域コミュニティの活性化を図れる
  • 狭い路地でも走行できる
  • 観光客の誘致に利用できる
  • 新たな雇用が創出できる

地域コミュニティの活性化を図れる

グリーンスローモビリティの利用で、地域の活性化が期待できます。

グリーンスローモビリティでは、少人数・短距離移動も可能となるため、地域住民の足代わりとして利用できます。たとえば近隣の公共交通機関までの「ラストワンマイル」や、医療施設・スーパー・役所などへの移動手段としても導入が検討できるでしょう。

移動手段がなく外出が困難である高齢者の移動手段として補完でき、地域住民のコミュニケーション強化が図れます。グリーンスローモビリティには窓もなくゆっくりと走行するため、歩行者とのコミュニケーションを取りやすいのも、活性化につなげられる一因となるでしょう。

狭い路地でも走行できる

グリーンスローモビリティは小型でスピードも遅いため、狭い道路でも比較的安全に走行できます。

バスやタクシーでは、すれ違いや方向転換のため、ある程度の道路幅が必要不可欠です。グリーンスローモビリティは通常の自動車より小さく、4名乗りであれば通常の自動車と比較して8割程度の全幅となっています。そのためすれ違いや転換が、狭い道でも比較的容易です。

スピードが20kmまでしか出ないため、狭い道路や急な坂道でも通常の自動車と比べて、運転者や歩行者の安全を確保しやすくなります。

観光客の誘致に利用できる

観光スポットに導入することで、観光客の誘致にも効果を発揮します。

グリーンスローモビリティは、観光地との相性のよい乗り物です。電気自動車のため排気ガスが出ず、環境に負荷をかけることがありません。窓がなく開放感を得られる上、ゆっくりとしたスピードで走行するため、周囲の景色を楽しみながら観光地を巡ることが可能です。

これまで徒歩でしか訪問できなかった自家用車の入れない狭い道でも走行でき、体力的な負担も軽減できるでしょう。

グリーンスローモビリティの導入によって、観光地での移動手段不足も解消でき、体力や身体的な理由でこれまで訪問を諦められていた客層へもアピールが可能となります。

新たな雇用が創出できる

新たな雇用を創出できるのも、グリーンスローモビリティの導入で期待できるでしょう。

グリーンスローモビリティを運用するためには、運転手をはじめとするスタッフの人材が必要となります。人材を運用する地域で雇用することで、地域雇用の活性化にもつながります。

また、グリーンスローモビリティは通常の自動車よりも運転が簡単です。定員10名以下の車であれば普通自動車免許で運転できるため、シルバー人材の雇用先としても検討できます。ただし、タクシーなど有償で運用する場合は、運転に二種免許の保有が必要となるので注意しましょう。

グリーンスローモビリティのデメリット

グリーンスローモビリティの運用はメリットだけではなく、次のデメリットも考えられます。

     
  • 走行スピードが遅い
  • 輸送効率が低い
  • 長距離走行ができない

走行スピードが遅い

走行スピードの遅さは、利用場所によってはデメリットとなります。

グリーンスローモビリティは時速20kmまでしか出ないため、狭い道路では安全確保できます。しかし、交通量の多い幹線道路では危険度がアップし、渋滞を引き起こす懸念も考えられるでしょう。

また、目的地へ早く移動したい場合にも向きません。無停車・フルスピードでも、5km進むのに単純計算で15分かかります。

グリーンスローモビリティは、速達性を求めない短距離走行が向く乗り物であるという理解が必要です。

輸送効率が低い

輸送効率の低さも、グリーンスローモビリティの問題点といえるでしょう。

小さいものでは4名、大きなものでも20名程度が乗車定員となります。バスのように大人数での移動ができない上、スピードも遅く大規模輸送には向きません。

1回で大人数を輸送するというよりも、少人数を複数回運行して輸送する運用方法が向いているでしょう。

長距離走行ができない

一般のバスやタクシーと比較して、グリーンスローモビリティは長距離走行ができません。

グリーンスローモビリティの動力源は電気です。一度の充電で走行できる距離は30~100km程度と、ガソリン車と比較した場合かなり短くなります。充電にはバッテリーの大きさによって5~9時間と時間がかかり、もし走行中に充電が切れた場合、その場で充電しないと動かせなくなるのもデメリットです。

万が一に備えて、充電できる基点から大きく離れて走行しないようなコース設定が求められるでしょう。

グリーンスローモビリティの運行地域

全国各地でグリーンスローモビリティの導入が進められています。観光や地域住民の足として利用されている3つの事例を紹介します。

広島県福山市

広島県福山市では、観光地である「鞆の浦」や、福山駅周辺の観光タクシーとして実証実験が進められています。

福山市とアサヒタクシー株式会社が連携して事業を実施しており、観光地を巡る足として利用がはじめられました。4名用の車両なので、狭い道路や急な坂道の多い鞆の浦地区でも比較的安全に走行できます。

福山駅周辺の利用では、観光の利用と合わせて、地域住民の足としての利用も期待できます。

島根県松江市

島根県松江市では、地域住民の移動手段としてグリーンスローモビリティの運用を開始しています。

高台にある団地の住民を対象として、7名乗りと4名乗りのグリーンスローモビリティが導入されました。買い物や通院の利用支援のため、定期的に運行されています。

東京都豊島区

東京都豊島区では、2019年より公共施設を巡る「IKEBUS(イケバス)」が運用されています。

定員22名の小型バス型の車両で、池袋駅周辺の公園や主要施設を巡る2ルートで運行されます。約20分おきに運行されているため、地域住民の生活利用や観光での利用などの利便性が高いのも特徴です。

まとめ

グリーンスローモビリティは、温室効果ガスの排出量を抑える交通機関として、さまざまな利用方法が期待できます。地域住民の足としてはもちろん、観光での利用にも相性がよいため、地域活性化の材料としても利用できるでしょう。

運行距離や採算性などのハードルはありますが、今後は地域住民の足や観光以外にも、新しい活用方法が出てくることが期待できます。

PEAKSMEDIA編集チーム

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