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学習する組織とは?|メリットや実際の導入事例をわかりやすく紹介!

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「学習する組織とはどのような組織なのだろうか?」

組織論を模索する中で「学習する組織」という言葉を耳にすることも多いでしょう。言葉としては知っていても、実際の内容について詳しく知る方は少ないかもしれません。

この記事では、学習する組織の概要と導入事例について説明しています。

学習する組織について知りたい方や、自社への導入を検討されている方にとって参考になる内容となっています。
ぜひ最後までご一読ください。

学習する組織とは

学習する組織(ラーニング・オーガニゼーション)とは、個人・集団レベルにある学習阻害要因を取り除き、目的達成に向けて効果的な行動がとれるよう、必要な意識と能力を培う組織です。個人やチームの意識と能力を高め続けることで、次のような特徴のある組織を目指します。

  • 環境の急激な変化にも耐え、迅速に順応する
  • 個人・チーム単位で自発的に学び、問題解決していく
  • 過去の習慣や慣例にとらわれず、組織を成長・進化させる

学習する組織は、目的の達成に向けて個人やチームが状況を把握し、自らを建設的に進化させ続ける組織だといえるでしょう。

学習する組織が注目されている理由

学習する組織というのは、マサチューセッツ工科大学のピーター・M・センゲが提唱した組織の概念です。

学習する組織では目的を効果的に達成するため、集団としての意識を高めることで次の要件が達成できるように進めます。

  • 個人のやる気と潜在能力を引き出し、成長を促す
  • 職場を働きやすく生産的な場にする
  • 会社が社内外に高い価値を提供し必要とされ続ける

昨今の企業を取り巻く環境は、IT技術の進化により変化のスピードが飛躍的に上がっています。そのような中で戦略を練るのがトップ層だけの組織では、知識や技術の変化についていくには残念ながら不十分と言わざるを得ません。

トップの方針や指令のもとに従業員が従うという運営スタイルから、社員自ら学習し知識をつけて行動する組織運営が企業の未来に向けて重要となるでしょう。

学習する組織を構成する3つの要素

学習する組織の中核的な学習能力は、3つの柱で構成されています。ランゲはそれらを3本足の椅子に見立て、それぞれをバランスよく総合的に育てて活用するのが大切だと説明しています。

それぞれの具体的な内容については、次のとおりです。

【学習する組織を構成する要素】

  • 志の育成
  • 複雑性を理解する力
  • 共創的な対話

志の育成

志の育成とは、自律的に仕事を進めるための力を指します。個人やチームでそれぞれ志をたて、実現に向けて自ら積極的に変えていく手法です。

志の育成は個人レベルでは「自己マスタリー」、組織レベルでは「共有ビジョン」として取り組みます。

【自己マスタリーとは】

自身の望む結果のため、自己の能力と意識を絶えず伸ばし続けるビジョンを指します。自己マスタリーは「言われたから仕方なく」という取り組み方ではなく、自分から積極的に選択して実行することが重要です。組織の中で自ら率先して取り組むことで、チームを構成する人への理解と実践につなげられます。

【共有ビジョンとは】

組織のメンバーが共有して描くビジョンで「我々はどうしたいか」の答えとなるものです。メンバーがそれぞれビジョンを作成してチームで共有し、それぞれの接点をすり合わせて柱となる共有ビジョンを構築していきます。トップダウンで作られるビジョンは育成効果の薄いものが多いため、チームメンバーで作り上げていくのがポイントです。

複雑性を理解する力

複雑性を理解する力は、現在起こっている問題の原因を探り、どうすれば解決に導けるかを考える能力です。手法としては「システム思考」が取られます。

【システム思考とは】

起こっている問題に作用している要素を分解し、相互関係を考えることで解決に導く概念です。見えている一部の出来事には「パターン」「構造」「メンタルモデル」という見えない要素が多く隠れていることで、よく「氷山」にたとえられて説明されます。全体像を把握してどこに原因が潜んでいるか紐解き、さまざまな方向から問題を解決していきます。相反する考え方として「論理的思考」がありますが、どちらかが優れているということではありません。論理的思考はポイントを絞った問題解決に向き、システム思考は長期的に問題改善するのに適しています。

共創的な対話

効果の薄いコミュニケーションを脱するため、良いことも悪いこともすべてオープンにして話し合い、建設的な対話を展開します。

個人で「メンタルモデル」について対処する能力を高め、組織として「チーム学習」に取り組むのが重要となります。

【メンタルモデルとは】

先入観や固定観念といった、自身にある凝り固まった考え方を指します。「メンタルモデルによって学習意欲がそがれている」といった気づきを得て、さまざまな視点や価値観を持つことが求められます。対処するためには内省が必要となり、過去の経験や行動が正しかったのか、客観的な視点で見ることが非常に大切です。

【チーム学習とは】

ビジョンを共有したチームメンバー同士で、対話を通して意識と能力を高めていく方法です。メンバーがメンタルモデルの対処法を実践することを経て、チーム学習をスタートさせます。チーム学習は「儀礼的会話」「討論」「内省的な対話」「生成的な対話」という4つのステップを踏み、時間的にバランスよく進めるのがポイントです。

学習する組織を導入するメリット

学習する組織へ移行することで、企業にとっては次のメリットが享受されます。

【学習する組織化するメリット】

  • 変化に対し柔軟に対応できる

組織は、外的・内的な環境変化によって刻々と変化していきます。企業が学習する組織として機能している場合、そのような環境の変化をメンバーが察知して仕組みづくりをし、適応できるようになるのです。

  • 組織が長期的・持続的に成長できる

近年ではビジネスの変化が速く、時代に対応することが求められます。学習する組織が構築されている場合、3つの柱をメンバーそれぞれが伸ばすことで組織の長期的かつ持続的な成長が望めます。

学習する組織の導入事例

従業員一人ひとりの自律や主体性を促し、学習する組織化に取り組んでいる企業の事例を2つ紹介します。

スポーツブランド「ナイキ」の学習する組織化事例

スポーツブランド「ナイキ」ではフラットな組織形態が取り入れられ、適切なローカライズが進められています。

【学習する組織化への取り組み】

  • 細かい部署にまで独立した意思決定権を持たせる
  • 業務報告を簡略化し、スピード感を持たせる
  • ブランドイメージに沿った「管理された自律性」を構築する

各チームにおいて意思決定権を持つことで、商品開発が飛躍的にスピードアップされ、タイムリーな商品提供が可能となりました。またチームが小さい分マネージャーの管理業務が小さく、多様なニーズにも柔軟な対応ができるようになっています。

チーム単位で意思決定できる組織を全社的に構築できたことで、スピード感のある商品開発と市場ニーズへの対応が可能となった好例と言えます。

自動車メーカー「フォード」の学習する組織化事例

自動車メーカー「フォード」ではライバル企業の台頭に対処するため、研修を受け学習する組織化に取り組みました。

【学習する組織化への取り組み】

  • 研修の実践のため、マネジメント会議後に振り返り時間を設定
  • メンタルモデルの手法を用いた問題解決
  • システム思考による客観的な原因追及

マネジメント会議にはマサチューセッツ工科大学のファシリテーターを招き、学習する組織とするため全社をあげて積極的に取り組んでいきます。

結果としてマネジメントリームから新しいマネジメント施策や開発プロセスが生み出され、これまでにないオペレーションの向上が見られました。

開発目標時期の前倒しや80億円の開発経費削減なども達成し、顧客満足とデザイン評価も飛躍的に向上するという成果を残しています。

まとめ

1990年代に提唱された学習する組織の考え方は、現在でも十分に通用する方法論です。

学習する組織を実現するには、次の3つの柱が重要となります。

  • 志の育成
  • 複雑性を理解する力
  • 共創的な対話

その柱を育てるには、次の5つのディシプリン(実践されるべき課題として定義される)に取り組むことで実現可能となります。

  • 自己マスタリー
  • 共有ビジョン
  • システム思考
  • メンタルモデル
  • チーム学習

学習する組織の考え方を企業運営に取り入れることで、メンバーの自発的な学習意欲や創造力が高まり、組織の成長が見込めると考えられるでしょう。

昨今の企業経営では、これまでの組織論ではなく新しいことを取り入れる変化が求められています。製造業界でも同様で、DX化や組織のありかたをあらためて考える時機に入ってきました。「学習する組織」の考え方を採り入れ、組織自らを成長させることで、社会情勢の変化にも対応できる企業となる可能性が高まるでしょう。

PEAKSMEDIA編集チーム

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