Contents 目次
プロフィール

AC Biode株式会社 代表取締役CEO 久保 直嗣
双日株式会社を経て、英国ケンブリッジ大学でMBAを取得。欧州のクリーンテック先進性に触発され、2019年に日本と英国で同時にAC Biodeを創業。CTOの水沢厚志氏と共に触媒「Plastalyst」を開発。国内外のピッチコンテストで25件以上優勝し、EU傘下のEIT InnoEnergyやジェネシア・ベンチャーズから出資を受けている。「Zero Waste to Landfill & Incineration(埋立・焼却ゼロ)」をビジョンに掲げ、製造業の脱炭素とサーキュラーエコノミー実現を目指す。
低温・混合プラ対応が切り拓く新境地
プラスチックリサイクルには、メカニカル(マテリアル)、サーマル、ケミカルの3種類がある。ケミカルリサイクルは化学反応でプラスチックを原料やガス、油等に戻す手法で、混合・劣化したプラスチックにも対応でき得る利点を持つ。しかし普及率は日本でも3%弱、世界では1%程度にとどまる。
「3つのリサイクル方法は、どれか一つが欠けてはいけません。バランスよく適材適所で使い分けるべきだと考えています」と久保氏は語る。「ケミカルリサイクルの伸びしろは大きい。そこに貢献したいと思っています」
Plastalystの強みは三つある。200℃という低温での分解、ほぼ全てのプラスチックへの対応、そして混合・多層・汚染された廃材も処理できる点だ。従来の油化は500℃以上、ガス化は1000℃以上が必要となる。温度が低いほどエネルギーコストは下がり、設備も簡素化できる。
「触媒にレアメタルや貴金属を使っていないので、入手しやすくコストも抑えられます」と久保氏は説明する。技術的なブレイクスルーは、CTOの水沢厚志氏が材料科学の知見を駆使し、膨大なパターンを試した末に見出したものだ。
同社はPETからメタノールへの変換にも成功しており、この技術は世界で同社だけが持つという。顧客の要望に応じて、PET to PETのケミカルリサイクルと、メタノール変換の2パターンを提供できる。プロセス特許も取得済みで、他社との差別化要因となっている。
なお、AC Biodeは触媒事業以外にも、交流電池や吸着剤など複数の技術領域を展開している。
「化学の技術を持っていると、いろいろな応用が利きます」と久保氏は説明する。「一つの技術でリスクヘッジしながら、複数事業を同時並行で進めています。実際、先に売上が立っている事業もありますし、顧客が重複することでシナジーも生まれています」
化学技術を社会実装へとつなぎ替えながら、研究テーマごとに事業化を試みる——そうした取り組みを積み重ねている点もAC Biodeの特徴だ。その姿勢は、化学技術の応用によって価値創出を連続させる、シリアルスタートアップと呼ぶにふさわしい。

環境問題は日本のみならず、グローバルな課題
元々、環境問題への貢献に関心を抱いていた久保氏。大学卒業後は大手商社に入社し、海外向けプラントや再生可能エネルギー分野の財務を担当したが、中長期視点の仕事に限界を感じていた。「自分で立ち上げた方が早いのでは」との想いからケンブリッジ大学へ留学。在学中、環境技術に対する欧州と日本の受け止め方の違いが、強く印象に残ったという。
「環境問題に取り組む技術は、どうしても最初はコストがかかります。従来の方法の方が安い。しかし、そのプレミアム分をBtoCのお客さんも含めて払う土壌が欧州にはありました。クリーンテックへの補助金やVCの投資環境も、当時は日本に比べて充実しているように感じました」
こうした実感から、久保氏は欧州での起業を視野に入れるようになる。2017年CTOの水沢氏と出会い、意気投合し、日本と英国で同時に会社を設立。久保氏がビジネス・ファイナンス、水沢氏がエンジニアリングと、互いの強みが補完関係にある。
「2人ともエンジニアだったり、2人ともビジネスサイドだったら、うまくいかなかったと思います」と久保氏は振り返る。お互いの領域を尊重しつつ、言いたいことは率直に伝え合う。頻繁にコミュニケーションを取ることを心掛けているという。
しかし創業直後にBrexitの影響で英国からルクセンブルクへの移転を余儀なくされ、さらに新型コロナウイルスによるロックダウンが始まるなど、最初の1年は想定外の外部環境にさらされた。
また、AC Biodeは大学の研究室を母体とする大学発ベンチャーではない。そのため技術シーズも設備も、すべてゼロからの立ち上げが必要だった。
「最初に取り組んだのは、ラボの機材をそろえるところからです。当然ながら、最低でも数千万円規模の投資が必要になります。一方で、データがなければ資金調達は進まない。けれど、資金がなければデータも取れない――まさに“鶏と卵”の状況でした」
ゼロから研究開発基盤を構築する内部の課題と、コロナや政治・制度といった外部要因が重なったことで、創業初期は「生みの苦しみ」を強く感じる時期だったと久保氏。
それでも、試行錯誤を重ねながら一つひとつ乗り越えてきた。
「何とか乗り越えてこられたのは、やはり体力と精神力があったからだと思います(笑)」。学生時代にボクシングで実績を残した久保氏。その経験は、海外出張の多いディープテック経営において、体力面でもチームマネジメントの面でも生きているという。

自動車業界が直面するEU規制
同社の技術が特に注目を集めているのが自動車業界だ。
燃費改善やEV化の流れの中で、自動車の軽量化は重要なテーマとなっている。こうした背景から、自動車1台あたりに使用されるプラスチックの割合は、年々高まっている。
そして、欧州では新車製造に使用するプラスチックの25%を再生材にすることを義務付けるELV規則の施行が見込まれている。日本からEUへの自動車輸出は年間約72万台に上り、規制への対応は喫緊の課題となっている。「自動車関係や電線・ワイヤーハーネス、タイヤ等の引き合いは多いですね」と久保氏は明かす。
「Scope3の観点から焼却を避けたい、でも埋め立ても避けたい。そうなるとケミカルリサイクルしかないという流れでお話をいただいています」
現在、国内外で35件の実証実験を進行中だ。既存の油化技術はPE、PP、PSの3種類が中心で、PVCやPETには対応しにくい。一方、Plastalystは塩素を含むPVCも分解でき、塩素除去率は99%以上を達成している。塩素は水に溶けて分離しやすい形で処理できるため、従来技術と比べて扱いやすいという。
「油化やガス化を否定するわけではありません。ただ、それ以外の選択肢があってもいい」と久保氏は強調する。「日本は技術の細かいチューニングが得意です。ケミカルリサイクルの分野で貢献できればと考えています」
同社のビジネスモデルは、触媒の販売に加え、技術ライセンスの供与も視野に入れている。「自社でプラントを建てて運営するだけでなく、技術をライセンスする形も考えています」と久保氏は説明する。
協業先として求めるのは、プラスチックを使用・廃棄する製造業全般だ。自動車や電線に限らず、アパレルや日用品メーカーなど幅広い業種との連携を模索している。技術面では、化学メーカーや廃棄物処理会社、触媒メーカー、プラントエンジニアリング会社などとの協業も歓迎するという。「われわれはまだ小さい会社です。大きなパートナーと組むことで、より早く社会実装を進められると考えています」

化学の共通言語が生む国際チームの強み
AC Biodeは現在、日本(けいはんなプラザ、京都市、東京、名古屋市)、ルクセンブルク、英国ケンブリッジに拠点を構える。
日本の研究拠点として「けいはんな」を選んだ理由について、久保氏はこう説明する。
「CTOの水沢が京都在住であることに加え、リチウムイオン電池の開発は京都市内では規制上難しいという事情がありました」。
そのうえで久保氏は、立地面での実感をこう続ける。
「少し遠い印象はありますが、関西全体で見ると意外と動きやすい立地です。生活に必要なものは一通りそろっていますし、実際にこの周辺へ引っ越して住んでいる社員も何人かいます。落ち着いた環境なので、研究開発にはむしろ向いていると感じています」
同社の正社員は約10名で、ドイツ、インド、インドネシア、エジプト出身のメンバーも在籍する国際色豊かな組織だ。

「化学式や化学の言葉は日本語でも英語でも同じです。だからコミュニケーションは実はしやすい」と久保氏。
「いろいろな国籍のメンバーがいると、実験のインスピレーションや新しいアイデアが出てきます。実際、インドネシアの案件を獲得できたのも、インドネシア出身のエース社員が関与していたからです」
多拠点体制を維持する理由について、久保氏は「ケミカルリサイクルは、いまだに欧州の方が進んでいます。実際、フランスでパイロットプラントを建てる話も来ています」と説明する。理想は日本と欧州で半々の売上・リソース配分だという。
今後の目標は、2〜3年以内の商業化だ。インドネシア・ジャカルタでは実証プラントが稼働中で、フランスや日本国内でもパイロットプラント建設の話が進んでいる。来年以降はシリーズA資金調達も視野に入れており、研究開発の継続とエンジニア採用、プラント建設への投資を計画している。
「環境問題を前面に出し過ぎてもよくない。ビジネスとしてちゃんと成り立つことが、経営のサステナビリティにつながります」と久保氏は語る。「この問題は日本だけでなく、地球上どこにでもある。最初から海外を見て進めてきたスタンスは、これからも変わりません」
環境と経済の両立を掲げ、国境を越えて課題に挑む姿勢は、商社マン時代に培われたものかもしれない。触媒とは、自らは変化せずに化学反応を促進する物質のことだ。廃プラスチックをモノマーに戻すPlastalystのように、AC Biodeもまた、製造業のサーキュラーエコノミーを加速させる触媒となることを目指している。

J-Startup KANSAIについて
経済産業省の「J-Startup」プログラムの地域展開として、令和2年9月に「J-Startup KANSAI」が開始されました。関西から世界へはばたく有望なスタートアップを選定し、内閣府のスタートアップ・エコシステム拠点形成事業と連動しながら、公的機関と民間企業が一体となって集中的な支援を行う取り組みです。現在までに75社が選定されており、近畿経済産業局を中心に、地域ぐるみで起業家を応援・支援する仕組みを構築。地域が起業家を生み育てる好循環(=「エコシステム」)の強化を目指しています。
PEAKS MEDIAでは、この「J-Startup KANSAI」の趣旨に共感し、関西発のイノベーションを可視化し、製造業をはじめとする産業界との新たな共創を生み出すことを目的に「J-Startup KANSAI特集」を開設しました。選定スタートアップの皆様へのインタビューを通じて、テクノロジーの可能性や事業への想いを発信し、社会実装や産業連携のヒントを広く共有することで、関西発のスタートアップ・エコシステムの発展をメディアの立場から後押ししています。

COMMENT
J-Startup KANSAI特集では、選定企業の皆様への有識者か技術展開の可能性や社会実装や連携のヒントを募集しています。


