
ポリエチレングリコール(PEG)は医薬品・化粧品・食品など幅広い製品に使われる素材だが、水と共存した状態でどのようなナノサイズの構造を形成するかを評価することは技術的に難しく、製品設計と品質管理の課題となってきた。東レリサーチセンター(TRC)とドイツ・ウルム大学らの国際研究チームは、この構造を「融点測定だけ」で簡便に推定できる新しい評価技術を確立した。成果は2026年4月17日に発表され、アメリカ化学会の学術誌「ACS Omega」にも掲載済みだ。
PEGは高い安全性と親水性から、薬物を標的部位に届けるDDS(薬物送達システム)のナノ粒子キャリアや化粧品の基材として利用されている。水中でのナノスケール構造は製品性能に直結するが、対象が数十ナノメートルと極めて小さいため、既存の分析技術では評価が難しかった。
今回の技術の核心は、水がナノスケールの狭い空間に閉じ込められると融点が低下するという現象の活用だ。研究チームは細孔径が既知のシリカ多孔体にPEG水溶液を含浸させ、示差走査熱量測定(DSC)で融点を測定した。その結果、通常のPEG水溶液由来の融点に加え、ナノ空間に閉じ込められた部分に由来する低温側の融点が観測されることを確認した。さらに解析を進めると、このPEGの「凝集ドメインサイズ(ナノ構造の大きさ)の逆数」と「低温側の融点」の間に良好な相関関係があることが明らかになった。つまり融点を測定するだけでPEGのナノ構造サイズを推定できる。
加えて、PEG水溶液をナノサイズの空間に閉じ込めると、濃度によらず最も安定な「共晶状態」に自発的に整うことも判明した。この知見はナノ多孔体を使ったPEG水溶液の分離・精製・濃縮技術の開発につながる可能性がある。
製造業への示唆として、この技術は高分子材料のナノ構造評価を大型の専用装置なしに行えるようにする点が注目される。医薬品製造における品質管理の高度化や、化粧品・食品分野での新規素材設計に直接応用可能で、素材・化学系の製造業が分析コストを抑えながら材料評価の精度を高める手段として実用的価値がある。
TRCはドイツに拠点を持ち、ウルム大学・ハーン・シッカード応用研究協会との国際共同研究として本技術を開発した。東レグループのリサーチインフラを活かしたこうした産学連携は、製造業のオープンイノベーション戦略の参考事例としても読める。高分子材料を使う化学・素材・医療機器分野のR&D担当者にとって、評価技術の革新が素材設計のアプローチをどう変えるかを示す典型的な事例といえる。
関連情報
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000172881.html
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