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【イベントレポート-VOL.5】 ハードウェア・スタートアップの登竜門 MONOZUKURI HARDWARE CUP 2024

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本記事では京都にて開催された日本のハードウェア・スタートアップのグローバル展開への登竜門となるピッチコンテスト「MONOZUKURI HARDWARE CUP 2024」の様子をPEAKS MEDIA編集チームがレポートします。

MONOZUKURI HARDWARE CUP2024概要

2024年3月8日に、MONOZUKURI HARDWARE CUP 2024が京都リサーチパークにて開催されました。MOZUKURI HARDWARE CUPは2015年から米国で開催されているハードウェアに特化したピッチイベントです。

本コンテストは米国ピッツバーグで開催される「Hardware Cup Finals」の国内予選として2017年から開催されており、2021年以降もMonozukuri Hardware Cup実行委員会(牧野成将会長=Monozukuri Ventures CEO)独自で開催され第8回を迎えます。審査員には国際的に活躍するベンチャーキャピタリスト等が招かれ、プレゼンテーションや質疑応答はすべて英語で実施するなど日本のハードウェア・スタートアップのグローバル展開への登竜門となっています。

本年は、世界最先端のディープテック・スタートアップとその支援コミュニティ(エコシステム)が集まり、ディープテック・スタートアップ・エコシステムのあるべき姿を探る「Deep Tech Forum Kyoto 2024(ディープテックフォーラム京都2024)」の一環として開催されました。

今回も世界への飛躍を夢見る原石達が理念、事業プラン等を競い、魅力的なアイデアが披露されました。コンテスト入賞上位3社には賞金が授与され、さらに米国展示会やイベント等に参加する機会も与えられます。

本年選出されたのは以下の3社となります。

第1位:
株式会社Medlarks
第2位:
Seaside Robotics
第3位:
リッパー株式会社

本記事では各スタートアップの事業プランとともにピッチの模様をお伝えします。

2024年度審査員を務めた Hana Jin(General Manager of SOSV/HAX)/Anna Maruyama(Sony Semiconductor Solutions Corporation)/長野 草太(General Partner & Investment Committee Member of Abies Ventures)
会場の様子

リッパー株式会社

鈴木氏のピッチは「Why are tires black?(なぜタイヤは黒いのか?)」というオーディエンスへの投げかけからスタートしました。

自転車や自動車のタイヤが黒い理由は主材であるゴムの強化にカーボンブラックが補強材として使われているからです。自動車では100年以上前の1912年からタイヤ向けにカーボンブラックが使われています。しかし、カーボンブラックの生産は莫大なCO2排出の原因となっており、その総量は年間で1,500万トンと言われています。鈴木氏はカーボンブラックに代わって、自然由来のナノセルロースをゴム中に均一分散した材料を使うことでタイヤ業界を変革し、CO2排出量を最大で80%減らすというビジネスプランを披露しました。

同社は既に2022年にはNEDO助成金プロジェクトにも選出され、2023年には自社商品で生産したタイヤでの600km走行にも成功、社会実装に向け着々と歩みを進めています。

今後はまず自転車向けタイヤから実績を積む予定で、2024年4月から地方政府のレンタサイクル用自転車に搭載を開始。さらに、2025年には台湾のタイヤメーカー向けに量産を予定。2026年からカーボンブラック規制が段階的に導入される欧州市場にも目を向け、同年からの本格的な営業活動を予定しており、2029年には1,000万ドルの売上達成を目標に掲げています。

鈴木氏は幼いころ喘息に悩まされたそうで、「環境問題を解決したい」という原動力を強く感じるピッチでした。

登壇者の鈴木幹久CEO
リッパー株式会社HPより参照したイメージ。タイヤが黒くない未来に期待が高まる

Seaside Robotics

Seaside Roboticsはまだ法人化もサービスインもしておらずコンセプト段階。海岸の漂着ごみを清掃するロボットを今後約2年間で開発、まずは小ロットでの販売を目指しています。登壇者の横岩氏は京都出身ですが、9年前に逗子市に引っ越した際、海岸に漂着するごみの問題に身をもって触れたことがSeaside Roboticsの原点になっているそうです。

横岩氏はスマホで眼科検査を行えるデバイス、サービスを開発しているベンチャー企業・OUIのチーフハードウェアエンジニアも務めており、ロボットの機構設計も得意としているそうです。Seaside Roboticsは既にNEDOの人材発掘・起業家育成事業(NEP)、JETROのClean Singapore Missionに採択された実績を持ちます。コンセプトアイデアはロボットとドローンを連携させ、漂着ごみの位置を的確に把握し人の操作なしでの清掃を計画。ごみを溜めるステーションも設け、そのごみをリサイクルする業者とも既に話を進めているようです。

ピッチ後に「ロボット以外も選択肢はあるが、なぜ清掃ロボットなのか?」という質問に対し、「Because I like robot(僕はロボットが好きだから)」と堂々回答した姿に審査員一同が共感していたのが印象的でした。

登壇者:横岩 良太氏
Seaside Roboticsのコンセプトブック。海岸でロボットが活躍する日常が来るかもしれない

株式会社Medlarks

堂々第1位に輝いたのは株式会社Medlarks。登壇した松浦氏はインドからリモート参戦。同社はカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)対策デバイスを開発する医療系ベンチャーです。

バクテリアが尿路に入り込んだまま放置されることで感染症に罹患するケースが世界中で多く発生しており、毎年1,000万人が感染、年間24万人の方が亡くなっているそうです。尿路感染症は尿道カテーテルから原因菌が入り込むことで発症し、現在は抗生物質を飲んで治療するしかなく、その治療費は高額となっています。

Medlarksでは、泌尿器カテーテルと採尿バッグチューブにデバイスを取り付けて紫外線と振動で細菌の繁殖を防ぐ仕組みを提案。現在プロトタイプの開発を進めています。

デバイスは繰り返し使うタイプとディスポの2種類があり、早ければ2025年には認証を取る予定。同社の強みは競合他社と比べて安価にプロダクトを提供できる点で、特に繰り返し使うタイプのデバイスは価格競争力があるとのこと。最大のマーケットと考えているインドにも現地法人を設立しており、インド医科大とも実用化に向けた話を進めています。今後は日本とインドの両軸でプロダクト開発とセールスを本格化させるようです。

筆者もこれまでインドには何度も行ったことがあります。訪れる度に健康に何らか課題を抱えている人の多さを感じていました。実際、インドでは糖尿病患者の数が約7400万人に上るとされ、生活習慣病の予防が大きな社会課題となっています。Medlarks社のプロダクトがインドの健康問題を解決する大きな一歩になるのか、注目して行きたいと思います。

登壇者:松浦 康之(代表取締役&共同創業者)
ZOOM越しでの授与となった松浦 氏。満面の笑顔が印象的でした。

Fiber X

上位3社には選ばれませんでしたが、筆者が個人的に気になったのが”Fiber X”を提案した圓井繊維機械株式会社です。

繊維業界は石油化学を除けば最も環境を汚染している業界と言われており、特に繊維は石油由来樹脂から生産されています。Fiber XはCO2とH2を主原料とした新材料で石油由来樹脂を必要としません。CCU技術で回収されたCO2をH2と混合し、ポリアセタール樹脂(通称:POM)を作り、それを繊維化したものがFiber Xです。

元々は同社のラボで圓井氏のご両親がやっていた研究がベースで、2023年にはJETRO主催の「始動 Next Innovator」にも採択されています。従来から繊維に使われているポリエステル材より高い物性を実現しており、今後スケールアップによりコスト低減を図って行く予定です。そのため、圓井繊維機械からFiber Xを独立させ、新会社を設立することも計画中とのことです。

同社の最大の強みはCO2とH2から作ったポリアセタール樹脂を繊維化する技術とノウハウで特許を申請中。既に海外展開すべく英語に長けた人材も採用しており、将来的に大手アパレルメーカーとの連携を目指しています。Fiber Xが繊維業界のCO2削減の切り札となれるか、期待したいと思います。

まとめ

ハードウェアは社会実装までに、試作⇔実証のPDCAを数えきれないほど繰り返す必要があります。そのため、多くの資金や人的リソースが必要となり、結果として素晴らしいアイデアの多くが”死の谷”から落ちてしまうことが課題です。

世界の英知が集まる京都大学、グローバルに異彩を放つ製造業の巨人、さらに、京都は世界屈指の観光資源を誇ります。世界でも稀有なこの地で、Monozukuri Ventures牧野CEOが掲げる「Build up a gate way to the global market」を象徴するようなイベントとなりました。

実行委員長である牧野氏も「2017年当初からは考えられないぐらいレベルが上がった」と充実の表情をされていたのが印象的でした。

来年度はどのようなスタートアップが登壇するのか期待が高まります。

Monozukuri Hardware Cup実行委員会(牧野成将会長=Monozukuri Ventures CEO)

PEAKSMEDIA編集チーム

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