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量子力学についてわかりやすく解説!量子化学技術がもたらす未来とは

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テレビや雑誌などで「量子コンピューター」ということばを耳にするようになりました。「スーパーコンピューター」を遥かに凌ぐ能力があるとされていて、その仕組みは「量子力学」に基づいており、多様な分野において技術の活用が期待されています。しかし、量子力学とは何かに理解できていない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、そもそも量子力学とは何かついてわかりやすく解説します。

量子力学とは

量子力学とは、物質の単位である「量子」の世界における物理法則に関係した学問です。分子や原子、それを構成する電子などを対象とした物理現象を記述する力学を指します。

ここでは、量子力学に関連する以下について解説します。

     
  • 量子の種類
  • 量子力学は通常の物理法則と違う
  • シュレディンガー方程式
  • 相対性理論

量子の種類

量子とは、粒子と波両方の性質を合わせ持つ、極めて小さな物質・エネルギーの単位で、さまざまな種類があります。

例えば物質を形どっている原子そのもの、原子を形づくる電子や陰子、陽子、中性子などが量子とされています。また、これらよりも小さい光を粒子として見た光子や、ニュートリノ、ミュンオンやウォークなどの素粒子も量子に含まれます。

量子力学は通常の物理法則と違う

量子力学は、通常の物理法則とは一線を画す学問です。量子は、分子や原子といったナノサイズ(1メートルの10億分の1)、またはそれよりもさらに小さな世界です。われわれの身の回りにあるニュートン力学などの物理法則が通用しない独自の力学が働いています。

よって、「量子の世界における物理法則」を学ぶのが、量子力学なのです。

シュレディンガー方程式

シュレディンガー方程式とは、1926年にオーストリアの物理学者「エルヴィン・シュレディンガー」によって提唱された量子力学の基本方程式です。

量子の世界において、物質は「粒子」と「波」の2つの性質を持ち合わせています。運動量とエネルギーに注目する「粒子」の運動方程式では、電子の運動を厳密に数値化できません。

一方の「波」は、物理学上のルールに従った波動関数を用いています。粒子は、エネルギーや運動量という性質を持っており、波と共通した属性を解することで数値的に記述しようとしたのがシュレディンガー方程式です。

相対性理論

相対性理論とは、アインシュタインが提唱した現代物理学の根本原理のひとつで、特殊相対性理論と一般相対性理論の2種類があります。相対性理論と言えば、多くのケースで特殊相対性理論を指します。

特殊相対性理論とは、光の速度は不変で全ての物理法則は同じ形で表されなければならないという理論です。これをさらに発展させ、加速度運動を論じたのが一般相対性理論なのです。

特殊相対性理論は、光の電磁気理論とニュートン力学との矛盾について、「時間」と「空間」の考え方に新しい概念を加えて解決しました。電磁気の理論の基礎を明らかにし、原子核と素粒子の研究に役立っています。

一方、一般相対性理論は重力に関する考え方ですが、まだ完全に実証された理論ではありません。

量子の特性

量子は、粒子と波動性を併せ持った小さな物質やエネルギーのことを意味します。量子には、以下にあげる3つの特性があります。

【量子の特性】

     
  • 粒と波の二重性
  • 量子重ね合わせ
  • 量子もつれ

粒と波の二重性

量子力学における小さな世界では、物質は粒と波の2つの性質を持っています。物質の状態を測定すれば、特定の性質を持った「粒」として見えてきます。一方の「波」は、さまざまな可能性のうち、どの状態にあるかの確率によって存在を予測します。

例えば、目で見えない電子はどこにあるかなどを、確率から導き出すのです。

量子重ね合わせ

物質における量子力学的な状態をあらわす「波」は、確率の波となります。

例えば電子を測定する際、特定の場所から電子が右にあるのか左にあるのかは、確率としてしか把握できません。量子力学的には、異なる状態を重ね合わせて「同時に存在している」と表現します。

量子もつれ

量子力学的には、小さな世界における物質の状態を測定したことによって、その量子の性質が確定した際、同時に遠く離れた場所での性質も瞬時に確定できます。これを「量子もつれ」と言い、離れた場所の状態が強く絡みあっているように見える状態を指します。

量子科学技術の推進

量子科学技術を活用した未来社会におけるビジョンについて紹介します。

【量子化学技術の推進】

     
  • 量子コンピューター
  • 量子ソフトウェア
  • 量子セキュリティ・ネットワーク
  • 量子計測・センシング

量子コンピューター

量子コンピューターは将来、スーパーコンピューターをはるかにしのぐ演算が可能であると期待されています。

従来のコンピューターは、半導体にかかった電圧の高さによって0と1を表して2進法で演算します。それに対し量子コンピューターは、量子力学に基づいて「0と1が重なり同時に存在する状態」を利用した、複数の計算を並列化して演算できるのです。

創薬や医療、化学や人工知能、金融や物流業界での活躍が期待されています。

量子ソフトウェア

量子ソフトウェアの開発により、従来のコンピューターと量子コンピューターのハイブリッドなコンピューティングサービスが期待されています。

例えば、創薬や医療、材料、金融等の分野、またAI技術などの分野との融合によるソフトウェアの開発などです。

そのために、さまざまなユーザがアクセスでき、ユースケースを研究しつくりだせる環境の構築が必要とされています。

量子セキュリティ・ネットワーク

量子コンピューターは、それ自体がサイバーセキュリティー上の脅威になりうることを考慮しなければなりません。現在使用されている暗号化技術は、量子コンピューターによって瞬時に解読されてしまう可能性があるからです。

サイバー攻撃への対策として、量子セキュリティ(暗号)・量子ネットワーク(通信)が研究・開発されています。国家機密や金融業、医療や製造業などの分野で使用される重要なデータを、高セキュアで通信できる技術として期待されています。

量子計測・センシング

量子力学の原理を利用し、物理量を高精度に計測できる量子センシングの研究開発も進んでいます。外部環境の影響を受けやすい分子や原子レベルの物体の動きを観測し、現代のセンサーでは計測できない微弱な信号や活動を調査できるようになります。

例えば、電子の粒子が電場・磁場、温度などの環境において、高感度で反応するため計測やセンサー技術に利用できるのです。
自動車のセンシング技術や、高感度な磁気共鳴画像装置(MRI)の開発、自然災害を早期に予測するなど様々な技術に活かされています。

量子力学がもたらす未来

量子科学技術の推進によって、以下のような多様な技術開発に活用されます。

     
  • 広告戦略
  • スマートファクトリ
  • 金融業界
  • 交通・物流
  • 電気自動車用バッテリー
  • 次世代の環境材料開発
  • 防災・減災対応
  • 総合セキュリティ
  • がん、認知症の早期診断・治療

広告戦略

ビッグデータを分析することで、マーケティング指標の開発や予測が可能となります。
例えば、年齢や性別などの顧客データや売上データから、ターゲットユーザーに最適な広告の配信や広告の効果予測、さらに新しい広告フォーマットの開発ができるようになります。

スマートファクトリ

量子コンピューターの活用により、製造業における工場のスマートファクトリを実現します。市場の需要予測により、ムダのない商品の製造・販売、製造のプロセスや人員配置、材料の搬入や製品物流の最適化が期待されています。

金融業界

量子コンピューターの高速計算によって、より高度な金融取引の戦略策定やイノベーションの創出により、金融分野の経済成長を見込んでいます。

これまで、金融商品の価格算出には、膨大な数のシナリオ予測が必要でした。しかし、量子コンピューターでは即日、もしくはリアルタイムでの処理が可能となり、金融取引、リスク管理、ポートフォリオ最適化など、さまざまな分野で活用が期待されます。

交通・物流

量子コンピューターとAIやIoT、高速通信を組み合せることで、多様なニーズを満たせる次世代モビリティサービスを展開できるようになります。

例えば、MaaS(読み方:マース)による移動中の計画や配車、CO2排出量などを最適化できます。自動運転においては経路の最適化、交通量のシミュレーションによる、信号機と連携した渋滞緩和などを実現できます。

物流においては、配送車両の位置情報、荷物の重量や積載量などのデータを分析することで配送ルートを最適化できます。配送業者は、燃料費やCO2排出量の削減など、環境への負荷を軽減することができます。

電気自動車用バッテリー

量子センサー技術によって、従来に比べて電気自動車(EV)のバッテリーを100倍の精度でモニタリングできるようになります。

それにより、バッテリー電力をムダなく使用できるため、フル充電時の走行距離を約10%向上できるのです。

次世代の環境材料開発

量子コンピュータは、従来では困難だった複雑な化学反応や原子構造の解析を、高速かつ高精度に行うことができます。これにより、従来、長い時間を要した新規材料の開発を短時間で実現することが可能になります。

例えば、太陽電池の効率を向上させる新材料、水素や燃料電池などの新しいエネルギー源など環境問題の解決が期待されます。

防災・減災対応

量子コンピューターやスーパーコンピューターを併用した「次世代コンピューティング」では、大規模かつ高精度で超高速なシミュレーションによって防災・減災を可能とします。

有事の実被害を予測し、人々の避難ルートや最適な救援ルート、物資配送ルートを計算します。それにより、平時における都市計画や量子センサーを搭載した人工衛星などの観測網を敷設し、高精度な測地ができるようになります。

セキュリティ

量子コンピューターは、現在の暗号化技術を簡単に解読できる可能性があります。これによる個人情報や企業の機密情報などの漏洩が懸念されます。

量子コンピューターによるサイバーセキュリティへの脅威に対抗するために、分散型量子コンピューティングなど新しい暗号化技術の開発が急務です。また、サイバー攻撃のリスクを減らすための対策を講じることも重要です。

がん、認知症の早期診断・治療

量子センサ-を活用することで、細胞1つの状態を把握することや、量子計測によって1万倍の感度を持つ小型のMRIを開発できるようになります。

バイオマーカーによって、身体の異常を細胞レベルで検出することでがんの早期発見につながります。また、脳磁計測によって脳の活動をモニタリングすることで、認知症の早期診断や治療が可能です。

まとめ

量子力学とは、分子や原子などの非常に小さな世界における、物理現象を活用した力学です。量子コンピューターを利用することで、次世代のセキュリティや通信、計測やセンシング技術の発展が期待されています。

量子コンピューターは、まだ開発途上ではありますが、さまざまな業界で大きなイノベーションをもたらす可能性を秘めています。
今後、量子力学を利用した多様な発展に目がはなせません。

PEAKSMEDIA編集チーム

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