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LiDARとは?自動運転やiPhoneで注目のセンサーを徹底解説

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現在、自動運転技術の開発を各自動車メーカーが推進しています。その中でもLiDAR(読み方:ライダー)というセンシング技術が注目されています。

しかし、このLiDARとは、どのような技術なのかをご存じない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、自動運転やiPhoneに搭載される技術として注目されるLiDARについて、詳しく解説します。

LiDARとは

LiDAR(ライダー)とは、Light Detection And Ranging(ライト ディテクション アンド ランジング)の略語で、赤外線を照射して対象物までの距離や正確な形状を計測する技術です。身近な活用ケースでは、自動運転車が人や障害物を検知したり、ゴルフ競技者が距離を測定したりする際に使用されています。

以下では、LiDARにおける「ソリッドステート方式」と「MEMS方式」について解説します。

ソリッドステート方式

ソリッドステート方式とは、デジタル信号を加えて光ビームの方向をスキャン可能としたものです。従来型の3D LiDARは、360°を検出する回転式モーター型が主流であったため、小型化が難しくコストも高額なことから車載用には不向きでした。

ソリッドステート方式は回転式でないものの、小型のため複数のセンサーを設置して360°をカバーし、車載用として現在の主流となっています。ソリッドステートとは、もともと固体状態をあらわす英語で、ダイオードやトランジスタ、ICなどの固体の性質を利用した、半導体素子の電気回路を表すようになりました。

MEMS方式

MEMS(読み方:メムス)とは、Micro Electro Mechanical Systemsの略語で、微小電気機械システムを意味します。一般的に、電磁式のMEMSミラーを用いたレーザー光を走査させます。

ドイツのボッシュ社や、パイオニア社がMEMS方式のLiDAR開発に取り組んでいます。パイオニア社は、MEMS技術である電磁式のレンズと小型ミラーを組み合わせて、遠距離のセンシングと、近距離・広範囲のセンシングが可能な2つのシングルレーザータイプの製品化に成功しています。

LiDARの用途

LiDARは、以下に挙げるようなさまざまな用途があります。

  • 自動運転
  • ロボットの環境認識
  • iPhoneをはじめとするスマートフォン
  • タッチパネル
  • 気象学や地質学の研究
  • インフラの整備・点検
  • 災害救助
  • 測量

それぞれ、以下で詳しく解説します。

自動運転

自動運転は、米国のSAE(自動車技術会)によって、0~5までの6段階にレベル分けして定義されています。

  • レベル0:運転自動化なし
  • レベル1:運転支援
  • レベル2:部分運転自動化
  • レベル3:条件付運転自動化
  • レベル4:高度運転自動化
  • レベル5:完全運転自動化

レベル0~2までは「人」が主体となって運転しますが、レベル3~5までは「システム」が運転の主体です。事故を起こさず同乗者を無事に目的地へ運ぶためには、走行中に周囲のさまざまな情報をシステムが収集しなければなりません。前方の情報だけでなく、後方や側方に他の自動車やバイクが寄ってこないかなど、どのような障害物があるのかなどを正確な検知が求められます。

自動運転レベル3以上の実現には、LiDARの高精度なセンサーを活用した技術が必要です。

ロボットの環境認識

ロボットが周辺状況を認識するため、LiDARの技術が使われています。現代のロボット技術は、AIを搭載して自律した移動が可能になっています。

例えば、レストランでの配膳ロボットや家庭用の掃除ロボットなどは、LiDARの技術によって周辺の状況を認識し、人やモノに当たらないよう「避ける」「止まる」「後退する」などの制御を行います。

iPhoneをはじめとするスマートフォン

iPhoneをはじめとしたスマートフォンに「LiDARスキャナ」という機能を搭載させることで、周囲のモノを3Dスキャンが可能となります。

例えば、家具を入れ替える際、ソファーや食器棚を3Dスキャンすることでわざわざメジャーを使って計測をしなくても、瞬時に大きさを図れます。

タッチパネル

LiDARを活用すれば、タッチパネルでないモノをタッチパネルにすることが可能となります。例えば、テレビ画面や、パソコンのモニター画面に、LiDARセンサーを設置することでタッチパネルとして使用できるようになります。

さらに、空間をタッチパネルとすることも可能です。遊園地やゲームセンターなどにおいて、空間タッチパネルの技術を応用したユーザー体験型のコンテンツの提供もできます。

気象学や地質学の研究

空挺型LiDARの技術は、気象学や地質学の研究にも役立てられています。

気象学においては、風の測定や雲のプロファイリング、大気成分の定量化など、さまざまな測定を行うために活用されています。具体的には、大気中の成分を測定することで、地球の温暖化の要因と言われる温室効果ガス(二酸化炭素やメタンガス)の排出量を図れます。

地質学においては、アメリカ航空宇宙局NASAが打ち上げた衛星「ICESat(読み方:アイスサット)」及び「ICESat2」は、LiDARの技術を用いています。衛星センシング技術により、地球温暖化や海面上昇の進行を予測する上で役立つ氷床と海氷を観測しています。

インフラの整備・点検

インフラの整備や点検にも、LiDARの技術は活躍しています。

LiDARを活用することで、高所における照明器具などのインフラ設備に異常が発生した際、対象物の外観データを可視化して障害を検知できます。

照明器具の異常とは、例えば鳥が巣を作ってしまった場合、LiDARの機能を搭載した点検システムが異常を自動検知し、監視センターへ通知するというものです。従来の定期メンテナンスは、人が歩いて目視によって点検しているため非常に工数がかかります。

LiDARは、人の工数を大幅に削減できる技術として、インフラの設備点検をはじめとしたさまざまなシーンでの活躍が期待されています。

災害救助

自然災害の救助にも、LiDARの技術が役立てられています。

これまで、航空法によって定められている飛行高度150m(市街地では300m)の制限により、航空機では地上に近づけなかった高さでもドローンでは飛行が可能なため、LiDARのセンシングによって遭難者や行方不明者の捜索が可能です。

測量

空中艇LiDARを活用すれば、地形の測量や森林の測量が可能となります。LiDARを搭載したドローンを飛行させ、センシングで収集した地形データから以下のような画像や図形の作成が可能です。

■三次元点群

【引用】国土交通省 国土地理院

■オルソ画像

【引用】国土交通省 国土地理院 オルソ画像について

■等高線図

【引用】国土交通省 国土地理院

■平面図

【引用】国土交通省 国土地理院 基盤地図情報とは

従来のミリ波レーダーとの違い

LiDARと従来のミリ波レーダーには、物体の形状や正確な位置を認識できるかに違いがあります。その他の違いについて、以下の表にまとめました。

LiDARミリ波レーダー
照射レーザー光(赤外線)ミリ波(電磁波)
波長短い長い
遠距離の計測
物体の形状を認識
物体の正確な位置の検知

ミリ波は波長が長いことで障害物を回り込むことが可能のため、遠距離の計測に向いています。その分、電波のビームが太いため画素数が低くなることで、物体の正確な形状や位置の特定ができない特徴があります。

LiDARの赤外線は、遠距離の物体をとらえられない一方で、波長が短いことでミリ波よりも小さな物体の形状を正確に計測でるという違いがあります。

3D LiDARを使用すれば、物体を立体的に計測でき、3次元イメージを取得できます。

LiDARが注目されている理由

LiDARの技術は、自動車の自動運転技術や、産業ロボットや駅のホームドアのセンシングなど、幅広い分野での活用に期待が高まっています。LiDARは、その高い精度から特に自動運転の分野で注目され、研究開発が加速しています。

車線維持支援や自動ブレーキなどの先進運転支援システムADAS(読み方:エーダス)は、ミリ波レーダーやカメラで周囲情報を検知することが主流です。

しかし、システムが主体の自動運転レベル3(条件付運転自動化)以上を実現するには、ミリ波レーダーやカメラの技術では多くの課題が残ります。

例えば、物体までの距離の計測はできますが、正確な位置関係や物体の形状までを検知することはできません。そこで、対象物の形状や位置関係を正確に検知可能なLiDARの技術に期待が高まっているのです。LiDARであれば、歩行者や先行車両、周辺の建物などの形状、距離や正確な位置関係を三次元で把握できます。

走行中、急な歩行者の飛び出しや道路工事など、さまざまな交通状況の変化を瞬時に検知して判断しなければ、自動運転で安全に走行できません。ADASによる運転のサポートは、高速道路などの制限された道路のみでしか利用でないのが現状です。今後、高速道路以外のエリアでも自動運転技術が活用できるよう、LiDARの技術が注目されています。

LiDAR実用化の課題

LiDAR実用化の課題として挙げられるのが、現在では価格が高額であることです。低価格なものもありますが、自動運転に必要なレベルの機能を有し、車両に搭載が可能な小型なLiDARは、現状では非常に高額です。そのため、市販の自動車へLiDARが搭載されているのは、一部の高級車に限られているのが現状です。

また、LiDARが放つ光線が人体の目の安全を確保することにも気を配る必要があります。そのためには、近赤外線の波長を安全性が保てる制限値以下にとどめなくてはなりません。

さらに、消費電力によって、熱に対する耐性の課題にも注力する必要があります。LiDAR自体の性能低下や、他の機器への影響も懸念されるため、熱の発生に関しても設計における重要なポイントとなります。

LiDARの市場

矢野研究所の2018年の調査によると、2025年におけるLiDARを含む自動運転用センサーの世界市場規模は、2兆9,958億5,500万円と予測されています。

その内、レーザー/LiDAR関連は、3,331億4,400万円を予測しています(レーザー/LiDARは低価格の赤外線レーザーが中心)。

参考資料:ADAS/自動運転用センサ世界市場に関する調を実施(2018年)

2020年のレーザー/LiDAR市場における24億4,000万円から、実に73%増の予測となっています。2025年以降、自動運転レベル3(条件付き自動運転)の高級車、MaaS(読み方:マース:Mobility as a Service)向けの商用車の市場が本格的に立ち上がることで、LiDARの需要がさらに拡大することを要因としています。

また同所では、2030年のレーザー/LiDAR市場は4,959億円と、さらに飛躍されると予想しています。この要因は、LiDAR製品のコストダウンによって、市場規模が拡大すると予測しているからです。

LiDARの今後

LiDARは今後、さらなる性能の向上が求められています。赤外線を往復させることで対象物の距離や形状を把握するLiDARは、実用化されているものでは50 m先の検知が限界です。自動運転において、前方車両の認識を考慮すると300mほどの距離を測定できなければならないでしょう。

高速道路などでの運用を考えるとこの距離を300 mあたりまでは伸ばさなければなりません。今後、この課題を解決すべく、自動車メーカーと「国立研究開発法人産業技術総合研究所」が共同で開発を行い、独自でマイクロメートルクラスの微細な物体を検知可能なLiDARの研究が始まっています。

この技術を活用すれば、光ファイバーを使用して、機械や構造物を分解せずとも内部の検査が可能になります。実用化され、市場で普及すれば大幅なコスト削減につながるため期待されています。

今後、自動運転をはじめとした産業の分野だけでなく、個人の生活においても、さまざまな用途でLiDARの技術を搭載した便利な機器が市場に登場するでしょう。

まとめ

LiDARは、赤外線を照射して物体までの距離や位置、正確な形状を検知する技術です。これまでのミリ波レーダーに比べて、物体の詳細なデータを収集できることから、気象学や地質学、測量や災害援助など、産業だけでなく広い分野に渡っての活躍が期待されています。

現在はまだコストが高額なため、一般の市場には登場しておりません。しかし近い将来、我々個人の家庭において、LiDAR技術を搭載した機器が活用してくれる日も近いかもしれません。

PEAKSMEDIA編集チーム

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