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カーボンニュートラル実現に向けて、CO2可視化の方法とは?|株式会社ウフル 【後編】

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製造業に課せられた命題、「カーボンニュートラル」。

ものづくりの過程でCO2を直接的に排出する製造業にとって、持続可能な未来を目指す社会の一員としてクリアしなければならない重要なステップだ。にもかかわらず、取り組みは進んでいるとは言い難い。

前編では、製造業におけるカーボンニュートラルの取り組みが停滞する理由と改善のヒントについて、株式会社ウフルのChief Research Officer(CRO)である古城篤さんにお話を伺った。後編では、古城さんの研究領域の知見をもとに、カーボンニュートラルを後押しするAIやIoTの技術、実際の活用について、企業内で取り組みを推進する人が組織を動かす方法について深掘りしていく。

プロフィール

株式会社ウフル 古城篤さん

2009年、株式会社ウフルに参画。クラウドインテグレーション部門の責任者としてSalesforceやAWSのパートナービジネスを推進。その後、同社のデータサイエンス研究所の主席研究員に就任し、データライフサイクルの研究・開発を行い、2016年にChief Technology Officer(CTO)、2021年にChief Research Officer(CRO)に就任し、IoTやブロックチェーンの研究開発に取り組む。2022年からは名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所(GREMO)にて、研究員(非常勤)としてデバイスやデータの真正性の研究を行っている。

株式会社ウフル 古城篤さんインタビュー【前編】はこちら

AIやIoTで、脱炭素の取り組みを自動化・見える化する

持続可能な未来に向けてカーボンニュートラルに取り組む場合、AIやIoTの力はどのようなところで活用できるのでしょうか?

「製造業がカーボンニュートラルを成功させるために必要なのは経済合理性だ」という話をしましたが、経済合理性が確立された時点で必要になるのが「証拠」なんですよ。CO2のように、実体としての物がない取引で金銭が絡む場合、証拠がないといくらでも嘘をつけてしまうからです。

例えば、カーボンオフセットに必要なクレジットについて、日本では国が認証するJ-クレジットが好まれていますが、海外では企業やNGOなどの民間が主導する「ボランタリークレジット」が乱立し、取引量が増加しています。

しかし、ボランタリークレジットは、政策的な縛りがないことや国際取引がしやすいことなどのメリットがある一方、その質にはばらつきがあるのが現状です。簡単に言うと、「森林を増加させた」とするボランタリークレジットを買って自社のCO2と相殺したつもりだったけど、調査してみるとそんな森林は存在しなかったといったことが起こっているんですね。

また、サプライチェーン全体の報告義務があるメーカーや、上場企業から排出量の報告を依頼された下請け各社も、証拠が求められなければ適当な報告が可能になってしまいます。

確かにそうですね。今は、どうやって報告が行われているんですか?

フリーランスの人が受給証明、活動証明である領収書をもとに確定申告手続きをするように、電気料金明細書を見てそのまま数字を転記しています。この方法では、会計処理と同様に期末に集計が集中することや、人的ミスを防げないなど課題が多くあります。

また、報告に第三者が介在する仕組みがなければ、算出した数字の信憑性も低いです。今後は、集計の効率化と証拠能力の向上につながる仕組みが必ず必要になってくるでしょう。

加えて、今後は「報告」だけでなく「削減」が求められるようになります。しかし、報告時に確認する、電気料金明細書でわかるのは現状だけ。電気料金明細書から、どこをどうすれば削減につながるのかを読み取ることはできません。

そこで、「集計を効率化する」「証拠を残す」「削減方法を見つける」という3点で生きるのが、AIやIoTの力です。

実際にAIやIoTの技術を活用している例があれば教えてください。

松尾産業と連携して行った、サプライチェーン全体の温室効果ガスの排出量を効率的に算定・共有するための実証実験は、まさにその一例です。従来なら装置ごとに電力センサーをつけて電流の量を計測しなくてはならなかったのですが、分岐前の電流計測にAIを導入することで、分岐後の電流の流れを推測して計測できるようになるのです。

この電流ディスアグリゲーション技術により、消費電力量の調査がいずれ全工場の全ライン、全製造装置に及んでも、確証のある数字をスピーディーに算出して報告の負担を軽減できます。

【リリース】松尾産業はウフルとの連携により カーボンフットプリント実証実験を開始します

また、ボイラーなどCO2を直接排出する設備の場合、排気段階でCO2を測定する装置を設置して計測を自動化すれば、日ごと、週ごと、月ごとといった単位で簡単に排出量の推移を見ることができます。すると、CO2を削減すべき場所とタイミングが可視化されるので、ボトルネックの解消が容易になるでしょう。電気の使用量も同じですね。

こうした実証実験は、すでに自動車業界で行われています。今後も、電流ディスアグリゲーション技術が適用できる業種、装置の幅を広げながら社会実装を目指していくことになるはずです。

データを手入力して温室効果ガスの排出量を算出するサービスはすでに商用化されています。そういったサービスに自動計測できるシステムを接続していくことで、今後、自社の事業活動に関係するあらゆる温室効果ガスの排出量が自動算定できる未来も、そう遠くはないと思います。

第三者との対話と、現場に対する理解がイノベーションのカギ

企業の取り組みを楽にする、さまざまな技術が実装に向けて動いているんですね。では、そうした技術を活用して新たなビジネスチャンスをつかむためには、どう行動していけばいいでしょうか?

企業内でイノベーションを起こそうとする場合、これまでの常識の中に閉じこもっている人をどう動かすかが大きな課題になってくるケースが多いです。

この人たちに新たな視点を持ってもらうためのアプローチは、大きく2つ考えられます。

ひとつは、深い関わりがある別業種や、無関係の業種の人と対話することです。深い関わりがある別業種とは、製造業なら物流などが該当します。製造と物流は、この先の未来も切り離せない関係であり、お互いに時代とともに変わっていく部分が多々あるはずですが、双方が描く未来について話し合う機会はあまりないでしょう。

関係性の深い業種同士で将来の事業の在り方をディスカッションするところから始めると、Win-Winのコラボレーションが生まれる可能性が高く、かたくなな人の心も動かしやすいと思います。

一方、無関係の業種とは、私たちのようなIT企業などですね。業界の中にいては見えないことが、第三者の目を通すと見えてくることは少なくありません。そもそもフレームがないので、常識にとらわれない提案やアドバイスができます。

異業種の人と対話することで、自社のビジネスをより広い視点から俯瞰して捉えることができそうですね。しかし、社内の組織間で対立が生まれたときはどうしたらいいでしょうか?

それがもうひとつのアプローチ法で、相手に寄り添うことです。イノベーションを起こそうとする場合、対立する層としては現場の人などが多いと思います。トップダウンで決定事項だけ落とし込んでも現場は動いてくれません。「株主が…」「企業の将来が…」といった話をしても、彼らにとっては面倒が増えるだけで、メリットが見えないからです。

なので、相手がうれしくなるような効果を提示することが大切です。「カーボンニュートラルのためにCO2を測る」とだけ言っても現場には響かないかもしれませんが、「計測したデータを使うと、いつも使っている装置の故障予知が可能になるかもしれない」と話したらどうでしょうか。「それならやってみてもいいかな」と思ってくれそうですよね。

経営層の課題をそのまま伝えて無理に動かすのではなく、現場の課題に置き換えて巻き込むことが大きなポイントになります。

あとは、現場でいっしょに働くのもありだと思います。ちょっとウェットすぎるやり方かもしれませんけど(笑)。結局のところ、組織は人と人のつながりですから、現場の思いや課題感を肌で感じてみることも有効です。

夢を描き、実現を目指した人だけに、未来の居場所がある

お話を伺って、製造業に限らず、日本の未来が楽しみになってきました。ウフルが描く日本の未来についてもお話を伺えますか?

ウフルは、社会の無理・無駄をなくすことをビジョンとして、ヒト・コト・モノがストレスなく動く「SMOOTH WORLD」の実現を目指しています。

ユーザーとしてそれほど不便を感じていなくても、実は理不尽なことって世の中にたくさんあるんですよ。例えば、出張や旅行の際に乗り継ぎを調べると、最適な特急や新幹線が表示されますよね。でも、そのチケットを買うためには、また別のサービスを開いて手続きをしなければならない。どの新幹線に何時に乗れば良いかまでわかっているのに、すごく理不尽だし、無駄だと思いませんか?

検索機能に電車の予約機能、支払い機能が追加されれば、目的地までの移動はもっと快適に、便利になるでしょう。

こうした移動体験の一元化のように、あらゆるユーザー体験に存在する潜在的な不満を解消して、誰もがストレスなく生きられる持続可能な社会を作りたいと思っています。

理不尽なこと、ものに気づく力は、企業内イノベーションにおいても重要そうですね。どうすれば、そうした視点を養えますか?

まずは、当たり前の視点を捨てることです。「移動はこういうものだ」「これはこういう仕組みで動くものだ」と思っていると、従来の考え方から抜け出すことはできません。

自分の体験を客観視して、固定観念を疑いましょう。異業種とのコラボレーションにも、従来の価値観を塗り替える効果があります。持続的な成長を目指す企業が、思いを同じくする企業と官・学とともに協働するGXリーグという場も、同様の効果に期待して行われているものです。

新しい価値観にふれて自分を縛っていたものから解放されると、隠れた理不尽に気づけるだけでなく、未来に対する先入観もなくなります。すると、たとえ足元が盤石であっても、それに甘んじることなく、より理想的な未来を思い描くことができるでしょう。

ワクワクするような未来を描くことは、イノベーションを起こすことにつながりそうですね。

日頃から、当事者意識を持って未来を夢見てほしいですね。5年後、10年後、そのとき自分は何歳で、子供がいたら何歳で、どういう世界になったらいいだろうと夢を見ていると、閉塞感と無縁でいられて、精神衛生上とても良い(笑)。

それに、カーボンニュートラルやSDGsを考えるとき、取り組みの未来と自分の未来を重ね合わせることで、より自分事として実現可能性を高めていけるはずです。

行き詰まったら、ぜひ未来を想像してみてください。描いた未来を形にできるのは、夢を見た人だけ。そして、未来の自分の居場所を生み出せるのは、夢を実現できると信じて追い続けた人だけです。「電話を再発明する」と言ってiPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズのように、今ここにある常識を超えていくために、自由に夢を描き続けてほしいです。

株式会社ウフル 古城篤さんインタビュー【前編】はこちら

PEAKSMEDIA編集チーム

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