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【イベントレポート】ヤンマーと日本触媒に見る、現場を動かすDX|Manufacturing CIO Japan Summit 2026

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AIやデジタル技術を導入すれば、DXは進むのか。実際の製造現場では、そう簡単ではない。現場には現場の課題があり、長年培われてきた経験や技術がある。一方で、ITやデジタル部門だけでは業務を変えられず、各部署との連携に加え、経営課題とどう結びつけるかも求められる。では、誰が現場の課題を見つけ、誰が人を巻き込み、現場を動かしていくのか。

2026年9月8〜9日、Marcus Evans主催の「Manufacturing CIO Japan Summit 2026」がヒルトン大阪で開催された。製造業のCIOやIT責任者、工場のDX推進担当者を対象としたサミットだ。PEAKS MEDIAでは、製造業におけるDXの現在地を取り上げた2つのセッションに注目した。

1つ目は、ヤンマーホールディングスAI戦略推進部 部長の山根寛司氏が登壇した「グローバルAI変革の急所 ― 現場主導の『DXコミュニティ』が生む業務プロセス刷新のリアル」と題したセッションだ。現場を巻き込みながらDXの輪を広げ、生成AIやAIエージェントの活用へと発展させてきた取り組みを紹介した。

2つ目は、株式会社日本触媒 DX推進本部長 中川博貴氏による「化学プラントにおける現場とAIの融合 ― 伝統技術をデジタルで進化させる実効性あるDX」と題したセッションだ。生産計画の自動化や化学プラントの自動運転など、現場が抱える具体的な課題を起点にAIを実装。熟練者が担ってきた判断をデジタル技術で支えながら、現場の業務を変えていく事例が紹介された。

Manufacturing CIO Japan Summit 2026

世界各国でビジネスサミットや経営層向けイベントを企画・運営する国際企業、マーカスエバンズが主催する、製造業のIT・DX領域を担う経営層や責任者が集うビジネスサミット。AIやデジタル技術の活用、組織変革、人材育成などをテーマに、各社の実践事例や課題を共有する。講演やディスカッションに加え、参加者同士の交流や個別ミーティングを通じて、企業の枠を越えた知見の共有と新たなつながりを生み出す場となっている。

草の根DXで現場が動き出す仕組みをつくる

ヤンマーホールディングスAI戦略推進部 部長 山根寛司氏。ヤンマーならではの現場を巻き込む草の根DXについて語った。

ヤンマーホールディングスにDXを推進する部署ができたのは2022年7月。山根氏がまず着手したのは、ツールを配ることではなく、コミュニティをつくることだった。

「コーポレートのDX組織は、生産現場や営業現場があるわけではないので、立ち位置が非常に難しいと感じました。まずは現場を巻き込む仕組みを作るところから始めようと、社内コミュニティを設立しました」

DXやAIに関心がありそうな社員20名に声をかけるところから始め、無償トレーニングやツールの優先貸出といった特典を用意。「業務が楽になった」という社員の口コミから、コミュニティの輪は徐々に広がっていった。

「現場の業務そのものを変革できるのは、日々の業務を回している現場の事業部や社員本人しかいません。本社の人間が『このツールを使いましょう』と一方的に導入を促しても したところで、現場は冷ややかに見るだけです。だからこそ、現場を主体的に巻き込む仕組みを作るところから始めました」

結果、全社で4300名以上が自主参加するコミュニティが育った。社内の情報共有ポータルのユニークユーザー数は約1万5000人、1週間あたりのユニークユーザー数は約1500人と、社内のサイトでもトップクラスの利用状況だという。

一方、日々の業務に追われ、DXに取り組む時間を確保することが難しい現場もあった。そこで山根氏らは、若手社員へのトレーニングなどを通じてDXの活用を広げ、職場全体の理解につなげていった。

「今の業務に集中したいという上長の気持ちもよくわかります。よく例えられるのが『木こりのジレンマ』です。目の前の木を切ることに追われていても、一度手を止めて刃を研いだり、チェーンソーを使ったりすることで、生産性は大きく変わります」

目の前の仕事をこなすだけでなく、その進め方を見直すことの大切さを、具体的な事例とともに伝え続けてきた。

ヤンマーのデジタル戦略の基本にあるのが、常務取締役DX担当の奥山博史氏が発信する「ぐるぐるモデル」だ。課題設定、データ収集、意思決定、アクションのサイクルをデジタルで高速に回し、製品と業務プロセスの進化を加速させる考え方である。このモデルを踏まえたAI戦略では9つの推進領域を定めており、予測AIや生成AIと並んで「草の根DXの推進」を掲げている。

「最終的には、利益の最大化というところを目指すわけですけれども、そのために、価値を創出し、実現するための業務プロセス、基本となるものとして人材や文化醸成があります」

全社での生成AIの活用として、社内ナレッジを検索できる「Yanmar AI-Knowledge」を構築した。2025年7月に開いた事例共有会には約200名が参加した。過去の開発資料を横断的に検索できるようにしたことで、14,000時間/年の工数創出につながった。

また、コミュニティ起点で立ち上がったDXとして成功したのが、営業活用への取組みだ。営業部門では、過去の成功事例や日報にナレッジが蓄積されていたものの、十分に活用できていなかった。そこで、営業のナレッジに加え、カタログ情報やWebサイトも横断的に検索・活用できる仕組みを構築し、営業活動の底上げを図った。

「例えば、このお客様にこの商品を提案したいと質問すると、過去の成功事例を踏まえた提案スクリプトを作成してくれます。経験にかかわらず、必要な専門情報を得て、具体的な営業活動につなげられるようになりました」

このツールは、社内で活用が進むユースケースの一つとなっている。

「効果として、報告書を書く時間が短くなった等の工数削減やスピードアクションが、わかりやすく表れています。一方で、見逃せないのが、定性的な効果です。特に、ナレッジを共有する文化が醸成されたことが挙げられます。これまでは、何に役立つのかわからず、やらされている感があったと思います。しかし、実際に作ったものが活用され、組織ナレッジの底上げにつながることが明確になりました。これにより、このツールを保持していかなければという意識も生まれています」

予測AIの取り組みも、コミュニティが2022年10月に開催した勉強会をきっかけに広がった。約100人が参加し、そこから約10件のトライアルが始動。4年間で82テーマに取り組み、13テーマが本番運用中、23テーマがPoC中だという。注目すべきは、3分の2ほどは非IT部門メンバーだということだ。

「発電機の需要予測、コンバインの需要予測、月次業績報告の帳票、業務保全など、それぞれのメンバーがAIを活用しながら業務を進めています」

ヤンマーグループの社内DX推進イベントの様子(画像提供:ヤンマーホールディングス)

ボトムアップ型DXを経営成果につなげる

現場から自発的な取り組みが生まれ、個別業務の改善は進んだ。しかし、取り組みを続ける中で別の課題が浮上した。個々の改善を、会社全体の経営課題や経営効果にどうつなげるかという問題だ。

「現場から生まれる改善活動は、非常に重要だと考えています。一方で、個々の業務の効率化が、必ずしも経営成果に直結するとは限りません。そこで今後は、経営課題からテーマを設定し、業務プロセス全体の変革にも取り組んでいきたいと考えています」

現場起点のDXは、個々のタスクや業務を効率化するうえで有効だ。一方で、個別の作業を改善するだけでは、業務プロセス全体を変えるところまでは届きにくい。そこで次の段階として進めているのが、経営課題を起点としたトップダウン型のDXだ。

「経営上改善したいテーマを設定し、それに関連する業務プロセスを洗い出します。プロセスごとに何をインプットし、何をアウトプットしているのかを整理したうえで、AIなどの技術を活用しながら業務そのもののあり方を見直していきます」

End to Endで業務プロセスを捉え、業務プロセス改革(BPR)によって業務全体を組み替える。その際、ヤンマーが重視しているのが内製化だ。

「業務プロセスの整理や変革は自分たちで進めることにこだわっています。時間もかかりますし、手作業も多い。それでも、自分たちで業務を見直し、変えていく力を身につけることが、今後のヤンマーにとって重要なケーパビリティになると考えています」

DXを次のフェーズへ進めるうえで、山根氏が挙げた課題は大きく3つある。1つ目はテーマ設定だ。適切なテーマを選べなかったり、期待が過剰になったりするケースがあるという。2つ目は業務適用の壁。PoCで一定の成果が出ても、実際の現場業務で使われなければ変革にはつながらない。そして3つ目が経営効果の可視化だ。経営目標からKGI・KPIを設定し、業務プロセス全体を変える「プロセスDX」で対応するという。

「コミュニティの運営を通じて、意外と非ITのメンバーの中にも、AI活用に興味を持っている人が多いなと感じました。まずはそういった挑戦者を増やしながら、裾野を広げて土台を作ったうえで、最終的に経営のKPIに結びつけていくことが大事だと思っています」

草の根の活動を通じて、AI活用に挑戦する社員の裾野は広がった。山根氏は、これまでも成果が出ていなかったわけではないとしたうえで、その成果をどう示すかが次の課題になると語った。今後は経営のKGIと結び付けた活動を進め、経営成果を生み出すフェーズに入る。

人手不足という危機感から生まれたDX

株式会社日本触媒 DX推進本部長 中川博貴氏 製造現場での人手不足から生まれたというDXについて語った。

一方、日本触媒の中川氏が講演で取り上げたのは、人手不足や熟練者への依存といった、化学プラントの現場が抱える課題だ。こうした課題に対し、同社はAIを活用して、これまで人の経験や判断に頼ってきた業務の変革を進めている。

「製造現場で働きたい人は今後も減っていくと思っています。やはり皆さんきれいな場所で働きたいでしょうし、雨の中、外で点検があるのも嫌がられるだろうなと。熟練者が培ってきた経験やノウハウをどう残し、限られた人員で設備を運用していくか。そこにDXの必要性があると感じました」

同社の姫路製造所の吸水性樹脂の生産では、数十品目に及ぶ製品を複数のラインで製造している。販売計画や在庫の状況に応じて生産計画を組み替える必要があり、社内外の倉庫の容量にも制約がある。こうした条件を考えながら3カ月分の計画を立てる作業は、熟練者が丸1日かけて表計算ソフトで担っていた。

「販売計画に沿って、在庫の状況を見ながら生産能力が違うそれぞれのラインで組み、生産計画を立てます。時間がかかる作業なので、現場担当者が抱え込んで進められない、という問題がありました」

そこで、AIを活用して生産計画を自動作成する仕組みを導入した。ALGO ARTISの製品をベースに、同社が得意とするアルゴリズムを用いて400万回計算する生産最適化システム「SAPOS-01」を構築。ERPから取得したオーダーや在庫のデータなどをもとに、3カ月分の生産計画を約30分で作成できるようになった。倉庫容量まで考慮した計算でも約60分で、従来の丸1日から大幅に短縮したという。

「同じラインで製品の切り替えをすると生産は止まりますし、その製品に適した部品の入れ替えなどでロスも出ます。切り替え回数は導入前と比べて3分の2まで効率化できました。倉庫も効率的に使えるようになりました」

原材料や在庫データなど、熟練者が判断していた複雑な制約条件をAIが扱えるようにしたことで、現場に変化が生まれた。これまで経験3年以上の専門職が担ってきた生産計画の作成は、AIスケジューラの導入により、新しい担当者でも1〜2日で習得できるようになり、社外研修も不要になったのだ。最新の情報に基づく生産計画が、必要な情報さえ与えれば自動で作成されるようになったことで、現場の負担軽減にもつながっている。

あえて難しい設備に挑み、成功事例をつくる

日本触媒が取り組むもう一つのテーマが、化学プラントの自動運転だ。対象となった蒸留塔は、天候や温度の変化によって常に状態が変わる。

「細い蒸留塔で、雨が降ったり温度が変化したりすると、かなり制御が難しい。留出タンクがオーバーフローと液不足にならないよう管理しなければならず、人が常時対応していました。年に数回しか運転しないので技術継承も難しく、新しい人に教える機会もありません」

NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)の「AI Autopilot System」を活用し、過去の運転データを使ってAIモデルを構築。まずはオフラインで検証を重ね、その後実機での検証へと段階的に進めた。

「16日間の検証期間のうち、AI予測値と設定値の差が安定してきた7日目からオートパイロットにいつでも移行できるような状態になったが、なかなか踏み切れず、終盤の43時間の自動運転に成功しました」

あえて難易度の高いプラントで挑戦したのは、そこで成功すれば他の設備にも応用できるという読みからだ。人手不足の現場でも熟練者の知見を生かした運用を続けられるようにするのが狙いがある。

工場内のデータを統合する基盤が、Cogniteの「Cognite Data Fusion(CDF)」だ。日本触媒は2022年12月、姫路製造所にCDFを導入することを決定。時系列データに加え、設備管理システムや保全システム、プラント配置図といった、個別に管理されていたデータを統合し、必要な情報を横断的に検索・分析できる環境を、その後約1年かけて整えた。

姫路製造所では、これまで情報検索や情報共有に費やしていた時間を年間約2万3000時間削減できたという。インドネシアなど海外拠点への横展開も開始している。さらに、「Cognite Atlas AI」などの生成AIとも連携し、トラブル発生時の原因特定や、異常予兆の事前検知を支援することも目指している。

「トラブルが起きてから原因を探すのではなく、過去のデータから兆候を捉えて事前に対応する。設備ごとに『こういう操作をすると問題が起きやすい』といった知見をAIが提示することも想定しています」

こうした取り組みについて、会場からは質問が寄せられた。「熟練者の経験をどうデータ化して抽出したのか」「化学プラントという事故のリスクを伴う現場で、機械に任せられないという不安をどう乗り越えたのか」という問いだ。質問の答えとして、中川氏が挙げたのが、現場と技術をつなぐ「トランスレーター」の存在だ。

「私自身、現場経験が長かったので、成功した仕組みを入れるときは、ベンダーと現場の人たちの間を翻訳できる人間が必ず必要だと思っています」

現場の経験をデジタル側に伝え、デジタル技術を現場が理解できる形に翻訳する。その間に立つ人材が、DXの実装を左右するという。

「デジタルの技術が分かる人は現場を知らない。現場を知る人はデジタルを知らない。そこをトランスレートしていく人間がプロジェクトに関わっているかどうかが大きいと感じています」

現場とデジタルの間を、人を介して橋渡ししていくことが、DXにおける社内の潤滑油となり、成功への鍵となるかもしれない。

2社の事例から見える、DXの次の課題

モデレーターを務めたデンカ株式会社 本社デジタル戦略部 部長・盛岡実氏。DXを「IT化」で終わらせないことの重要性を語った。

ヤンマーは、現場を巻き込むために コミュニティを形成し、多くの社員を巻き込みながらDXのテーマを増やしてきた。日本触媒は、人手不足や技術継承という現場の課題を起点に、生産計画や設備運転といった難易度の高い業務にAIを組み込んできた。それぞれ異なる入り口からDXを進めながら、現場の変革を目指している両社の事例には共通点がある。DXを単なるITツールの導入として捉えていない、という点だ。

両セッションでモデレーターを務めたデンカ株式会社 本社デジタル戦略部 部長・盛岡実氏は次のように語った。

「DXを成功させる上で最も重要なのは、単なる『IT化』で終わらせないことです。システムを構築してリリースしただけで満足し、ユーザーとの連携が取れていないケースは非常に多く見られます。新しいものを生み出すには、社内のステークホルダーと泥臭くコミュニケーションを取り続けることが不可欠であり、それが最終的なアウトカムの創出につながります。IT部門が経営層や事業部門などのステークホルダーとつながらなければ、DXの広がりはありません」

118本の打ち手を3大プロジェクトに大別して統制しながらDXを進めているデンカにおいても、DXを「IT化」で終わらせないことを重要視している。

盛岡氏は講演資料で、DXで陥りがちな罠に「技術的な要因はひとつもない」とし、成功のカギはステークホルダーマネージメントや業務設計にあると示した。

AIやデジタル技術を取り入れることによって誰の仕事がどう変わり、組織としてどのような価値を生み出すのかという過程を追い続けること、さらに、現場目線で人が手綱を握り、経営や事業の成果につなげていくことが必要になる。

ヤンマーは現場主導の活動を広げた先に、個別の業務改善をどう経営課題につなげるかというフェーズにたどり着いた。日本触媒は、熟練者の判断をAIに置き換えると同時に、現場を知る人とデジタルを知る人の間をつなぐ「トランスレーター」の重要性を示した。

DXを動かすのは、技術ではなく人

2日間にわたるプログラムでは、製造業の経営層やDXに携わる関係者が集まり、各セッションに加えてランチやディナー、ネットワーキングの時間も設けられた。参加者は立場や業界の垣根を越えて意見を交わし、具体的な連携や協業の可能性について議論を深めていた。

現場で生まれたDXを、どのように組織全体の変革へ広げ、経営やイノベーションにつなげていくのか。AIの進化によって技術の選択肢が急速に増える今だからこそ、問われているのは「何を導入するか」ではなく、技術を前に、人と組織をどう動かすかだ。製造業のDXは、まさにその問いに向き合う段階に入っている。

多くの製造業関係者が一堂に会し、公式プログラム以外の場でも活発な交流が生まれていた今回のサミット。現場での取り組みを、どのように組織全体の変革や経営成果につなげていくのか。技術の進化とともに変わり続ける製造業のDXについて、さまざまな立場から多角的に考える2日間となった。

ランチネットワーキングの様子。立場や業界の垣根を越えて意見を交わす場となった。
各セッションの合間には参加者同士の交流も。同じテーマに関心を持つ担当者同士ということもあり、会場の至る所で談笑する様子が見られた
スポンサーとなるソリューションプロバイダー企業はIT部門の決裁権者と1対1でミーティングできる機会が設けられた。

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この記事の編集者

PEAKSMEDIA編集チーム

PEAKS MEDIAは、製造業イノベーションをテーマに松尾産業㈱が運営するWebメディアです。大変革の時代に悩みを抱えるイノベーターの改革を1歩後押しする情報、製造業をもっと面白くするヒントとなる技術や素材、イノベーションを推進するアイデア、取り組みを取材し発信しております。読者の皆様からのご意見や、取材情報の提供もお待ちしております。

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