
東京理科大学の長岡竜之輔氏、小嗣真人教授らの共同研究グループは2026年7月29日、説明可能AIを用いた設計手法により、スピン波を制御する新たなマグノニック結晶を発見したと発表した。遺伝的アルゴリズムとシミュレーションを組み合わせ、鉄と酸化ユーロピウムからなる非自明な構造を複数見いだした。研究成果は2026年7月28日、国際学術誌「Small Structures」にオンライン掲載された。
マグノニック結晶は、磁性材料を周期的に配列した構造体だ。フォトニック結晶が光を制御するように、スピン波を精密に制御できる。スピン波は、磁性体中の隣り合う原子の磁気モーメントが連鎖的に揺れ動いて生じる波で、電子を直接流さずに情報を運べるため、発熱の少ない情報伝達の手段として研究が進んでいる。マグノニック結晶は、次世代の情報処理技術を支える素子の一つと位置付けられる。
中でも、特定の周波数帯でスピン波の伝搬を妨げる「マグノニック・バンドギャップ」は、構造によって調整でき、マイクロ波測定で実験的に検出できることから、設計の主要な制御パラメータとなっている。一方、構造とスピン波の伝わり方の関係は複雑で、バンドギャップを広げるための設計指針や最適な構造は明らかになっていなかった。従来の研究は、散乱体の半径や体積分率などを系統的に変える手法にとどまり、その多くが低次のバンドに焦点を当てていた。
研究グループは、目標とする物理特性を目的関数として定義し、最適な構造を探索する逆設計のアプローチを採用した。生物の進化過程を模した遺伝的アルゴリズムと、周波数領域のマイクロ磁気シミュレーションを組み合わせ、自律的に構造を設計するアルゴリズムを開発した。
まず低次のバンド間で最適化を試したところ、得られた構造は従来研究で有望とされる構造に酷似し、データ駆動型の探索が既知の最適構造を自律的に再現できることを確認した。次に3次以上の高次バンドを対象に最適化したところ、報告例のない新規構造が得られた。バンド次数が高くなるほど構造は複雑になり、局所的な欠陥構造が導入される傾向が見られた。時間領域のシミュレーションで性能を検証した結果、最大8.7GHz幅のバンドギャップを確認した。従来構造との比較では、4次で約90%、5次で約440%、6次で約180%、7次で約830%、バンドギャップの相対幅が向上した。
さらに、高速フーリエ変換で構造の特徴量を抽出し、多次元尺度法で設計空間を可視化した。1次から4次のバンドでは最適化された構造が空間内で局所的にまとまる一方、5次以上では広範囲に分散していた。これは高性能な構造の候補が複数存在することを意味し、設計の自由度が高いことを示す。
研究グループは、一般にブラックボックス化される探索過程を可視化・解析した点が、従来研究と異なるとしている。本手法は、マグノニック結晶にとどまらず、スピンのダイナミクス制御が機能の要となる磁気デバイスや量子コンピューティング技術への貢献が見込まれる。
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プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000267.000102047.html
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