
鉄鋼系素材メーカーの脱炭素対応が、調達モデルの革新を伴って進んでいる。東洋製罐グループの連結子会社・東洋鋼鈑は2026年3月27日、HSEとFIP制度を活用した陸上風力発電によるバーチャルPPA契約を締結した。HSEグループが運営する福島・秋田の3か所の陸上風力発電所から、年間18GWh相当の環境価値を調達する。これによりGHG排出量を年間約8,700t削減できる見込みで、東洋製罐グループとして初の風力発電由来の再エネ導入、かつ初のバーチャルPPA活用となる。
バーチャルPPAとは、発電所で生み出された再エネの「環境価値」だけを仮想的に調達する仕組みだ。物理的な電気の流れを変えることなく、非化石証書の形で再エネの価値を購入できるため、電力の受給契約を変えずに再エネ比率を高める手段として普及している。一方でFIP制度(Feed-in Premium)は、再エネ電力を市場価格で販売した上でプレミアムが付与される制度で、発電事業者が市場に積極参加するインセンティブを持ちつつ安定収益を得られる。バーチャルPPAとFIPを組み合わせたコーポレートPPAは、国内における再エネ調達の新たな標準的手法として広がりつつある。
東洋鋼鈑は1934年に日本で民間初のぶりきメーカーとして創業し、現在は表面処理鋼板・アルミ材・機能材料などを製造する素材メーカーだ。山口県下松市の主力事業所をはじめ、生産設備の電力消費量は大きく、カーボンニュートラルへの道筋で再エネ調達の拡大は不可欠な課題だった。今回の契約は中長期環境目標「Eco Action Plan 2030」の一環で、2030年度に下松事業所で使用する電力の約25%を再エネに置き換える計画の重要な一手となる。
製造業の電力調達において、バーチャルPPAが持つ利点は3点にまとめられる。まず、既存の電力契約を維持しながら再エネ証書だけを取得できるため、切り替えコストとオペレーション負荷が低い。次に、発電所が遠隔地にあってもよく、適切な供給規模の風力・太陽光発電から広域に調達できる。最後に、FIP活用によりPPA単価が中長期で安定しやすく、電力コストの予見可能性が高まる。製造業が省エネ投資・再エネ調達の優先順位を判断する際の現実的な選択肢として、本案件は参照価値がある。
東洋鋼鈑は今後、他の発電所でのPPA拡大も含めて検討していく方針を示している。素材メーカーが自らのサプライチェーン上流にあたる電力調達の脱炭素化に踏み込む動きは、自動車・電子機器・食品包装など川下産業の顧客からScope 3排出削減を求められる文脈と直結する。脱炭素対応を「コスト」ではなく「顧客との取引継続の条件」として捉え直す動きが、素材業界でも加速している。
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プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000186.000049660.html
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