
囲碁やチェスなどデジタル空間では早くから人間を超えてきたAIが、ついに現実世界の競技スポーツで一流選手に勝利した。ソニーAIは2026年4月22日、卓球ロボット「Ace」の研究成果が国際科学誌「Nature」(第8110号)に掲載されたと発表した。Aceは一流およびプロレベルの卓球選手と現実世界で対戦できる世界初の自律システムだ。
Aceは1試合で千回を超える判断を要求される卓球に挑んだ。課題は高速・高回転するボールの3次元追跡と、ミリ秒単位の制御の組み合わせだ。これに対しAceは3つの技術を統合した。ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)の高速イメージセンサー「IMX273」搭載の9台のカメラによるボールの3次元位置認識、同じくSSSのイベントベースビジョンセンサー「IMX636」と視線制御システムによる最大450rad/sの回転検知、そして事前モデルに依存しない「モデルフリー強化学習」による即応制御の3つだ。
評価は国際卓球連盟(ITTF)のルールに基づき行われた。Aceは一流選手5人・プロ選手2人と対戦し、一流選手に対して5戦3勝を記録。さらにNature論文投稿後も改良を続け、2025年12月の追加試合ではプロ選手2人に1勝1敗、2026年3月にはプロ選手3名全員から少なくとも1勝を挙げた。
本研究の射程はスポーツの枠を超える。高度なリアルタイムセンシングと制御を物理世界で実現した今回の成果は、製造ラインでの高速精密作業、リハビリ支援、インフラ点検など、人間の反応速度の限界付近でのインタラクションが必要な分野への応用基盤となる。ソニーAIはかつてレーシングゲームAIエージェント「グランツーリスモ・ソフィー」でシミュレーション上の超人的挙動を実証しており、Aceはその技術を現実世界へ拡張した位置づけにある。
製造業のDX担当者にとって注目すべきは、センシング・学習・ハードウェアを垂直統合して「現実の物理環境で機能するAI」を実証した点だ。工場の自動化では「シミュレーションで動くが現場では動かない」という壁が長年の課題だが、Aceはその壁を突破する技術的アプローチを示している。
なお、Aceを支えるセンサー技術はソニーグループのイメージセンサー事業と直結しており、今回の研究はソニーグループが「エレクトロニクス×AI×ロボティクス」の統合をどこまで本気で推進しているかを示すシグナルでもある。日本発のフィジカルAI技術が世界最高峰の科学誌で評価されたことは、製造業の技術戦略を考える際の参照点として重要だ。
関連情報
プレスリリース:https://ai.sony/news/project-ace-press-release
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