
NEDOと京都大学は2026年8月20日、大型放射光施設SPring-8の次世代施設「SPring-8-II」に、水素エネルギー分野に特化した専用ビームライン「BL34XU」を建設すると発表した。両者によると、水素エネルギー分野の専用ビームラインは世界初となる。2027年度後半に建設へ着手し、2029年度の利用開始を目指す。燃料電池や水電解の材料を動作させたまま複数の手法で同時に計測し、研究開発の加速につなげる。
世界初の水素エネルギー専用ビームライン「BL34XU」
ビームラインとは、放射光施設で発生させたX線などの光を実験装置まで導き、試料の計測に用いる一連の設備である。今回建設するBL34XUは、SPring-8-IIで最初に新設される専用ビームラインとなる。
SPring-8-IIは、放射光を生み出す電子ビームを極めて細く絞る第4世代放射光施設だ。放射光の明るさを示す輝度が現行のSPring-8の約100倍に高まり、光のコヒーレンス(干渉性)も向上する。BL34XUはこの光を用い、4.5から35keVおよび100keVの広いエネルギー領域で計測する。
最大の特徴は、一つの材料を性質の異なる複数の計測法で同時に、しかも動作させたまま調べられる点にある。局所構造・電子状態を捉えるXAFS、結晶構造のXRD、ナノから階層構造のSAXS/USAXS、3次元イメージングのX線CTなどを、目的に応じて選び、同一試料・同一条件で同時に計測する。複数手法を組み合わせる手法をマルチモーダル計測、デバイスを動作させた状態で計測する手法をオペランド計測と呼ぶ。
従来は約1カ月の計測を約1日へ
燃料電池・水電解デバイスの高性能化や高耐久化、低コスト化には、触媒層のナノからミクロンスケールの多孔構造や、電極反応の不均一性など、階層的で不均質な構造を正確に捉える必要がある。単一の計測手法では解析できる要因が限られるため、複数手法の同時計測と、動作状態での計測が求められていた。
第1実験ハッチでは、燃料電池・水電解デバイスの触媒や電解質膜を対象に、温度やガス、電位などの条件を制御しながら、反応や劣化が進む状態のまま複数の計測を同時に実施する。従来は複数のビームラインを横断して約1カ月を要した計測が約1日で完了し、およそ30倍の高速化を見込む。取得したデータはマテリアルズ・インフォマティクス(MI)に活用する。
第2実験ハッチと延伸ハッチでは、触媒インクの混錬・塗布・乾燥を担う製造プロセス装置や、大面積セル、実機部材をビームラインに持ち込む。SAXS/USAXSとX線CTの同時計測により、0.1nmから100µmにわたる階層構造を可視化し、塗布・乾燥プロセスの仕組みや、面内の不均一・クラックの起点などを解明する。得られたデータは、プロセス・インフォマティクス(PI)による製造条件の最適化につなげる。
本ビームラインは、NEDOの「水素利用拡大に向けた共通基盤強化のための研究開発事業」(事業期間2025年度から2029年度)の委託費により、京都大学が実施する取り組みの一つとして建設する。装置類の設計・発注は2025年度から順次始めている。建設は、SPring-8-IIへの更新に伴うシャットダウン期間である2027年度後半から2028年度に実施する。
NEDOと京都大学は、本ビームラインを学術研究、国家プロジェクト、産業利用を一つの研究基盤上で結ぶ共通基盤と位置付ける。個社では整備が難しい解析環境を産業界に開き、企業の課題に直結する解析支援も並行して進める。自動車・エネルギー関連企業には産業界のアドバイザーとして参画を求め、現場のニーズを運用に反映する。
関連情報
プレスリリース(NEDO):https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101960.html
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