
静岡大学理学部の大矢恭久准教授の研究グループは2026年6月9日、同大のプラズマ駆動透過装置「SUMPPU」を用いて、核融合炉の炉壁候補材であるタングステン(W)およびタングステン―レニウム(W-Re)合金における水素同位体のプラズマ駆動透過実験を世界で初めて実施し、透過係数などの物理定数を決定したと発表した。レニウム(Re)添加と照射欠陥が水素同位体の透過・滞留挙動に及ぼす影響を明らかにした。本研究成果は2026年5月30日、Elsevierの国際学術雑誌「Fusion Engineering and Design」に掲載された。
核融合発電は、重水素(D)とトリチウム(T)の核融合反応で得られるエネルギーを利用する次世代のクリーンエネルギーだ。核融合反応は高温プラズマ状態で維持されるため、炉壁となるプラズマ対向材には、高融点で削れにくい性質を持つタングステンが有力候補とされている。核融合炉の実現には、プラズマの長時間維持と希少なトリチウムの厳密な管理が不可欠であり、そのためには実機条件に近いタングステン中での水素同位体の透過挙動を明らかにする必要がある。
ここに難しさがある。中性子照射を受けたタングステンでは、一部がレニウムへ核変換し、同時に照射欠陥が導入される。そのため水素同位体の挙動に対するレニウムおよび照射欠陥の影響評価が重要となる。ただし、中性子照射後の試料は放射化しており、取り扱える施設は世界的に限られる。研究グループは管理区域内にSUMPPUを設置することで、世界で唯一、中性子照射試料を対象としたプラズマ透過実験を実施してきた。
本研究では、WおよびW-10%Re合金を試料として使用した。照射欠陥を模擬するため、イオン照射研究施設「TIARA」で鉄イオン照射を実施し、その後SUMPPUに導入してDプラズマ透過実験を行った。照射後には昇温脱離法(TDS)も実施し、水素同位体の滞留挙動への影響を評価した。
その結果、W-10%ReではWと比較して透過フラックスが増加することが分かった。実験データから再結合定数を算出したところ、W-10%Reの再結合定数はWよりも小さく、これが表面からのD放出を抑制して試料内部のD濃度を高め、裏面への拡散によって透過フラックスを大きくすることを示した。さらにRe添加は照射欠陥の生成を抑制し、Dの捕捉サイトを減少させることで、D滞留量を大幅に低減することも明らかになった。
本研究で得られた知見は、照射環境を踏まえたW-Re中の水素同位体移行ダイナミクスの理解を深め、核融合炉材料開発に必要な基盤データの構築に貢献するものだ。研究グループは今後も、SUMPPUを用いた実験を通じて核融合炉材料の評価を進める。
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プレスリリース:https://www.shizuoka.ac.jp/news/detail.html?CN=12028
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