
プラスチックは便利だが、化石燃料を原料とし廃棄後も環境に残り続けるという課題を抱える。この課題を根本から解くアプローチとして、植物由来のナノ繊維「セルロースナノファイバー(CNF)」から新たなプラスチック様材料を作る研究が進んでいる。第一工業製薬と大阪大学・東京大学・海洋研究開発機構(JAMSTEC)の共同研究グループは、CNFから熱成形可能な新奇なプラスチック様材料の形成に成功し、2026年5月16日に米国科学誌「Science Advances」に掲載された。
今回開発した材料の核心技術は「界面イオン自己拡散(Interfacial Ionic Self-Diffusion)」だ。CNFナノ粒子の界面でイオンが自発的に拡散・移動することで、粒子同士が融合するように一体化する現象を利用する。この現象により、CNFナノ粒子の集合体が熱を加えると成形できる(熱成形性)という、CNFの従来特性から予想されなかった性質を付与することに成功した。これにより、木材という豊富で再生可能な資源からプラスチックに近い特性を持つ材料を作れる可能性が開けた。
CNFは木材や草などに含まれるセルロースを原料とするナノ繊維で、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度を持ち、カーボンニュートラルを実現する次世代素材として研究が進んできた。一方で「熱を加えると成形できる」という熱可塑性はこれまでCNFには乏しく、量産・成形加工の面でプラスチックの代替には課題があった。今回の成果はこの制約を突破する可能性を示す。
第一工業製薬は自社CNF製品「レオクリスタ」で培った分散・製膜技術を本研究に提供してきた。今後は本研究成果を活かしてCNFをはじめとする天然由来素材の材料開発・応用技術の開発を加速させる方針だ。化学品・素材メーカーが産学連携でバイオマス由来の新素材を開発し国際誌に掲載する流れは、「石油化学から植物化学へ」という素材産業の構造転換を示す一断面として読み取ることができる。
プラスチック代替素材の競争は世界規模で加速している。欧州のPPWR(包装・包装廃棄物規則)では再生材含有率義務化が始まり、バイオマス由来素材への市場要求も強まっている。CNFは日本が世界をリードする技術分野の一つで、本研究成果は日本発の素材技術が次世代素材市場のスタンダードを形成する可能性を秘める。Science Advancesへの掲載は国際的な研究コミュニティへの発信として重要で、産業化に向けた国際連携の起点にもなりうる。
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プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000175.000073630.html
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