
電池の性能を左右するのは材料だけではない。電極の製造プロセス、とりわけ電極材料をペースト状に混ぜたスラリーを金属箔に塗りつける「塗工条件」が、電池の充放電特性を大きく変えることが知られている。しかしこれまで最適条件を見つけるには電池を実際に組み立てて充放電試験を行う必要があり、多大な時間・材料・コストがかかっていた。東京理科大学の四反田功准教授らの研究グループは、この壁を突破する評価手法を確立し、2026年4月30日に国際学術誌「Journal of Power Sources」に掲載された。
今回確立した「レオ・インピーダンス測定法」は、レオメーター(流動性測定装置)と電気化学インピーダンス分光法を組み合わせた独自手法だ。1mL未満という極めて少量のスラリーを用い、実際の塗工環境を再現した条件下でスラリーの電気抵抗をリアルタイム測定する。1条件あたり約5分以内という短時間で塗工条件の良否を判断でき、電池を組み立てる前の段階で有望な塗工条件を迅速に絞り込むことが可能だ。
研究の核心は「逆相関関係」の発見にある。リン酸鉄リチウム(LFP)正極スラリーを用いた検証で、スラリーの電気抵抗(R_slurry)と乾燥後の電極の電気抵抗(R_electrode)の間に明確な逆相関があることが初めて実証された。つまり「流動中のスラリーで電気を通しにくい状態ほど、乾燥・固化後の電極では効率的な導電ネットワークが形成される」ことが数値で示されたのだ。最適塗工速度(約50 s-1)では、導電助剤のカーボンブラックが凝集でも過分散でもなく適度に分散した状態になり、乾燥後に均一な電子伝導経路が形成されることをEDS観察でも確認した。
この手法の産業的な意義は大きい。今後は負極材料・次世代電池材料のスラリー設計、導電助剤やバインダーの選定、量産条件の立ち上げ、製造現場での品質管理まで幅広く展開できるとしており、特に材料が高価で入手量が限られる新材料開発での活用が期待される。電池製造における「経験則から測定・数値根拠へ」という転換を促す技術として、直近に紹介した栗本鐵工所×日立ハイテクの混練プロセスAI化と同様に、電池製造の知識化・自動化を支える研究成果として位置づけられる。
本研究を主導した四反田准教授は「材料開発と製造プロセスの間をつなぐ評価法を作りたいという思いから取り組んだ」とコメントしている。材料そのものの改良が注目されがちな電池業界において、「どう塗るか」という製造条件の設計を科学的に解明しようとする視点は、製造プロセス全体の最適化に向けた重要な一歩だ。試作回数・材料使用量・廃棄物の削減は、電池コスト低下と環境負荷低減の両方に寄与する。
関連情報
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000249.000102047.html
《お知らせ》
PEAKS MEDIAのLinkedinページを開設しました。最新記事の概要をキャッチアップできます。
フォローはこちらから


