
高度約20kmの成層圏を長期間飛行しながら通信基地局として機能する「HAPS(成層圏通信プラットフォーム)」は、災害時の通信復旧や山間・離島への通信提供を可能にする次世代インフラとして期待される。しかし成層圏は、地上の1,000倍以上の短波長紫外線(UV-C)、高濃度オゾン、-100℃に近い極低温にさらされる極限環境であり、機体の翼を構成する膜材の素材開発がHAPSの長期運用実現の技術的な壁となってきた。
ソフトバンクとTOPPANホールディングスは2026年4月27日、この壁を突破する超軽量・高耐久性の翼用膜材を共同開発したと発表した。2029年以降にソフトバンクが商用サービスでの活用を予定しているHTA型(揚力式)HAPSへの搭載を目指す。
開発の核心はTOPPANホールディングスのコンバーティング技術だ。包装材フィルムの多層積層技術をベースに、極低温下でも衝撃に強い特殊樹脂に独自素材を緻密に積層した構造で、従来の汎用フィルムと同等以下の重量を維持しながら、傷が入っても荷重下で裂けが広がらない機能性を実現した。-50〜-95℃の極低温から直射日光による100℃前後の高温まで性質を保ち、短波長紫外線と高濃度オゾン(10〜20ppm)に対する耐候性も備える。
評価手法の開発も今回の成果の柱だ。ソフトバンクが実際のHAPS飛行から収集した成層圏の温度・紫外線照射データを提供し、TOPPANホールディングスが建装材の耐候加速試験の知見を応用して、短波長紫外線とオゾンを同時暴露できる試験環境を新たに構築した。実環境データに基づく評価手法を確立したことで、量産品の信頼性担保が可能になる。
今後は2027年度までにさらなる軽量化と強度向上を進め、2028年度に量産技術を確立する計画だ。製造業の観点では、「極限環境に耐える軽量フィルム素材の開発」という今回の技術は、包装・建装の延長線上に宇宙・成層圏インフラという新たな市場を切り開く素材メーカーの戦略転換例として注目できる。
技術の応用範囲はHAPSにとどまらない。TOPPANホールディングスは将来的に高耐久性が求められる他分野への展開も計画しており、成層圏環境対応という最高難度の要求仕様をクリアしたことは、海洋・宇宙・次世代モビリティなど極限環境材料が求められる領域全般での競争力の証左となる。「包装フィルムの会社が成層圏素材を開発する」という転換は、製造業が保有技術を隣接産業に横展開する戦略の参考事例としても読み解くことができる。
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プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001871.000033034.html
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