
東レリサーチセンター(TRC)と芝浦工業大学デザイン工学部の田邉匡生教授は2026年8月28日、半導体配線に使う銅(Cu)配線とLow-k絶縁膜の界面近傍で生じるナノメートルスケールの化学構造変化を直接観察することに成功したと発表した。AFM-IR(原子間力顕微鏡赤外分光法)を用いた。成果は学術誌「Journal of Applied Physics」に2026年8月5日付でオンライン公開された。
数十ナノメートルの狭い領域に集中する化学変化を捉える
Low-k絶縁膜とは、半導体チップの中で配線同士が電気的に干渉しにくくするために使う絶縁材料である。電気をため込む性質である誘電率(k)が低く、配線間の不要な電気的干渉を抑えてデバイスの高速動作や低消費電力化を支える。
AIやデータセンター向け半導体の高性能化に伴い、半導体回路の微細化が急速に進んでいる。配線幅や配線間隔が小さくなるほど信号遅延やリーク電流が顕在化するため、Low-k絶縁膜とCu配線の組み合わせが広く使われる。一方でエッチングや洗浄、CMP(化学機械研磨)といった製造工程では、両者の界面近傍に微小な化学構造変化が生じることが知られており、絶縁特性の低下やデバイス性能の劣化につながる可能性が指摘されてきた。
原因を理解するには官能基レベルの分析が有効だが、従来の赤外分光法は赤外光のスポット径を絞っても測定領域が数マイクロメートル以上あり、周辺領域の信号と平均化されてしまう。数十ナノメートルの局所領域を直接評価することはできなかった。電子顕微鏡による元素分析はできるものの、官能基レベルの化学構造解析には限界があった。
そこで両者が着目したのがAFM-IRである。赤外光レーザーを試料の表面側から照射し、赤外光の吸収によって生じる材料の熱膨張を原子間力顕微鏡のカンチレバーで検出することで、ナノメートルスケールの化学分析ができる。
メチル基の減少と水酸基の増加を確認、製造条件の最適化へ

半導体配線構造を模擬したCu/Low-k絶縁膜試料を対象に測定した結果、Low-k絶縁膜の中央部と比べてCu配線近傍では、絶縁膜の性能維持に重要なSi-CH3(メチル基)とSi-H結合が減少していた。同時に水酸基(OH)に由来する成分が増加していることも判明した。こうした化学構造変化は、界面から数十ナノメートル程度の極めて狭い領域に集中していた。
Si-CH3基は低誘電率特性を維持するうえで重要な役割を担う。その減少とOH成分の増加は、Low-k絶縁膜の絶縁特性が低下する可能性を示す。半導体製造工程が材料に与える影響を、化学構造変化の観点から理解できるようになった。
今回確立した界面解析技術は、先端ロジック半導体や高性能コンピューティング向けデバイス、高密度配線デバイスにおける材料劣化や界面ダメージの原因解析に使える。エッチングや洗浄、CMPなど各種製造工程による影響を比較評価できるため、製造条件の最適化や歩留まり向上、新規材料開発への応用も見込む。AFM-IRは半導体分野に限らず、ナノスケールでの化学状態評価が求められる先端材料の研究開発にも適用でき、材料設計や不具合解析での活用範囲を広げられる。
TRCは今後も先端分析技術を活用し、顧客の材料開発やプロセス開発を支援するとともに、次世代半導体の高性能化と高信頼性化に取り組む。同社は1978年6月設立で、資本金は2億5000万円である。
関連情報
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000172881.html
《お知らせ》
PEAKS MEDIAのLinkedinページを開設しました。最新記事の概要をキャッチアップできます。
フォローはこちらから


