
千葉大学の三上修作氏、伊東莉那氏、宮本克彦教授らの研究グループは2026年7月30日、テラヘルツ波を用いて、トポロジカルな偏光構造をもつ光の状態「光スキルミオン」の生成と制御に成功したと発表した。2つのテラヘルツ波を干渉させる独自の光学システムを開発し、異なる種類の光スキルミオンを切り替えられることを実証した。研究成果は2026年7月28日、学術誌「APL Photonics」に掲載された。
テラヘルツ波は、電波と光(赤外線)の中間に位置する電磁波で、周波数は約0.1〜10THzだ。物質を透過しやすい性質から、非破壊検査や次世代無線通信、医療・バイオ計測への応用が進められている。
光スキルミオンは、光の振動方向である偏光が空間内で渦状に分布し、トポロジカルな構造を形成した特殊な光の状態を指す。トポロジカルとは、連続的な変形では変わらない図形や構造の性質で、光スキルミオンでは偏光構造の「ねじれ具合」や「巻き付き方」を表す際に用いる。磁性体中に現れるスキルミオンと類似した数学的構造を持つことから、情報通信や、光と物質の新しい相互作用を扱う研究対象となっている。
開発の背景には、テラヘルツ波領域での制御の難しさがあった。近年、光の強度や位相だけでなく偏光まで制御する「構造化光」の研究が世界的に進んでいる。一方、光スキルミオンの生成には位相や偏光を同時かつ高精度に制御する必要があり、利用できる光学素子が限られるテラヘルツ波の領域では達成が課題となっていた。
研究グループは、独自に開発した周波数可変テラヘルツ光源と、二光路干渉システムを用いた。通常のガウシアンビームと、らせん状の波面を持つ「光渦」と呼ばれる光を重ね合わせることで、異なるトポロジーを持つNéel型とAnti型の光スキルミオンを生成した。ガウシアンビームは、中心が最も強く周辺へ緩やかに弱まる強度分布を持つ一般的なレーザー光を指す。
生成した光スキルミオンについては、偏光状態の詳細な解析と、トポロジーを表す「スキルミオン数」で定量評価した。その結果、テラヘルツ波において安定したスキルミオン構造が形成されていることを確認した。
さらに、2つの光の位相差を変化させることで、光スキルミオンの偏光構造が回転する様子を観測した。これにより、生成だけでなく動的な制御が可能であることを実証した。
研究グループによると、今回実証した光スキルミオンは、光の位相、偏光、軌道角運動量という複数の自由度を同時に利用できる。軌道角運動量は、光渦によって生じる角運動量の一種で、情報を運ぶ新たな自由度として次世代光通信への応用が検討されている。大容量の情報通信や高感度なセンシング技術への応用が見込まれる。また、テラヘルツ波は磁性体や分子振動と強く相互作用することが知られており、光と物質の相互作用の解明や、新しいスピントロニクス・分光技術につながる可能性がある。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業と、科学技術振興機構(JST)のFOREST Programなどの支援を受けて実施された。
関連情報
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001214.000015177.html
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