東京理科大学の田村隆治教授らの共同研究グループは2026年7月8日、通常のアーク溶解と熱処理により、安定な強磁性正20面体準結晶を世界で初めて作製したと発表した。これまで、溶融した合金を極めて高速に冷却する超急冷法でしか得られなかった強磁性準結晶を、一般的な作製法で高品質に合成できることを示した。準結晶を用いた磁性材料の設計に道を開く成果だ。研究成果は、2026年7月7日に国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載された。
準結晶は、通常の結晶のような周期的な原子配列を持たないものの、長距離秩序と呼ぶ広範な規則性を示す固体だ。正五角形のような5回対称など、通常の結晶では許されない対称性を持つ点が特徴で、結晶と非晶質(アモルファス)の中間に位置する。準結晶では長距離の磁気秩序は形成されにくいと考えられてきたが、田村教授らは2021年に、金・ガリウム・希土類元素からなる強磁性準結晶を発見し、準周期的な構造でも自発磁化と長距離磁気秩序が実現しうることを示していた。これにより準結晶は、結晶と非晶質材料に続く第三の磁性の舞台として研究されるようになった。
ただし、これまでに見つかった強磁性準結晶は、いずれも超急冷でしか得られない準安定な相だった。熱処理を施すと安定な周期結晶へ変化してしまうため、構造の高品質化や精密な物性評価が難しく、準結晶特有の磁気的な性質を定量的に調べられなかった。研究グループは、超急冷を必要としない強磁性準結晶の実現がこの課題の解決につながると考え、機械学習を活用して新たな準結晶の候補を探索した。
その結果、金・銅・アルミニウム・インジウムと、希土類元素R(ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウムのいずれか)からなる5元系の3種類の正20面体準結晶の合成に成功した。いずれも通常のアーク溶解と熱処理で作製でき、長時間の熱処理後も準周期構造を保つ優れた熱安定性を示した。723K(ケルビン)で長時間熱処理すると、X線の回折ピークがより鋭くなり、原子配列の乱れが減って規則性が広範囲に形成されることも確認した。
3種類の準結晶は、それぞれ異なるキュリー温度(強磁性が失われる温度)で明確な強磁性転移を示した。一方、磁気的な振る舞いは希土類元素の種類によって系統的に異なった。ガドリニウム系は低磁場で磁化が飽和する等方的な挙動を示し、その臨界的な振る舞いは平均場理論の予測から大きく外れた。これに対し、テルビウム系とジスプロシウム系は、スピンの向きに強い方向依存性を持つため、高磁場をかけても磁化が飽和しない挙動を示し、平均場理論に近い振る舞いを示した。
この違いは、スピンの対称性の差に起因する。研究グループは、準結晶における磁気的な臨界の振る舞いが、準周期構造とスピン対称性の組み合わせによって決まることを定量的に明らかにした。希土類元素の選択によって磁気的な性質を制御できる、新たな材料設計の指針を示すものだ。田村教授は、強磁性準結晶を超急冷に依存せず作製できるようになり、これまで特殊な準安定物質と考えられていた強磁性準結晶が、新しい磁性材料群として本格的に研究できる段階に入ったとコメントした。研究グループは、準周期構造における磁気相転移や量子現象の研究が前進すると見込む。
関連情報
プレスリリース(PR TIMES):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000262.000102047.html
東京理科大学(研究成果):https://www.tus.ac.jp/today/archive/20260707_6959.html
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