
株式会社ダイセルは2026年5月25日、自動車用エアバッグのインフレータ技術を応用した高齢者向け「ウェアラブルエアバッグ」の新規事業を本格始動すると発表した。同月から広島大学病院と共同で臨床研究を開始し、2027年夏ごろの販売開始を目指す。
ダイセルは約40年にわたり、自動車エアバッグのコア部品であるインフレータ(エアバッグを数ミリ秒で膨張させる火工品デバイス)を世界の主要自動車メーカーに供給してきた。衝突を感知して瞬時にエアバッグを作動させるこの技術を「日常生活の安全」へと横展開したのが今回の製品だ。ベスト型のウェアラブルデバイスとして装着し、転倒を検知すると即座にエアバッグが展開して腰・大腿骨部への衝撃を緩和する仕組みで、骨折による寝たきりや要介護状態への移行リスクを低減することを目指す。
開発には産学連携とオープンイノベーションを積極活用した。産業技術総合研究所との共同研究では、人体の転倒メカニズムの科学的知見と身体動作計測・評価技術を活かして転倒検知アルゴリズムを確立。Sony Acceleration Platformの事業開発支援で製品コンセプトの具現化と事業化プロセスを確立した。複数の医療・介護施設での現場検証を経て、日常動作を妨げない装着性と確かな衝撃保護性能を両立する設計に辿り着いた。
今後は広島大学病院主導の臨床研究で安全性・装着状況・受容性を検証し、先行導入施設での導入モデル構築を進めながら2026年度中に事業化の目途を立てる計画だ。
製造業企業による医療・介護分野への新規事業展開として、本事例が示す構造は参照価値が高い。自動車市場の電動化・ソフト化で部品の仕様が変わる中、長年培った物理的な衝撃制御技術を「別の衝撃から人を守る」用途に転用した。コア技術の再定義と産学連携による事業化フレームワークは、既存製品の市場変化に直面する製造業が新規事業を起こす際の実践的なモデルの一つだ。
ダイセルの長期ビジョンには「安全・安心」領域が注力市場として掲げられており、今回の取り組みはその具体的な実行として位置づけられる。自動車エアバッグ市場は国際競争が激化する一方、高齢化社会においてシニア向け転倒保護デバイスの潜在市場は年々拡大している。インフレータの精密な瞬時作動制御という技術的優位性を活かせる領域を見つけ、産学連携と現場との共創で事業化プロセスを確立した本事例は、製造業の新規事業創出の方法論として、技術起点と社会課題起点の両面からのアプローチを示している。
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プレスリリース:https://www.daicel.com/news/2026/20260525_1277/
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