
QunaSysと産業技術総合研究所は2026年10月26日、非線形な常微分方程式を対象とした線形化ライブラリ「lin-ode」を共同で開発したと発表した。量子コンピュータで製品設計や材料開発の解析を扱う量子CAEの研究開発に向けたもので、オープンソースソフトウェアとして公開した。
3種類の線形化方式と3種類の基底関数系に対応
非線形な常微分方程式を量子アルゴリズムで扱うには、方程式を線形の形に変換する必要がある。ここでいう線形化とは、非線形な常微分方程式を、状態の関数や分布などを用いた線形の発展方程式として表すことである。有限個の基底関数で扱う場合は近似を伴う。
lin-odeが対応する線形化方式は、Koopman、Koopman-von Neumann(KvN)、Liouvilleの3種類である。基底関数系はCarleman、Pivot-switching Carleman、ガウス関数重み付きエルミート多項式の3種類を扱える。利用者は常微分方程式の右辺を多項式として入力し、線形化方式と基底関数系を指定する。これで線形化作用素の行列表現が得られる。

特徴の1つは、数式の構造を保持した内部表現により、指定した行列要素だけを必要に応じて計算する点にある。変換後の行列全体を計算して保存する方法では前処理が負担になるが、lin-odeでは行列全体をあらかじめ生成する必要がない。方程式は添え字を用いた数式として記述でき、周期境界条件にも対応する。初期条件や目的関数の基底表現を扱う機能も備える。
ソフトウェアはPythonで拡張できる設計で、APIの説明とチュートリアルを整備した。使用例として、反応と拡散を表すKPP-Fisher方程式と、非線形な移流と拡散を表すBurgers方程式を収録している。いずれも空間方向に離散化して得られる常微分方程式が計算の対象になる。
量子CAEの基盤技術としてムーンショット事業で開発
製品設計や材料開発では、流れや物質の拡散などを計算機上で再現するCAEが使われている。これらを記述する非線形な方程式を量子コンピュータで扱うには、線形な方程式に変換する技術が要る。線形化には複数の方式があり、基底関数系との組み合わせによって変換処理も異なるため、方式の比較や実装の検証を効率よく進める共通の枠組みが求められていた。
開発は科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業目標6のプロジェクト「誤り耐性量子コンピュータのアプリケーション研究開発」の一環にあたる。プロジェクトマネージャーは大阪大学量子情報・量子生命研究センターの御手洗光祐准教授で、課題番号はJPMJMS256Jである。産総研側の代表者はマテリアルDX研究センター主任研究員の遠藤克浩氏、連名者は量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)主任研究員の水野雄太氏が務め、QunaSysがソフトウェア開発を担った。
QunaSysは2018年2月に設立された量子コンピュータソフトウェア企業で、化学や材料科学をはじめとする産業向けの量子アルゴリズムを開発している。今後は産総研と連携し、線形化方式や基底関数系の比較、実装の検証に使える環境を整え、量子CAEのアルゴリズムの設計と検証を支援する。
関連情報
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000088.000041464.html
lin-odeのソースコード(GitHub):https://github.com/Katsuhiro-Endo/lin-ode
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