
東京理科大学の青木大亮講師(研究当時)、有光晃二教授らの研究グループは2026年9月4日、硬さと強靭さを併せ持つガラス状高分子を開発したと発表した。かさ高い有機イオンを対イオンとして用いることで、イオン化していながらナノスケールの相分離を抑え、中和前と比べてタフネスを約4倍、弾性率と降伏応力を約2倍に高めた。研究成果は2026年9月3日、国際学術誌「Macromolecules」にオンライン掲載された。
ガラス状高分子の硬さと強靭さを両立
ガラス状高分子とは、室温でガラスのように硬く固まった状態にある高分子材料である。プラスチックがその代表で、弾性率が高く形状を保つ力に優れる一方、変形の余地が小さく脆いという性質を持つ。硬さと強靭さは一般にトレードオフの関係にあり、両立は長年の課題だった。
対策として、高分子鎖にイオン性の構造を導入し、静電相互作用を可逆的な物理架橋として働かせる手法が研究されてきた。ただしアイオノマーに代表される従来の系では、イオン対同士が集まってナノメートルサイズのイオンクラスターを作る。クラスターは弾性率を上げる一方、分子鎖の動きを強く束縛するため、ガラス状高分子はしばしば脆くなっていた。イオン液体や超分子相互作用を使い、相分離を伴わずに強靭化した例もあるが、特定の組み合わせの系に限られていた。
相分離を抑える「柔軟架橋」という設計指針
研究グループは、ポリノルボルネン骨格にオリゴエチレングリコール側鎖とカルボン酸を密に導入したイオン性の櫛型ポリマーを合成した。そのうえで、かさ高い有機塩基である4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)とナトリウムイオンをそれぞれ対イオンとして用い、物性とナノ構造を比較した。
引張試験では、DMAPで中和した試料が中和率10から100mol%のほぼ全域でタフネスと弾性率を同時に高めた。最も良い条件で、降伏応力と破断強度が約40MPa、破断伸びが約500%、タフネスが約137MJ/m3、ヤング率が約0.9GPaに達した。得られたタフネスは、汎用プラスチックの中でも強靭な部類に入る高密度ポリエチレン(約130MJ/m3)に匹敵しながら、ゴムとプラスチックの中間にあたる高い弾性率を保つ。一方、ナトリウムイオンで中和した試料は弾性率こそ1.0GPaを超えたものの、中和率50mol%以上でタフネスが4MJ/m3未満まで落ち、脆性破壊した。
構造解析からは違いの理由が見えた。赤外分光ではDMAP系でイオン対が安定に形成されていることを確認したにもかかわらず、放射光小角X線散乱ではDMAP系だけが構造ピークを示さず、相分離を起こさない均一なナノ構造を保っていた。ナトリウム系などでは1.7nm程度の周期構造に対応する散乱ピークが現れた。
動的粘弾性測定では、DMAPによる中和でガラス転移温度が96℃から81℃へ下がり、DMAPが可塑剤としても働くことが示された。ナトリウム系では中和率50mol%でガラス転移温度が約200℃まで上がり、イオン凝集による束縛が明確に現れた。可塑化されていながら、DMAP系ではひずみ硬化弾性率が中和前の2MPaから5MPaへ増えており、荷重の分散を担う物理架橋の網目が働いていた。
研究グループは、相分離せず均一に分散したイオン相互作用が架橋点として働きながら分子鎖の動きも保つ状態を「柔軟架橋」と呼び、これが強靭化をもたらしたとみている。対イオンの種類と側鎖の設計という比較的単純な操作で力学特性を制御できるため、既存のカルボン酸含有高分子やポリ電解質への展開も見込む。輸送機器や電子機器の構造材料など、硬さと壊れにくさの両方が求められる用途への適用を想定している。
関連情報
プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000275.000102047.html
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