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業界のミッシングピースを埋める商用EV
商用EVは価格が高い――そんな常識を覆すべく、ガソリン車並みの低価格で市場に商用EVを投入しているのが、京都発のスタートアップ・フォロフライだ。同社は、商用EVの開発・販売を軸に、フリートマネジメントシステムやバッテリー交換式システムなどのITサービスも手がけている。最大の特徴は、自社工場を持たない「ファブレス」の生産体制にある。生産を海外メーカーへ委託し、開発・設計に経営資源を集中させることで、高品質かつ低価格な商用EVを実現している。
新モデルの1トン積載クラスの商用EVバン「F11シリーズ」は、2026年1月の販売開始以来、約3ヶ月で累計納車台数100台に到達。国内シェアトップを獲得した。価格はガソリン車と同等でありながら、燃料費は軽油車と比較して最大で約4分の1に抑えられるなど、経済性の高さも大きな特徴となっている。
フォロフライの強みは大きく3つある。一つ目は、高い開発技術力だ。その原点は、前身であるGLM時代に積み重ねた挑戦と失敗、そして、技術を事業に変える発想の転換にある。
「GLMを2010年に創業し、EVスポーツカーの開発から始めました。しかし、それだけでは事業としてスケールしませんでした。そこで、開発ノウハウを他社にも提供する受託開発へとビジネスモデルを転換したのです。2017年には香港市場でSPAC上場を果たし、株主へのハイ・バリュエーションでエグジットも実現しました。当時は第一世代と呼ばれる多くのEVスタートアップが誕生しましたが、残念ながら継続できた会社は多くありません。GLMが勝ち残ることができたのは、発想の転換があったからです」と小間氏は振り返る。GLMでの経営ノウハウと開発力の蓄積は、現在のフォロフライの事業モデルにも色濃く受け継がれている。
第二の強みは、全国に広がるアフターサービス網だ。車両を販売して終わるのではなく、株主である丸紅や三井住友海上などと連携し、全国250カ所以上の整備工場によるネットワークを構築。創業から5年の企業でありながら、購入後も安心して利用できる体制を整えている。
第三の強みは、初期段階での販売力だ。「Amazonの物流代行で知られる大手物流企業・SBSホールディングスが掲げる1万台のEV化方針の中で、当社の車両を順次導入いただいております」。初期段階での大口顧客の獲得は販売台数の確保だけでなく、「大企業が採用しているEV」との信頼にもつながった。その実績が新たな顧客を呼び込む好循環を生み出している。
こうしたフォロフライの事業拡大を後押ししているのが、社会環境の変化である。カーボンニュートラル2050年の実現に向け、政府は運輸部門の脱炭素化を進めるため、「商用車等の電動化促進事業」を推進。補助金によって車両導入費の一部を支援することで、商用EVの普及を後押ししている。また、コロナ禍を契機にeコマース市場が急拡大したことで、配送トラックの需要も急増した。
一方、物流の現場では「環境対応を進めたいが、導入できる商用EVがない」という課題が長年解決されずに残っていた。最初の取引先となったSBSホールディングスも同様だ。
「鎌田正彦社長とお話しした際に、『海外の荷主からは環境対応を求められるが、そもそも選択肢となる車がない。価格も高すぎて到底買えない』という問題意識を持たれていました」
業界で長年解決されてこなかった大きなミッシングピースを補ったのが、低価格のラストワンマイル用の商用EVだった。GLM時代から積み重ねてきた開発力と、時代のニーズを的確に捉える事業戦略がかみ合ったことで、ラストワンマイル向け商用EV市場で国内シェアトップを占めるに至った。
開発費をシェアする「ファブレス2.0」

一般的に、新型車を開発するには「数百億円もの巨額な投資が必要」(小間氏)とされる。従来の自動車メーカーは、グループ内で開発から製造までを一貫して担う垂直統合型が主流だ。一方、フォロフライは、自社工場を持たず、生産を外部に委ねるファブレス方式を採用。既存のベース車両を活用し、日本の法規や利用環境に合わせた安全装置などを追加開発する水平分業モデルによって、コストを大幅に抑えている。しかし、小間氏はこのファブレスという考え方自体を、さらに進化させた。それが、同社独自戦略の「ファブレス2.0」だ。
「『ファブレス1.0』は、CPUやメモリなどの共通部品をEMSで共同購入し、製造コストを下げる仕組みです。しかし、それだけでは各メーカーが負担する開発費までは下げられません。そこで生まれたのが、開発費のシェアリングエコノミーである『ファブレス2.0』です。海外の大手自動車グループなどと販売エリアやターゲットを住み分けることで、一つの車両を共同で開発し、初期投資を分担します。委託先の工場も、自社ブランドや他の地域向けに同じ車両を販売するため、結果として開発費がシェアできます。だからこそ、ガソリン車並みの価格を実現できるのです」
現在は、欧州、中国、日本の技術を組み合わせながら車両を開発する体制が整っているという。この戦略が機能する背景には、スタートアップならではの身軽さもある。
「大手メーカーは巨大なサプライチェーンや系列企業を抱えているため、大きく方向転換するには時間がかかります。一方で、我々はファブレス方式なので、新しい技術が出てきたら、その都度チームやサプライヤーを入れ替えながら、市場にないものを素早く形にできます」
「ファブレス2.0」は、製造コストを下げるためだけではなく、変化を味方につけるための経営戦略でもある。従来の自動車産業とは異なる、新しいものづくりの形がここにあるのだ。
「わらしべ長者」のように大企業を巻き込む
このようなフォロフライの挑戦を支えているのは、第一世代EVスタートアップとして15年以上積み重ねてきた実績と信頼だ。
「フォロフライを立ち上げた際、前身であるGLMの実績をしっかり評価していただきました。2010年からEV業界で愚直にやり続けてきた歴史そのものが、私たちの強みです」
さらに、小間氏が一貫して大切にしてきたのが、「技術だけでは会社は続かない」という視点だった。「スタートアップは技術開発に特化しすぎるあまり、採算性を後回しにしがちです。私はGLM時代からシビアに採算性を見ることを意識してきました」
自社だけで技術を抱え込むのではなく、開発力そのものを他社へ提供する受託開発へと事業を広げ、技術と収益の両輪を回す経営を築いてきた。その延長線上にあるのが、「わらしべ長者」的な経営だ。自社の技術やノウハウをOEMへ提供し、代わりに大企業が持つ生産能力や販路、サービス網を活用するのだ。
「スタートアップが一社だけでできることには限界があります。だからこそ、広くパートナーシップを結ぶことが重要なのです。販路では丸紅、整備網では三井住友海上のネットワークを活用しています。GLM時代にはニデックやニチコン、安川電機、GSユアサなどといったEVの基幹技術をもつ企業とも共同開発を進めてきました。私たちはノウハウを囲い込みません。効率的なEVシステムの作り方や、生産工程で不具合を減らす方法まで提供します。そうすることで我々の実力を理解していただくことができ、信頼関係が生まれるのです」
共同開発した車両を物流会社が導入すれば、販路、整備、エネルギーなどの新たなプレーヤーが次々と加わり、価値が循環していく。「わらしべ長者」のように仲間を増やしていくことがフォロフライの成長戦略でもある。また、描いた戦略を理想で終わらせず、実際に形にできるのが同社の強みとなっている。その根底にあるのが、「できない理由を教えてくれ」という社内の共通ワードだ。

「何ができないのかを正確に把握し、どのように解決するかを考えるためです。スタートアップ企業なのでスピード感を重視する一方で、とても怖がりな側面もあります。車という人の命を預かる製品を扱う企業だからこそ、理想だけを追い求めることはせず、石橋を叩きながら開発を進めています」
「怖がり」であることと「次々と挑戦すること」を両立する姿勢こそが、フォロフライが大企業から信頼を集め、仲間を増やしてきた理由だ。社内には、GLM時代から苦楽をともにしてきたCTOや、高校卒業直後の19歳から参画し、営業を統括する若きCOO、さらに投資元のベンチャーキャピタルから転職したCFOなど、多彩なプロフェッショナルが集まっている。60代の技術陣と20代の経営陣が対等に議論を重ねるような、風通しのよい環境だ。
「採用コンセプトは『一流のヘンタイを集める』です。自分にできないことができる人を集め、背中を預け合う。それぞれが専門性を発揮し、お互いを信頼して任せられる組織を目指しています」
信頼できる仲間たちと、できない理由を一つずつ解決し、確実な一歩で成長していく。これが企業としての魅力につながっている。
「街の景色を変える」

フォロフライが目指しているのは、ラストワンマイルを担う商用EVの普及だ。さらに、港湾で稼働する特殊車両や、ビル地下への出入りが多い現金輸送車など、排ガスや騒音を抑えたい現場にも活躍の場を広げ、ニッチな市場で商用EVの普及を進めていく考えだ。
その次のステージは、幹線輸送向けの大型EVトラックである。長距離輸送はEVの課題とされるが、中継地点で短時間のうちにバッテリーを交換できる仕組みが実現すれば、その弱点も克服できる。ドライバーの休憩時間を活用することで運行効率を維持できるだけでなく、労働環境の改善にもつなげることが可能だ。
「これまで、部品メーカーや架装会社、物流事業者や荷主企業と現場の課題を共有しながら車両開発を進めてきました。今後は、エネルギー・インフラ事業者と連携し、充電サービスやバッテリーの利活用、アフターサービスまで含めたEVを支える環境づくりを進めています。将来的には、『5年間バッテリー使い放題』のようなサービスの提供も構想しています」
その先に見据えるのは、複数の業種と連携したエコシステムの構築である。リース会社や金融機関とも連携し、車両や関連サービスをサブスクで提供することで、物流事業者が初期費用を抑えながらEVを導入できる仕組みを整えていく考えだ。
「パートナーシップで大切なことは、きれいごとを言わないことだと思っています。私たちは、できないことや課題も包み隠さず開示します。一緒に泥臭く汗をかき、失敗を重ねながら、次のステップへ進むプロセスを楽しみながら共創できる関係性を築いていく。その先に、大きなエコシステムが生まれるのだと思っています」
これまで多様な企業とのパートナーシップを築けたのは、現場の声に耳を傾け、本当に必要とされるものを追い続けてきたからだ。 コロナ禍による配送需要の拡大や脱炭素化の流れなど、幾度となく時代の追い風を捉えてきたのも、ただの偶然ではない。社会課題と向き合い、常に解決策を考え続けてきた姿勢があったからだ。
「いつチャンスの女神と出逢えるのかを知ることはできません。ただ、『何が足りないのか』を四六時中考え続けていると、必要な技術を持つ企業や新しい情報に出会ったとき、誰よりも早く動くことができます」
GLM時代から積み重ねてきた開発力、「ファブレス2.0」による新しいものづくりの仕組み、そして技術を囲い込まず、多様な企業と価値を共有する「わらしべ長者」の発想。そのすべては、「街の景色を変える」という一つのビジョンへとつながっている。
「街の景色が変わるということは、それだけ経済合理性があり、社会から本当に必要とされている証拠です。自分たちがつくった車が街を走り、従業員が家族に誇れる仕事になることも、大切な目標です。まずはラストワンマイルの景色を、すべてEVに変えていきたいと思っています」

J-Startup KANSAIについて
経済産業省の「J-Startup」プログラムの地域展開として、令和2年9月に「J-Startup KANSAI」が開始されました。関西から世界へはばたく有望なスタートアップを選定し、内閣府のスタートアップ・エコシステム拠点形成事業と連動しながら、公的機関と民間企業が一体となって集中的な支援を行う取り組みです。現在までに75社が選定されており、近畿経済産業局を中心に、地域ぐるみで起業家を応援・支援する仕組みを構築。地域が起業家を生み育てる好循環(=「エコシステム」)の強化を目指しています。
PEAKS MEDIAでは、この「J-Startup KANSAI」の趣旨に共感し、関西発のイノベーションを可視化し、製造業をはじめとする産業界との新たな共創を生み出すことを目的に「J-Startup KANSAI特集」を開設しました。選定スタートアップの皆様へのインタビューを通じて、テクノロジーの可能性や事業への想いを発信し、社会実装や産業連携のヒントを広く共有することで、関西発のスタートアップ・エコシステムの発展をメディアの立場から後押ししています。

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J-Startup KANSAI特集では、選定企業の皆様への有識者か技術展開の可能性や社会実装や連携のヒントを募集しています。


