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ディープテックを、関西発イノベーションへ。― 人材育成から社会実装まで。U-FINOが描くエコシステム 

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関西には、ノーベル賞級の研究開発力を持つ大学群と、製造大手の研究開発拠点が集積する。優秀な理系人材も豊富だ。優れた技術や人材を抱えながら、それを事業へつなげる仕組みは、まだ十分とは言えない——。 この構造課題に、大阪駅前の再開発エリア「グラングリーン大阪」を拠点に挑むのが、うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)である。プロジェクト推進・共創企画室マネージャーの渡邉秀斗氏に、人材育成から産業づくりまでの設計思想を聞いた。

プロフィール

一般社団法人うめきた未来イノベーション機構 (U-FINO)プロジェクト推進・共創企画室 渡邉秀斗氏


和歌山県橋本市出身。慶應義塾大学・大学院卒業後、阪急阪神ホールディングス株式会社入社。グループの中核会社である阪急阪神不動産株式会社に配属後、うめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」の開発推進を担当。エリアマネジメント業務、オフィス、ホテル等を担当後に、イノベーション機能である「中核機能」をメイン業務として推進。2022年9月に官民一体のイノベーション推進組織・一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)設立後は、U-FINOにおいてイベント・プログラムの企画、運営に従事。2024年9月の先行まちびらき以降は、グラングリーン大阪のイノベーション施設「JAM BASE」に常駐し、U-FINOの活動を推進している。 

研究から、まちづくりへ

渡邉氏のキャリアは、イノベーション支援とは一見遠いところから始まっている。大学院では工学を専攻し、脳波やMRIなどの生体データを活用して、認知症の兆候や発症要因を分析する研究に取り組んでいた。 地域で高齢者のデータを収集しながら、住宅環境をはじめ、建物環境が認知症に与えるさまざまな影響を調査していた。 

転機となったのは、地域でのフィールド調査である。前年まで元気だった高齢者が、配偶者を亡くしたことをきっかけに地域の集まりに顔をださなくなり、人との接点を失ったことで急速に症状を進ませる姿を目の当たりにした。

「建物や設備といったハードももちろん重要ですが、それ以上に人とのつながりやコミュニティが、人の健康や暮らしに大きな影響を与えるのではないかと考えるようになりました」

技術だけでは社会課題は解決できない。その技術を社会へ届け、人や地域と結びつける仕組みこそ重要ではないか――。こうした問題意識から、「技術力があると言われる日本で、大学の技術の社会実装が本当に機能しているのか」という問いを抱くようになり、この思いが渡邉氏の出発点となっている。

そこから、鉄道を軸に地域と一体のまちづくりに取り組み、ハードとソフトの両面から街に関わることができる阪急阪神ホールディングスへ進んだ。建物というハードではなく、人と人をつなぐソフトの側にこそ課題があり、面白さがある。学生時代のこの実感が、いまU-FINOで担う役割と重なっている。

大阪駅前の貨物駅跡地再開発で誕生した「グラングリーン大阪」(画像提供:グラングリーン大阪開発事業者)

U-FINOは、大阪駅前の貨物駅跡地を再開発する「グラングリーン大阪」のまちづくりを契機に生まれた組織である。大阪駅前に生まれた大規模な空間を関西のイノベーションの結節点にするという構想のもと、行政・経済界が参画し開発事業者により設立された。ハードとしての機能を担う「JAM BASE」に対し、U-FINOは人・企業・大学・スタートアップをつなぎ、社会課題の解決や新たな産業が生まれる”ソフト”の仕組みづくりを担う。

U-FINOが立ち上がるのは2022年だが、渡邉氏は開発事業者の立場で前年の2021年から準備メンバーとして参画し、現場で価値を生み出す具体的な施策を担うことになる。 

「まずは小さなイベントを重ねながら、企業やスタートアップの声を聞いていきました」

試行錯誤を重ねるなかで見えてきたのは、「スタートアップ支援そのもの」はすでに多くの支援機関が担っているという現実だった。一方で、スタートアップ側は事業会社との接点を、大企業側は外部技術や研究シーズとの接点を求めていた。そこでU-FINOは、自らが伴走支援を行うのではなく、大学・研究機関・スタートアップ・事業会社をつなぐ”コーディネート”と”ネットワーキング”二つの役割を担う方向へ舵を切る。

関西全体で取り組むという発想には、地理的な裏づけもある。京都から神戸までの距離は、シリコンバレーと呼ばれるサンフランシスコからサンノゼまでの距離とほぼ重なる。阪急電車で京都―大阪間は45分、神戸―大阪間は20分強。実質的にドアツードアでつながる都市圏が、それぞれ異なる強みを持って近接している。研究開発力のある大学が集まり、特色ある大都市が至近に並ぶこのエリアでこそ、技術と人をつなぐ仕組みが生きると渡邉氏は見ている。


U-FINOが主催するイノベーション創出のための定例イベント 「Ecosystem Link(エコシステムリンク)」。Slackを活用したコミュニティ「 It’s Sta. 」やマッチングサポートなどさまざまなコーディネート機能を有する。ひとつひとつ手探りで渡邉氏が企画、施策を繰り返してきたという。

埋もれていた「0→1の力」が動き出す

U-FINOのビジョンの根幹をささえるのが、人材育成プログラム「T-CEP」だ。

研究機関の技術を題材に、研究者と企業のビジネスパーソンが約半年かけて共同で事業開発に取り組む。協議会時代から続く最も歴史あるプログラムで、これまでに延べ140名を超える卒業生を送り出してきた。

「大学ではGAPファンドなど、研究成果の事業化を支援する制度が充実してきました。一方で、社会実装や出口戦略まで伴走する仕組みはまだ十分ではありません。技術の用途を考え、事業として成立させる人材が足りないんです」

だからこそT-CEPでは、事業計画をつくることではなく、『技術を事業へ変える力』を実践の中で身につけることを重視している。

参加者の中心は、製造大手の研究開発部門や新規事業開発部門の担当者である。本部内を横断的に見ながら外部のデータや技術と自社をどう掛け合わせられるかを探る役割やR&D部門付で「研究成果を事業化せよ」という会社の意向を受けた担当者が目立つ。だが、技術シーズをゼロから事業に変える経験を持つ人は社内に多くない。そうした担当者が、実践を通じて事業化のプロセスを学ぶ場になっている。 

一般的な新規事業研修では、顧客課題や社会課題を起点にテーマを設定するケースが少なくない。しかし、社会課題に匹敵するような切実な「不」を身近に感じる機会は限られており、発想も身近な課題にとどまりがちだ。一方、T-CEPは研究シーズから用途を構想する「技術起点」のプログラムである。

最初から技術がお題として与えられ、その技術をどう用途開発し、世の中の課題を解くかを考える。これは技術発スタートアップの基本動作そのものである。「自分に不がなくても、事業化の経験を一通り積める。それが参加者に評価されている」と渡邉氏は説明する。

目指すのは、一社のスタートアップを成功させることではない。技術を事業化した経験を持つ人材を地域に増やし、その知見が次の挑戦へ受け継がれていく循環をつくることだ。

なぜ関西なのか。渡邉氏は、その理由を「人材」に見いだしている。本社機能を東京へ移した企業でも、研究開発拠点や主要事業所は関西に残っているケースが少なくない。そこには、関西の大学をはじめ全国から集まった優秀な理系人材が数多く集積している。一方で、そうした人材が新規事業や事業化に挑戦する機会は決して多くない。だからこそ、埋もれた可能性を引き出し、「0→1」を担う人材を地域に増やしていくことに、関西で取り組む大きな意義があるという。

「T-CEP」プログラムの様子

実践の中で見つかる0→1人材

プログラムを重ねるなかで、渡邉氏には見えてきたことがある。

T-CEPでは、半年間で技術を理解し、市場調査や企業ヒアリングを重ね、VCに提案できるレベルの事業計画まで仕上げる。その過程は決して容易ではなく、大企業で新規事業に携わってきた人でも途中で脱落するケースも少なくない。

そうした実践をやり切った人の中から、技術を事業へと変える適性を持つ人材が見えてくる。0→1への適性は能力の差ではなく、役割の違いだ。T-CEPは、その人が本来持っていた「技術を事業へ変える力」を実践の中で見つけ出す場なのである。

卒業して終わりではない。T-CEPには、修了したOB・OGがメンターやコーチとして翌年のチームを支える仕組みがある。一度関わった人材が、運営側とも次の参加者ともつながり続けていく。

技術を提供する大学側にも、このプログラムならではの利点がある。企業との共同研究では、どうしても企業側の都合が優先されがちだ。一方T-CEPでは、教員が「一番やりたい課題」を題材として出せる。大企業の人材と半年間、本気で考え抜く機会そのものが、研究者にとって貴重なのだという。

実際の波及も生まれている。参加大学のある研究シーズでは、T-CEPへの参加をきっかけに研究者自らの技術によってスタートアップを創業した。人材を育てる仕組みそのものが、外へと伝播し始めている。

育ってからがはじまり

T-CEPで0→1人材が見つかっても、その次のステップが「社内に戻る」か「会社を辞めてスタートアップに飛び込む」かの二択では、間口が狭すぎる。この壁を越えるために新設したのが「T-CEP II」である。発見された人材を経営人材候補として大学の技術シーズとマッチングし、起業まで伴走する。

設計の核心は、最初からM&Aを出口に置くことだ。

IPOを前提とした資金調達ではバリュエーションが上がりすぎ、M&Aしにくい構造が生まれやすい。一方で、技術の社会実装には20年かかることもあり、約10年で投資回収を求めるベンチャーキャピタルとは時間軸が噛み合わない。

大学の技術シーズを事業化する支援制度は全国にある。しかし、その後の伴走支援が手薄になりがちだ。「最初の調達をしながら出口戦略まで描いておかないと、資本政策や出口が曖昧なまま走り出してしまう」。設立後まで見据えて支援することが、T-CEP IIの狙いである。海外の事例も、その問題意識を裏づける。渡邉氏が2026年2月に調査した英国の大学では、研究者の評価に「社会実装」が組み込まれ、大学にも知財ライセンスやスタートアップを通じたインセンティブがある。一方、日本にはその構造が十分に根付いていない。だからこそ、外部機関が橋渡しを担う意義があると渡邉氏は考えている。

ここで、大企業出身の人材が持つ強みが生きてくる。用途開発や事業計画の策定に加え、その先の量産化や品質保証、供給体制まで見据えて事業を設計できるのは、大企業で培われた知見ならではだ。大学、スタートアップ、事業会社がそれぞれの強みを持ち寄り、役割を分担しながら事業を立ち上げていく。それが、U-FINOの描く現実的な事業化モデルである。

こうしたモデルを、実際の事業づくりの中で実践する場が中核プログラム「DAP」だ。ディープテック・AIをテーマに、事業会社とスタートアップが事業化を前提に議論を重ねる。ここで乗り越えようとしているのが、オープンイノベーションの現場でよく起きる「出会ってNDAを締結して終わり」という停滞である。

「事例はあるか」「リスクはないか」と問う目線でスタートアップに接している限り、事業を「買う」ことしかできない。それでは下請けの取引先を探しているのと変わらない。

渡邉氏は、プロ野球のスカウトに喩える。甲子園に出てから動いても、その選手はもう誰もが知っている。ジュニアの時代から一緒に鍛え上げるからこそ、独自の関係が築ける。スタートアップとの連携も同じで、事業が固まる前から、自社のアセットを掛け合わせてどんなソリューションが作れるかを一緒に考える。その視点を最初から持っておく必要があるという。

渡邉氏が求めるのは、「スタートアップと本気で事業をつくりたい」という企業の覚悟だ。そのためDAPでは、情報収集や投資先探しを目的とした参加は想定していない。参加企業は事前に「自社で一緒に事業をつくるなら」という視点でビジネスモデルキャンバスを作成し、具体的な仮説を持って対話に臨む。予算や人材、社内のコミットメントがあって初めて、議論は情報交換ではなく共創へと進む。「スタートアップを探す場ではなく、スタートアップと事業をつくる場なんです」。その言葉に、DAPの思想が凝縮されている。

DAPには関西を中心とした事業会社の担当者が集い、「自社で一緒に事業をつくる」という視点で議論を重ねる。スタートアップによるプレゼンテーション後は、各グループをスタートアップが回りながら対話し、事業化や社会実装に向けた可能性を深掘りしていく。

「エコシステムが自走する状態」が理想

U-FINOがユニークなのは、そのポジションだ。グラングリーン大阪のまちづくりにおいて行政・経済界と連携する形で、開発事業者により設立されたため、公的資金により運営される支援機関とは性格が異なる。そのため、行政の公平性や補助金の制約に縛られることなく、新規事業支援や企業間マッチングに取り組める。

特徴は、それだけではない。マッチング件数やイベント開催回数といったKPIの達成を目的にせず、エコシステム全体を見渡しながら、その時々で本当に必要な課題へ人とリソースを振り向けられることだ。誰も手を付けていない領域に最初に飛び込み、市場や仕組みが育てば、その役割をほかのプレーヤーへ委ねていく。

そのためU-FINOは、イベントやコミュニティによるハブ機能にとどまらず、T-CEPによる人材育成、T-CEP IIによる起業支援、DAPによる事業会社との共創など、必要な仕組みを自ら設計しながら、参画機関やネットワーク、ノウハウをつなぎ、関西のエコシステムを育て続けてきた。

だからこそ、渡邉氏が描く5年後の理想像は逆説的だ。

「今やっている事業が日本のエコシステムの構造的な問題を解決して、U-FINOが何もしなくてもいい状態になっていたら理想的です」

企業と大学、スタートアップが自然につながり、事業が生まれ、M&Aを含めた社会実装が当たり前になる。その状態が実現すれば、U-FINOはまた次の課題へ向かえばいい。そう考えている。

こうした考え方は、U-FINOが展開する取り組みに一貫して流れている。個別のイベントやマッチングを目的とするのではなく、人材、大学、スタートアップ、事業会社をつなぎ、挑戦が次々と生まれる仕組みそのものを育てること。それが目指すエコシステムづくりだ。

関西には、世界に誇る研究シーズも、ものづくり企業も、それを担う人材もある。必要なのは、それらをつなぎ、新たな挑戦が次々と生まれ、育ち、自走していく仕組みと、本気で踏み込む覚悟なのかもしれない。

この記事の編集者

PEAKSMEDIA編集チーム

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