
理化学研究所と東京大学、東北大学、住友化学などの共同研究グループは2026年6月23日、鉛を含まない強誘電性ハライドペロブスカイトの薄膜で、可視光域で大きな光電流応答を観測したと発表した。ヨウ化ゲルマニウムセシウム(CsGeI3)の高品質な薄膜を作製し、量子幾何学効果に由来する「シフト電流」が、既報の物質を1桁以上上回る性能指数を示すことを明らかにした。鉛フリーの次世代光電変換材料の開発につながる成果だ。研究成果は米科学雑誌「PNAS」のオンライン版に2026年6月22日付で掲載された。
ペロブスカイトは、ABX3の化学式で表される結晶構造の総称だ。中でも、構成元素のXがハロゲンであるハライドペロブスカイトを光吸収層に使うペロブスカイト太陽電池は、日本発の次世代太陽電池として期待を集めている。現状では鉛(Pb)を含む材料が主要な研究対象だが、鉛の環境負荷や毒性が応用上の課題となっており、鉛をスズやゲルマニウムなどで置き換えた鉛フリー材料の研究が進められている。
ゲルマニウム系のハライドペロブスカイトは、鉛フリーで環境負荷を低減できることに加え、優れた強誘電性を示す。強誘電体のように空間反転対称性が破れた物質では、電子の波動関数の量子幾何学効果に由来するシフト電流と呼ばれる光電流が発生する。シフト電流は、従来の太陽電池が使うp-n接合を必要とせずに発生し、欠陥や不純物による散乱の影響を受けにくく、超高速の応答を示す。こうした特徴から、太陽電池や光検出器の高性能化につながる光電変換の原理として期待されている。
ゲルマニウム系の一つであるCsGeI3は、大きな強誘電分極を持ち、太陽光の吸収に適したバンドギャップを備えており、大きなシフト電流の発生が見込まれる。ただし、従来の溶液法では結晶性や均一性に優れた薄膜の作製が難しく、その光電物性はほとんど明らかになっていなかった。
共同研究グループは、ハライド薄膜の成長に最適化した分子線エピタキシー装置を独自に開発した。この装置でCsGeI3の薄膜を成長させた結果、結晶方位がそろった高品質なエピタキシャル薄膜の作製に初めて成功した。作製した薄膜に光を当て、外部電圧を加えない条件で発生する光電流を測定したところ、バンドギャップに対応する約1.6電子ボルトから光電流が立ち上がり、2.9電子ボルト付近で符号が反転して、3.0電子ボルト付近で負のピークを示した。この符号反転は通常の光電流では説明できず、シフト電流に特徴的な振る舞いだ。先行研究の第一原理計算によるスペクトルとも特徴がよく一致し、観測した光電流がシフト電流であることを明らかにした。
さらに、薄膜に電場を加えて強誘電分極の向きを変えると、電場の向きに応じて光電流の大きさが可逆的に変化することも確認した。CsGeI3で観測したシフト電流応答を代表的な既報物質と比べたところ、可視光域で性能指数が1桁以上上回った。研究グループは今後、薄膜の結晶性やひずみ、強誘電ドメイン構造を精密に制御することで、シフト電流のさらなる増強や電場による光電流の制御を見込む。鉛を含まない環境調和型の材料として、次世代太陽電池や高速通信用の光検出器、テラヘルツ帯の高速光電変換デバイスなどへの応用展開が期待される。
関連情報
プレスリリース:https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2026-06-23-001
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